小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

宇宙飛行が脳に与える影響

2017年12月10日 21時56分46秒 | 医療問題
 無重力の宇宙空間に滞在することは、人体にいろんな影響を及ぼすと思われます。
 一番わかりやすいのが、筋力低下。
 長期間宇宙に滞在した宇宙飛行士は、地球に降り立つと自分の足では立位が保てない映像をニュースでよく見かけます。
 脳にも変化が出るのでしょうか?
 その変化をMRIで評価した報告を紹介します。
 ただ、所見のみでそれがどういう意味を持つのかの記載がありません。
 症状は出たのかな?

■ 宇宙飛行が脳に与える影響は?/NEJM
ケアネット:2017/11/13
 宇宙飛行が、脳の解剖学的構造および髄液腔へ与える影響を、MRIを用いて調べる検討が、米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らにより行われた。同影響に関する情報が限られている中で、研究グループは宇宙飛行士の長・短期ミッション前後の脳を調査した。その結果、主に長期飛行後の宇宙飛行士で、脳の中心溝の狭小化および上方偏位と、頭頂部髄液腔の狭小化が、高頻度に認められたという。所見を踏まえて著者は、「地球帰還後の飛行後画像診断を繰り返し行うなど、さらなる調査を行い、これらの変化がどれくらいにわたるものなのか、また臨床的意味について確認する必要がある」と述べている。NEJM誌2017年11月2日号掲載の報告。

長・短期飛行を担った宇宙飛行士の、飛行前後に撮影した脳MRIを比較
 検討はMRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在し長期間のミッションをこなした宇宙飛行士(長期飛行群)18例、スペースシャトルプログラムに関与し短期間のミッションをこなした宇宙飛行士(短期飛行群)16例、それぞれの脳画像をミッション前後に撮影し比較を行った。画像読影者に、飛行期間は知らされなかった。
 また、長期飛行群12例と短期飛行群6例の高解像度3次元画像を基に、飛行前後をペアとするシネMRIを作製し、髄液腔の狭小化と脳構造の偏位を評価した。
 さらに、T1強調MRI画像の自動解析を用いて、飛行前後の脳室容積の比較も行った。
 事前規定の主要解析の注視点は、中心溝の容積の変化、頭頂部髄液腔の容積の変化、脳の垂直偏位であった。

長期飛行群で脳の狭小化、上方偏位、頭頂部髄液腔の狭小化が顕著に確認
 平均飛行期間は、長期飛行群164.8日、短期飛行群13.6日であった。
 脳の狭小化は、長期飛行群17/18例、短期飛行群3/16例で認められた(p<0.001)。
 シネMRIを用いた評価では、脳の上方偏位が長期飛行群(12例)は全例に認められ、一方短期飛行群(6例)は全例で認められなかった。また頭頂部髄液腔の狭小化は、長期飛行群では全例(12例)に認められ、短期飛行群で認められたのは1/6例であった。
 長期飛行群の3例が視神経乳頭浮腫中心溝の狭小化を有していた。このうち入手できた1例のシネMRI評価では、脳の上方偏位が確認された。


<原著論文>
・Roberts DR, et al. N Engl J Med. 2017;377:1746-1753.


 この報告の解説・コメントです。
 上記所見は「無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する」「特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似」と説明しています。
 やはり病的変化のリスクもあるということでしょうか。

■ MRIに示された宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響(中川原譲二氏)
 米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らの研究者は、MRIを用いて宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響について検討し、長時間飛行後の宇宙飛行士においては、中心溝の狭小化脳の上方へのシフト頭頂での脳脊髄液(CSF)スペースの狭小化が、頻繁に生じることを報告した。これらの所見は、無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する脳構造の変化として注目される。

背景:宇宙飛行が脳の解剖学的構造およびCSFスペースに与える影響に関する情報は限られている。
方法:著者らは、MRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在することを含む長期間の任務の前後で撮像された18人の宇宙飛行士の脳の画像と、スペースシャトルプログラムへの参加を含む短期間の任務の前後に撮像された16人の宇宙飛行士の脳の画像を比較した。画像は、飛行期間を知らなかった読影者によって解読された。また、CSFスペースの狭小化の程度と脳構造の変位を評価するために、長期間飛行後の12人と短期間飛行後の6人の高分解能3次元イメージングから得られた飛行前後のMRIシネクリップを作成した。著者らはT1強調MRIの自動解析により、飛行前の脳室容積と飛行後の脳室容積とを比較した。予め定められた主要分析では、中心溝の容積の変化、頭頂におけるCSFスペースの容積変化、および脳の垂直方向への変位に焦点を当てた。

