小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児喘息 アップデート2024

2024年11月16日 06時35分45秒 | 予防接種
日本アレルギー学会主催の研修講習会で小児喘息に関するレクチャーを聴講しました。
知識をアップデートするよい機会になりました。
主に改定されたガイドライン(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023)の内容ですね。

備忘録としてポイントをメモしておきます。
講師は手塚順一郎Dr.です。

▢「喘息と鑑別を要する疾患」に追加されたもの
・線毛機能不全症候群
・誘発性喉頭閉塞症(inducible laryngeal obstruction, ILO)…アイロと読むそうです。
・びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis, DPB)

▢ 乳幼児喘息の診断は難しい
・検査で診断できない乳幼児は診察・所見で判断せざるを得ない。従来は治療不足・過剰診断が少なからず経験されたため、積極的に診断して治療していこうという方針に舵が切られた。「診断的治療」という選択肢もある。
・5歳以下の反復性喘鳴のうち、以下を満たす例;
 ① 明らかな24時間以上続く呼気性喘鳴
 ② 3エピソード以上繰り返す
 ③ β2刺激薬(ベネトリンやメプチン)吸入後に呼気性喘鳴や努力性呼吸・酸素飽和度(SpO2)の改善が認められる
・β2刺激薬に反応が乏しいものの呼気性喘鳴を認める例に対しては「診断的治療」を用いる。
・診断的治療:重症度に応じた長期管理薬を1ヶ月間投与(喘鳴がコントロールできた時点で投与を中止)して経過観察し、増悪した場合には投与を再開して喘鳴コントロールの可否を判断する。治療を実施している間は症状がなく、中止している間に症状が再燃する場合を「乳幼児喘息」と診断する。

▢ 急性増悪(発作)の見分け方
・SpO2の目安;
 小発作: ≧ 96%
 中発作:92-95%
 大発作: ≦91%
・呼吸数の目安;
 小発作:正常〜軽度増加
 中発作:正常〜軽度増加
 大発作:増加
※ 年齢別標準呼吸数(回/分)
 0-1歳:30-60
 1-3歳:20-40
 3-6歳:20-30
 6-15歳:15-30
 15歳以上:10-30

▢ 吸入β2刺激薬は体格・体重により減らさない
…以前は、0.1mL/10kgが目安とされていましたので大きな変更です。

・吸入液;
 生理食塩水2mL または DSCG1アンプル
   +
 サルブタモール(ベネトリン®)または プロカテロール(メプチン®)
  乳幼児:0.3mL、学童以上:0.3-0.5mL
※ 小児では0.3mLを超える用量は保険適応がない

・pMDI; 
 サルブタモール(サルタノール®)またはプロカテロール(メプチン®)1-2パフ

▢ 全身性ステロイド薬の投与量と注意事項
…急性増悪(発作)時の治療3原則はは吸入+酸素+全身性ステロイド薬。
(静脈内)省略
(経口・内服)
・プレドニゾロン(プレドニン®): 1-2mg/kg/日(分1-3)
・デキサメタゾン(デカドロン®)、ベタメタゾン(リンデロン®):0.05-0.1mg/kg/日(分1-2)

注)
・最大使用量:PSL(プレドニゾロン)換算 2mg/kg/日(max 60mg/日)
・静脈内投与と経口投与で効果に差がない。
・全身性ステロイド薬の投与期間は3-5日間を目安とし、漫然と投与しない。
・投与期間が7日以内であれば中止にあたって漸減の必要はない。

▢ 重症度評価(成人と小児ではズレがある)
▶ 発作が週1回未満
 → 小児:間欠型(数回/年)、軽症持続型(1回/月以上)
 → 成人:軽症間欠型(週1回未満)
▶ 発作が1回/週以上だが毎日ではない
 → 小児:中等症持続型
 → 成人:軽症持続型

▢ 重症度評価と吸入ステロイド薬の適応
▶ 小児;
(軽症持続型)低用量(100)
(中等症持続型)中用量(200)
▶ 成人;
(軽症間欠型)低用量(100-200)
(軽症持続型)低〜中用量(200-400)



(略称)
LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬
ICS:吸入ステロイド薬
ICS/LABA:吸入ステロイド薬/長時間作用性吸入β2刺激薬配合剤
FP:フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド®)
BDP:ベクロメタゾン(キュバール®)
CIC:シクレソニド(オルベスコ®+インヘラー)
BUD:ブデソニド(パルミコート®+タービュヘイラー)
BIS:ブデソニド吸入混濁液(パルミコート吸入液®)
SLM:サルメテロール(セレベント®)
SFCFP/SLM):フルチカゾンプロピオン酸エステル/サルメテロール配合剤(アドエア®)
FM:ホルモテロール
FFCFP/FM):フルチカゾン/ホルモテロール配合剤(フルティフォーム®)

(追加)その他の吸入ステロイド薬:
・モメタゾン(アズマネックス®+ツイストヘラー)
・フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アニュイティ®+エリプタ)
・ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート®)
・フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ビランテロール(レルベア®+エリプタ)

記号ではわかりにくいので、商品名を組み合わせてみました;

・・・開業小児科医でカバーするのは「(中等症持続型)中用量(200)」までと考えられるので、

5歳以下の治療ステップ3:低用量ICS、コントロール不良なら低用量ICS/LABA
  → フルタイド/キュバール/オルベスコ100μg/日、コントロール不良ならアドエア/フルティフォーム100μg/日
6〜15歳の治療ステップ3:低用量ICS/LABA、あるいは中用量ICS
  → アドエア/フルティフォーム100μg/日、あるいはフルタイド/キュバール/オルベスコ200μg/日

となります。
変更点として、6〜15歳ステップ3の推奨では、低用量ICS/LABAが中用量ICSの上、
つまり優先されるイメージになったことですね。

これは、局所ステロイド薬(吸入、軟膏)でも十分量を長期間使用すると全身への影響(成長障害等)が無視できないことが近年報告されてきたからです。
ただ、アレルギー疾患の症状でつらい思いをして小児期を過ごすことと、成人した際の最終身長が1cm少なくなることと、どちらを取るかと問われると・・・正解はなさそうです。

小児喘息の長期管理プラン
・吸入ステロイド薬導入中の患児のコントロール不良の際のステップアップは、
 以前はステロイド増量であったが、2023年版ではステロイド/LABA混合薬を優先するよう変更された。
・ダニによるアレルギー性鼻炎を合併している例では、ダニ舌下免疫療法併用を推奨。

▢ 肺機能検査(フロー・ボリューム曲線)による気管支拡張薬反応性検査
・改善率
 (吸入後のFEV1ー吸入前のFEV1)/吸入前のFEV1 ×100
・改善量
 吸入後のFEV1ー吸入前のFEV1(mL)
 → 改善率12%以上かつ改善量200mL以上で有意な可逆性ありと判定

▢ FeNO(呼気一酸化窒素濃度)に影響を与えるもの
▶ 増加
・ウイルス性気道感染症
・アレルギー性鼻炎
・アトピー性皮膚炎
・硝酸塩が豊富な食べ物(レタス、ほうれん草など)
・気管支拡張薬
▶ 減少
・呼吸機能検査の実施
・線毛機能不全
・肺高血圧
・気管支収縮
・運動
・飲酒
・喫煙
・吸入ステロイド薬



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「食物アレルゲンの検査(IgE... | トップ | 経鼻弱毒生インフルエンザワ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

予防接種」カテゴリの最新記事