小児アレルギー科医の視線

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「小児抗菌薬適正使用支援加算」を複雑な思いで見ています。

2018年04月08日 09時33分53秒 | 感染症
 はじめにお断りしておきますが、抗菌薬とは抗生物質のことです。
 この話の基本として「抗菌薬は細菌を退治する薬物であり、ウイルスには効かない」ことをまずご理解ください。
 近年、「抗菌薬適正使用」が叫ばれ、国の施策として実施しています。
 メインの目標は「耐性菌対策」であり、これは世界規模で行われています。

 さて、2018年4月から件名の「小児抗菌薬適正使用支援加算」が発効しました。
 これは、開業医院の小児科担当医が「上気道感染症、急性下痢症には抗菌薬が必要ないことを文書をもって説明」すると計上できる加算です。
 薬を処方して治療すると報酬があるという従来のシステムの真逆で、薬を処方しないことで報酬が得られるという特殊な加算です。

 この話を始めて聞いたとき、私は複雑な思いでした。

 小児科専門医の中では、ずいぶん前から「抗菌薬適正使用」が叫ばれてきました。
 当院でも長らく「かぜの90%はウイルス感染なので抗菌薬が必要なかぜは10%、あなたはこれに該当しない」という説明を重ねてきたので、最近は「抗生物質をください」という患者さんはまれです。
 だからかかりつけ患者でこの加算対象となる患者さんはほとんどいません。
 近隣の小児科専門医も、かぜに抗菌薬をむやみに処方しない方ばかり。

 では、どんな場合に必要なのか?

 それは「今まで抗菌薬を乱用してきた小児科担当医が、適正使用を心がけるようになった」事例でしょう。
 でもそんな小児科専門医は少ないと思います。

 実際に子どもに抗生物質をたくさん処方しているのは、近隣地域では「小児科標榜医」と「耳鼻科専門医」です。
 例えば、元々の専門が小児科以外の医師が当番医を担当すると、たいていかぜの患者さんに抗菌薬が処方されています。
 また、小児の中耳炎や副鼻腔炎を診療する耳鼻科医は、かぜの段階でも予防的に抗菌薬を処方する傾向があると感じています。

 しかし、このような医師には加算できないようなシステムになっており、有効な施策とは思えません。
 条件として「小児かかりつけ診療料」「小児科外来診療料」を採用している必要があるからです。

 当院でも先日、加算第一号が発生しました。
 鼻水が出て耳鼻科を受診し、抗菌薬を含む薬を処方されましたが(中耳炎、副鼻腔炎とは言われていないそうです)、数日後に発熱したので小児科である当院を受診されました。
 診察の結果、特にこじれた所見は認めませんでした。
 治療方針は「かぜ」として対症療法で回復を待ち、現時点では抗菌薬は必要ないことを自作のプリントを渡して説明しました。
 もちろん、経過により今後抗菌薬が必要になる可能性は残っています。

 この加算が抗菌薬適正使用にどれだけの効果があるのか、今後注視していきたいと思います。



 
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