長期間飛行で中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト
結果:中心溝の狭小化は、長期間飛行群(平均飛行期間:164.8日)では18人中17人、短期間飛行群(平均飛行期間:13.6日)では、16人中3人に見られた(P<0.001)。サブグループのシネクリップでは、脳の上方へのシフトが、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られたが、短期間飛行群(6人の宇宙飛行士)では見られなかった。また、頭頂におけるCSFスペースの狭小化は、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られ、短期間飛行群では、6人中1人に見られた。長期間飛行群の3人の宇宙飛行士は視神経乳頭浮腫を呈し、3人全員に中心溝の狭窄化が見られた。これらの3人のうちの1人では、シネクリップが入手でき、シネクリップは脳の上方へのシフトを示した。
結論:中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、長期間飛行後の宇宙飛行士に頻繁に、そして優勢に起こった。これらの変化の持続時間および臨床的意義を決定するためには、地球上でしばらくしてから実施される反復するフライト後の画像を含むさらなる調査が必要である。

脳構造の変化は特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似
 長期間飛行後の宇宙飛行士に見られる中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、時にVIIP syndromeを伴うことから、ある種の髄液吸収能の障害が生じることを示唆するものである。無重力状態では、髄液よりもやや比重の軽い脳組織が上方へシフトすることにより、矢状静脈洞近傍の静脈構造の圧迫やarachnoid (pacchionian)granulationの閉塞を来たし、CSFや静脈の流出が障害され、頭蓋内圧が亢進するのかもしれない。宇宙飛行が人類にもたらす新たな医学的な問題点として、引き続き研究が必要である。大変興味深いのは、中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、高齢者の特発性正常圧水頭症(iNPH)に特徴的なMRI所見としても知られていることである。両者に同様の機序が生じているとは考えにくいが、特発性正常圧水頭症では、地球上の重力下で脳組織が上方へシフトするとすれば、脳比重が髄液よりも減少することが、その病態として考えられなくもない。無重力下の脳構造の変化は、重力下の特発性正常圧水頭症の病態診断に対して、新たな視点を提供するものとして注目される。
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2016年、エイズで子ども12万人死亡

2017年12月10日 18時35分57秒 | 小児医療
 2016年はメディアを賑わせたアフリカのHIV感染症のアウトブレイク。
 最近、話題に上ることが少なくなりましたが、2017年の状況はどうなのでしょう。

■ エイズで子ども12万人死亡 昨年、ユニセフが警鐘
共同通信社:2017年12月1日
【ナイロビ共同】国連児童基金(ユニセフ)は1日、2016年にエイズ関連で死亡した14歳未満の子どもは世界中で約12万人に上り、1時間に18人のペースで新たにエイズウイルス(HIV)に感染していたと発表した。
 1日は「世界エイズデー」。ユニセフは「エイズの流行は終わっていない。今も子どもたちの命を脅かしている」と警鐘を鳴らしている。
 ユニセフによると、母子感染の予防で進展がみられ、00年以降、約200万人の新規感染を防ぐことができた。一方、HIVに感染した可能性がある新生児のうち、生後2カ月以内に検査を受けたのは約43%にとどまるなど、子どもへの検査や治療が遅れている。
 10~19歳の若者の状況も深刻で、16年だけで約5万5千人が死亡し、サハラ砂漠以南のアフリカ出身者が約91%を占めたという。
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砂糖の有害性、業界団体が50年隠す?

2017年12月10日 09時14分37秒 | 医療問題
 臭いものには蓋をする・・・いつの時代も権力を握る一部の人がとる常套手段です。
 内容によると「でんぷんの炭水化物に比べ、砂糖は心臓に有害だとする研究発表が1960年代に出始めた。懸念した財団幹部が68年、英バーミンガム大の研究者に資金提供して、ラットで影響を調べたところ、砂糖の主成分のショ糖を与えると、動脈硬化と膀胱(ぼうこう)がんにかかわる酵素が多く作られる」そうです。

 糖尿病ではなく“がん”ですか・・・。

■ 砂糖の有害性、業界団体が50年隠す? 米研究者が調査
2017年11月22日:朝日新聞
 砂糖の取りすぎの有害性について指摘しようとした研究を、米国の砂糖業界が50年前に打ち切り、結果を公表しなかった――。こんな経緯を明かした論文が21日付の米科学誌「プロス・バイオロジー」(電子版)に掲載された。業界が利益を守るために否定的な研究を隠すことで、長期間にわたり消費者をだましてきたとしている。
 米カリフォルニア大サンフランシスコ校の研究者が、米イリノイ大などに保管されていた業界団体「糖類研究財団」(現・砂糖協会)の内部文書を調べ、明らかにした。
 論文によると、でんぷんの炭水化物に比べ、砂糖は心臓に有害だとする研究発表が1960年代に出始めた。懸念した財団幹部が68年、英バーミンガム大の研究者に資金提供して、ラットで影響を調べたところ、砂糖の主成分のショ糖を与えると、動脈硬化と膀胱(ぼうこう)がんにかかわる酵素が多く作られることが分かった。腸内細菌の代謝により、コレステロールや中性脂肪ができることも確認できそうだった。
 研究者は確証を得るため、研究の延長を求めたが、財団は資金を打ち切り、成果は公表されなかったという。70年の内部報告で、当時の幹部は「研究は業界にとって有益で意義のある情報を引き出すべきだ」と述べ、有害性を示唆した研究の価値は「無」だとしている。
 今回の論文について砂糖協会は「50年前の出来事について、推測と仮定をまとめたものだ」と批判。研究の存在は認めつつ、予算や期限が超過したため打ち切られたとしている。(ワシントン=香取啓介)


 もう一つ砂糖関係の記事を紹介します。
 「糖尿病」はわかりやすいですが、「高血圧」のリスクにもなるのですね。
 缶コーヒーマニアの私には、耳が痛い・・・。
 リンゴそのものを食べることと、リンゴジュースを飲むことの比較が興味深い。
 「1日の終わりに飲む水分は糖分が含まれない水にするのが良い」は座右の銘にもなりそうです。

■ 加糖飲料で2型糖尿病や高血圧リスクが上昇
2017/11/23:ケアネット
 近年では生活習慣病対策の一環として、糖類を多く含んだ加糖飲料に課税する国も増えている。「Journal of the Endocrine Society」11月2日オンライン版に掲載されたレビュー論文によると、加糖飲料はやはり肥満の原因となるだけでなく、2型糖尿病や高血圧のリスクを高める可能性のあることが明らかにされた。
 研究を率いたステレンボッシュ大学(南アフリカ)のFaadiel Essop氏は「複数の研究で、加糖飲料を週に2杯飲むだけでもメタボリック症候群や糖尿病、心臓病、脳卒中のリスクを上昇させることが示されているほか、ある研究では加糖飲料を1日1杯飲むと高血圧リスクが高まることが示されていた」と述べている。同氏は、特に加糖飲料により10代の若者の血圧が上昇することに懸念を示している。
 この研究では、加糖飲料の摂取頻度がメタボリック症候群や糖尿病前症、2型糖尿病、高血圧の発症リスクに及ぼす影響を調べた、過去10年間に発表された36件の研究をレビューした。
 その結果、解析対象とされた研究の結果にはばらつきがみられたものの、ほとんどの研究で加糖飲料の定期的な摂取とメタボリック症候群や2型糖尿病リスクとの関連が示されていた。また、加糖飲料の摂取頻度は高血圧リスクとも関連していた。なお、こうした研究の多くは、加糖飲料を週に5杯以上飲む人を対象としていた。
 Essop氏は、メタボリック症候群のリスクが上昇する原因が加糖飲料にあるのかどうかは明らかではないとしつつも、「加糖飲料の摂り過ぎはウエスト周囲長の増大や肥満のほか、インスリン抵抗性や慢性炎症、脂質異常症、高血圧とも関連していた」と述べている。また、同氏によると、摂取カロリーが同じでも加糖飲料では固形物を食べた時のような満腹感が得られにくいことも、食べ過ぎや飲み過ぎにつながる可能性があるという。
 米モンテフィオーレ医療センター臨床糖尿病センター長を務めるJoel Zonszein氏は、果物を例に挙げて、「リンゴには糖分も多く含まれるが、食物繊維が多いため満腹感が得られやすい。一方で、1杯のリンゴジュースにはリンゴ3~4個分の糖分が含まれており摂取すると血糖値が跳ね上がるが、食物繊維は含まれていないため満腹感は得られない」と説明している。
 米国糖尿病学会(ADA)のWilliam Cefalu氏は専門家の立場から、「今回のレビューで対象とされた研究は観察研究であるため因果関係が証明されたわけではないが、糖尿病の有無にかかわらず、1日の終わりに飲む水分は糖分が含まれない水にするのが良いだろう」とアドバイスしている。
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米国人が受ける医療、5割が「救急外来」

2017年12月10日 08時29分43秒 | 医療問題
 アメリカの医療事情の一端がうかがえる報告を紹介します。
 同じ統計を取ると、日本ではどうなのでしょう。

 おそらく、アメリカでは医療費が高いので「我慢していたけどもう限界」というレベルまで待って初めて医療機関へ向かうという構図と思われます。
 予防接種も保険診療であり、アメリカはご存じの通り国民皆保険ではないので、任意保険に入っていない人は受けにくいという事情もあります。

■ 米国人が受ける医療、5割が「救急外来」
2017/11/24:ケアネット
 全米の診療データベースを用いた研究から、2010年に米国で提供されている医療の約5割を救急医療が占めていたことが明らかになった。研究を実施した米メリーランド大学医学部救急医学准教授のDavid Marcozzi 氏は「現在の米国の医療システムにおいて、救急科が重要な役割を担っていることが浮き彫りになった」としている。詳細は「International Journal of Health Services」10月17日オンライン版に掲載された。
 Marcozzi 氏らは今回、全米を網羅した複数の病院診療データベースを用い、1996~2010年のデータを分析した。その結果、14年間の一般外来、入院、救急科を合わせた受診件数は35億件超で、この間に救急科の受診件数が約44%増加していたことが分かった。また、2010年の受診件数は一般外来が1億100万件、入院が3,900万件であったのに対し、救急科は約1億3,000件と全体の約5割を占めていた。
 さらに、救急科を受診する患者を人種別にみると、黒人の割合が最も高かった。2010年には黒人が利用した医療サービスの54%を救急医療が占めていた。この割合は都市部の黒人では59%とより高かった。
 このほか、メディケア(高齢者向け公的保険)およびメディケイド(低所得者向け公的保険)の加入者も、救急科の受診率が高かった。また全体の医療に占める救急医療の割合は北東部(39%)に比べて南部で54%、西部で56%と高く、地域差も認められた。
 Marcozzi 氏は「この研究結果には愕然としたが、米国医療の現状について理解する手掛かりが得られた」と話し、特に黒人や公的保険の加入者で救急科の受診率が高いことについて「こうした社会的弱者で救急医療を利用する人が多いのは、医療アクセスの格差に起因しているのではないか」との考えを示している。


<原著論文は>
・Marcozzi D, et al. Int J Health Serv. 2017 Jan 1.
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130/80以上は高血圧(米国のガイドライン)

2017年12月08日 17時26分48秒 | 医療問題
 血圧に関する議論が活発化しています。
 日本では高血圧の定義は「140/90」以上でした。
 今回、米国のガイドラインは「130/80」に下げました。
 すると、高齢者の多くは治療対象となります・・・と思いきや、併存疾患がなければ非薬物療法(体重の減少、健康的な食事(DASH食、食塩摂取量の減少、カリウム摂取量の増加など)、身体活動の増加、飲酒量の減少)を推奨するとの内容ですね。
 早期から高血圧予備軍として自覚を促し、生活習慣を見直すという目的が垣間見えました。

■ 高血圧の定義を130/80に厳格化 〜AHA/ACC高血圧GL改訂
2017年11月16日:メディカル・トリビューン
 米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)は、2003年に公表された米国高血圧合同委員会第7次報告(JNC-7)の改訂版となる高血圧の予防、検出、評価、管理のためのガイドライン(以下、新GL)を米国心臓協会学術集会(AHA 2017、11月11~15日)で発表した。これまでJNC-7では140/90mmHg以上を高血圧と定義※していたが、新GLでは130/80mmHg以上に引き下げられた。これにより、米国で高血圧と診断される成人が14%増加するが、そのうち降圧治療が必要な患者は約5分の1であるという。ガイドライン全文はHypertension(2017年11月13日オンライン版)に掲載された。

"Prehypertension"の分類を"Elevated"に変更
 新GLでは、従来の定義による高血圧(140/90mmHg以上)はステージ2の高血圧に分類される。前高血圧(Prehypertension)の分類はなくなり、収縮期血圧(SBP)120~129mmHgかつ拡張期血圧(DBP)80mmHg未満の血圧分類に"Elevated"の用語が採用された(表)。

表.新GLの血圧分類

(Hypertension 2017年11月13日オンライン版)

 新GLでは、診断には正確な血圧測定が不可欠であるとして、2機会2回以上の測定の平均値を使用するよう推奨している。また、白衣高血圧や仮面高血圧を検出するための補助手段として、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)と家庭血圧測定(HBPM)にも言及している。

ライフスタイルの変更による早期管理を重視
 新たな高血圧の定義に従うと、米国における高血圧の有病率は従来の32%から46%に上昇するが、大部分には非薬物療法が推奨されるという。新GLでは、ライフスタイルの変更などの非薬物療法による、より早期からの管理の重要性を強調しており、「体重の減少、健康的な食事(DASH食、食塩摂取量の減少、カリウム摂取量の増加など)、身体活動の増加、飲酒量の減少が最も重要である」としている
 ステージ1の高血圧に対しては、「血圧に加えて、今後10年間の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを"ASCVD Risk Calculator"で算出し、リスクが10%を超える場合または併存疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性腎臓病)がある場合のみ降圧薬を処方する。リスクが10%未満の場合は、まずライフスタイルの変更を推奨し3~6カ月後に再評価する」としている。

GL改訂の基礎にSPRINT試験
 薬物療法に関しては、第一選択薬としてサイアザイド系利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を推奨し、「高血圧患者の大部分では複数の降圧薬を併用する必要があり、特定の組み合わせの有効性が示されている」としている。
 また、「1つ以上の併存疾患を有する患者、妊婦を含む女性、高齢者、小児では高血圧管理の内容を調節するよう配慮すべきであり、人種/民族による差も考慮すべきである」との見解を示している。
 米国立心肺血液研究所(NHLBI)などの支援を受けて実施された大規模臨床試験Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)では、全米約100カ所の医療施設で心疾患リスクが高い50歳以上の高血圧患者9,300例超を対象に、従来よりも厳格な降圧目標値についての検証が行われた。SBP120mmHg未満を目指した厳格降圧群が140mmHg未満を目指した標準降圧群に比べて,心血管イベントリスク、全死亡リスクともに有意に低下させた。新GLの重要項目は、同試験の結果に裏付けられている。


※ 2013年に発表されたJNC-8でも140/90mmHgを高血圧以上と定義、年齢とリスク別に降圧目標を設定
(関連記事:「JNC-8ついに発表,"60歳以上の降圧目標は150/90未満」など9つの勧告"」)


 上記記事の解説です。

【解説】わが国でこそ徹底した降圧を 〜AHA/ACC高血圧ガイドライン改訂のわが国への影響
自治医科大学循環器内科主任教授 苅尾七臣
2017年11月24日:メディカル・トリビューン
〔編集部から〕米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)の高血圧ガイドラインが改訂され、高血圧の定義が従来の140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に厳格化された(関連記事「高血圧の定義を130/80に厳格化」)。定義の厳格化により、米国では高血圧患者および降圧治療が必要な患者の数が増加することが想定される。米国での改訂が、現在わが国で改訂中の高血圧ガイドラインに及ぼす影響はあるのだろうか。自治医科大学循環器内科主任教授の苅尾七臣氏に解説してもらった。

より早期の認定・診断でイベントを抑制
 今回のAHA/ACCガイドライン改訂で示された明確な方向性は、より早期から、24時間にわたり、血圧レベルを低い状態に保つことの徹底的な加速である。したがって、できるだけ早期から、血圧の上昇を高血圧と認定・診断し、将来のイベント発生に抑制をかけようとするものである。 

高齢者も例外とせず130/80mmHgに
 今回の改訂では、高血圧の診断と治療目標となる血圧レベルを全て130/80mmHgに引き下げた。降圧目標のレベルは、高齢者においても例外とせず、130/80mmHg未満へのより低い血圧へのコントロールを推奨している。
 SPRINT試験の成績(N Engl J Med 2015; 373: 2103-2116)と、ランダム比較試験のメタ解析の成績(Lancet 2016; 387: 957-967)が発表されて、今回、高血圧の管理目標が一変するであろうことは予測できた(Nat Rev Cardiol 2016; 13: 125-126)。循環器イベントの発生は一日にしてならず、しかし、発症は非連続である。病的な著しい血圧上昇(血圧サージ)のあるところに循環器疾患のリスクがある。血圧は循環器疾患の進展と発症の全過程に強く関わることから、血圧をより低いレベルに保つことで、血管障害の進展が抑制され、血圧サージによるイベントのトリガーが回避される。

パーフェクト24時間降圧を重要視
 これまで、わが国の高血圧治療ガイドライン(JSH2014)では、家庭血圧に基づく個別診療を強く推奨し、さらに必要に応じて、24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring: ABPM)の活用を推奨してきた。今回のACC/AHAガイドラインでは、家庭血圧およびABPMの高血圧診断と降圧治療における位置付けを、さらに明瞭化し、白衣高血圧、仮面高血圧、持続性高血圧の血圧閾値を画一化的に130/80mmHgへ引き下げた。また、夜間血圧の治療目標レベルも明記され、110/65 mmHgへ引き下げられている。つまり、24時間にわたる厳格な降圧の達成が、より低い基準値をもって推奨されたことになる。 

アジア諸国へのインパクト
 近年、われわれはWorld Hypertension Leagueの支持を得て、アジアにおける循環器イベント・ゼロおよび高血圧管理・臓器保護の改善を目指して、①これまでのエビデンスをまとめ②コンセンサスを形成し③臨床研究を行うグループHOPE Asia Network (Hypertension, Brain, Cardiovascular and Renal Outcome Prevention and Evidence in Asia) 学術活動―を始めている(Kario K. The HOPE Asia Network for 'zero' cardiovascular events in Asia. J Clin Hypertens 2017, in press)。
 アジア諸国の最も重要な特徴は、①高血圧とより関連の強い脳卒中や非虚血性心不全が多く、さらに②循環器リスクとしての血圧のインパクトが、欧米諸国よりもより強いことが挙げられる(前掲論文)。したがって、ACC/AHAガイドラインの方向性はアジア人においてこそ有用と考えられる。

新規ガイドラインを明日から実地臨床へどう生かすか
 実地診療における最初の一歩は、早朝家庭血圧の自己測定と厳格なコントロールの徹底である。
 次のステップとして、さらにハイリスクの高血圧患者、すなわち夜間高血圧が疑われる慢性腎臓病、糖尿病、睡眠時無呼吸合併例、心血管イベントの既往患者や、血圧変動が著しい患者では、ABPMや夜間家庭血圧計を活用し、全ての時間帯で血圧コントロールを目指すことが、循環器イベント・ゼロへの正しい方向性である(Prog Cardiovasc Dis 2016; 59: 262-281Prog Cardiovasc Dis 2017年11月3日オンライン版)。
 今回のAHA/ACCガイドラインの改訂により、高血圧患者と血圧コントロール不良患者の該当者は増加するが、必ずしも降圧薬による治療強化を推奨するものではない。まずは、生活習慣の徹底した自己修正を指導することが肝要である。 

日本高血圧学会・高血圧治療ガイドラインへの期待
 現在、わが国でも日本高血圧学会が中心となり高血圧治療ガイドラインを改訂中である。ACC/AHAガイドラインが示す徹底した降圧は、わが国においてこそ重要である。システマチックレビューにより最新エビデンスを総括し、専門家のコンセンサスを加えた、わが国独自のより的確な総括的リスク管理ガイドラインが期待される。
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小児喘息への抗コリン薬追加で呼吸機能改善

2017年12月08日 16時49分08秒 | 気管支喘息
 喘息発作の治療薬には2種類あります。
 ひとつは交感神経を刺激して収縮していた気管支平滑筋を弛緩させる「β-刺激薬」。
 もうひとつは、副交感神経を遮断して気管支平滑筋を収縮させない「抗コリン薬」。

 現在メインで使用されているのはβ-刺激薬です。
 が、ときどき抗コリン薬が話題になります。
 今から15年くらい前にも、ちょっとブームになったと記憶しています。
 他の薬剤でコントロール不良の難治性喘息に抗コリン薬を追加したら効果があったという位置づけ。

 下記報告の中の「チオトロピウム」とはスピリーバ®のことです。

■ 小児喘息への抗コリン薬追加で呼吸機能改善【海外短報】
2017年11月30日:メディカル・トリビューン
 小児の重症喘息に対するチオトロピウム(吸入抗コリン薬)追加は呼吸機能の改善に有効であると、国際共同研究グループがJ Allergy Clin Immunol(2017; 140: 1277-1287)に発表した。
 成人および思春期の中等症~重症喘息患者を対象にした試験で、吸入ステロイド薬(ICS)単独または他の維持療法との併用へのチオトロピウム追加の有効性が示されている。同グループは、小児の重症症候性喘息に対するチオトロピウム追加の有効性と安全性を評価する初めての第Ⅲ相ランダム化比較試験を実施した。
 同試験には17カ国の92施設が参加。高用量ICS+1種類以上のコントローラー(長期管理薬)または中用量ICS+2種類以上のコントローラーを使用している6~11歳の401例をチオトロピウム5μg吸入群、同2.5μg吸入群またはプラセボ吸入群に割り付け、1日1回12週間投与した。
 その結果、プラセボ群と比べてチオトロピウム5μg群では、主要評価項目である投与後3時間以内の最大1秒量の有意な改善が認められた(5μg群139mL、P<0.001、2.5μg群35mL、P=0.27)。また、5μg群ではトラフ1秒量も改善した(5μg群87mL、P=0.01、2.5μg群18mL、P=0.59)。チオトロピウムの安全性と忍容性はプラセボと同等であった。
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糖質制限の是非

2017年12月08日 16時32分46秒 | 医療問題
 ブームとも言える「糖質制限」。
 反対派の意見も聞きましょう。
 と思って下記記事を読んでみたら、「腎機能が低下している人は要注意」だそうで、まあ当たり前と言えば当たり前ですね。
 糖質制限をすると必然的にタンパク質摂取量が増え、タンパク質代謝物の排泄は尿からなので腎臓に負荷がかかるというカラクリです。

 「糖質制限によるダイエット効果は長期には認められない」という報告には根拠が示されていませんので、今ひとつ納得できかねます。
 「糖質制限では死亡率が高くなる」という報告では、「植物性たんぱく質を多く摂取することで解消される」とあり、動物性たんぱく質だけを食べるのはよくないことがわかります。
 植物性たんぱく質とは・・・身近では大豆ですね。

■ 糖質制限は短期効果あるも長期不良か
2016年06月24日:メディカル・トリビューン
 京都府立医科大学大学院内分泌代謝内科学教授の福井道明氏は、第59回日本糖尿病学会年次学術集会(5月19~21日、会長=京都大学大学院糖尿病・内分泌・栄養内科学教授・稲垣暢也氏)のシンポジウム「食事療法の新たなエビデンスを求めて」において低炭水化物食のエビデンスとその功罪を中心に述べ、短期的には減量効果などが認められるが、長期的には生命予後が悪化する可能性もあるとした。

希少糖プシコースに耐糖能改善作用
 福井氏はまず、希少糖の一種でノンカロリーかつ甘味度が砂糖の7割程度の「D-プシコース」が血糖値の上昇を抑え、脂肪蓄積抑制作用やインスリン抵抗性改善作用があることを示した。1〜2年後には大量生産の道が開け、既存の人工甘味料に取って代わる可能性を示唆した。一方、フルクトースは肝臓の脂肪化を亢進させてインスリンの抵抗性を高め、炎症を引き起こすともいわれ、過剰摂取は避けるべきと指摘した。人工甘味料については、マウスに摂取させると腸内細菌叢の変化により耐糖能が悪化するとのデータを示し、今後このようなエビデンスが続けば摂取の推奨を検討する必要があるとした。

糖質制限は腎機能低下例には不向き
 次に、低炭水化物食のエビデンスとその功罪について述べた。
 低炭水化物食群と低脂肪食群で体重に与える影響を比較した研究(Arch Intern Med 2006)を示し、開始後半年間は低炭水化物食群で有意に体重が減少していたが、1年後では両群に有意差はなかったことから、低炭水化物食は減量のため短期的に実施するのが望ましいとした。
 低炭水化物食にすると蛋白質や脂質の摂取は増えるが、高蛋白質摂取が腎機能に与える影響を検討した研究(Ann Intern Med 2003)を紹介。軽度腎機能障害例では、蛋白質摂取の増加により推算糸球体濾過量(eGFR)の有意な低下が見られた(表)。このことから、福井氏は「糖尿病腎症3期例には低炭水化物食を勧めてはならない」と強調した。
 低炭水化物食の長期の安全性を検討した研究(Ann Intern Med 2010)を示し、低炭水化物食を導入すると死亡率が増えたことを明らかにした。炭水化物摂取割合を10段階でスコア化して検討すると、男女とも炭水化物摂取量が少なくなるほど死亡率は有意に高まった。しかし、植物性蛋白質を多く摂取した場合は逆に死亡率が低下した。「低炭水化物食を指導する場合は蛋白質や脂肪の質を考慮して行うべき」とした。
 以上から、同氏は「低炭水化物食の適応は腎機能正常の肥満者が好ましく、食物繊維・ビタミン・ミネラルが不足しないよう野菜を十分摂取し、脂質や蛋白質の質も考慮した食事指導が望ましい」と述べた。

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“Nature”誌がHPVワクチン反対派を論理的に糾弾した村中璃子氏を表彰

2017年12月02日 08時30分12秒 | 予防接種
 理系の人には常識ですが、“Nature”誌は世界中数ある科学雑誌の中の最高峰(インパクト・ファクター第1位)です。

 これを受けて、日本の厚生労働省は動くのでしょうか。
 注視すべし。

■ 海外の一流科学誌「ネイチャー」 HPVワクチンの安全性を検証してきた医師・ジャーナリストの村中璃子さんを表彰
 ネイチャーは日本の状況を、「このワクチンの信頼性を貶める誤った情報キャンペーンが全国的に繰り広げられた」と厳しく批判。
2017/12/1 :岩永直子:BuzzFeed News Editor, Japan
 HPVワクチンの安全性を検証する発信を続けてきた医師でジャーナリストの村中璃子さんが11月30日(ロンドン時間)、イギリスの一流科学誌「ネイチャー」元編集長の功績を記念したジョン・マドックス賞を受賞した。同賞は公共の利益のために科学や科学的根拠を広めることに貢献した人に贈られている。
 ネイチャーは、HPVワクチンについて、「子宮頸がんやその他のがんを防ぐ鍵として、科学界や医療界で認められ、WHO(世界保健機関)に支持されている」と評価。
 その上で、

 「In Japan the vaccine has been subject to a national misinformation campaign to discredit its benefits,resulting in vaccination rates falling from 70% to less than 1%(日本においては、このワクチンの信頼性を貶める誤った情報キャンペーンが全国的に繰り広げられた。その結果、接種率は70%から1%未満に落ち込んだ)」と指摘し、日本の状況を厳しく批判した。

 そして、村中さんの言論活動を「困難や敵意に直面しながらも、公共の利益のために科学や科学的根拠を広めた」と評価し、25か国、100の候補者の中から選んだとしている。
 村中さんは、「人の命を脅かす言説を放置できないし、真実を伝えることが役割だと思って書いてきた。今回の受賞が、日本では止まってしまったHPVワクチンについての議論を外から動かす“黒船”になれば嬉しい」とBuzzFeed Japan Medicalの取材に話している。

◇ 接種後の体調不良の声相次ぎ 国は積極的に勧めないように
 HPVワクチンは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐワクチンだ。
 日本では、2013年4月に小学6年生から高校1年生の女子を対象に公費で打てる定期接種となったが、注射後に痛みやけいれんなど多様な症状を訴える声が相次ぎ、同年6月に国は積極的に国民に勧めることを停止した。
 この頃からマスメディアは、けいれんや痛みを訴える女の子を積極的に取り上げ、「怖いワクチン」というイメージが世の中に広く浸透。ほとんど接種する人がいなくなった。
 村中さんも2014年頃、テレビでけいれんする女の子を見て、「これは薬害なのか?」と疑いを持って取材を始めたという。
 ところが、小児科医や小児精神科医を取材したところ、ワクチンを打っていなくても、思春期特有の症状として同様の症状を訴える子供が多いことに気づく
 1年ほど取材を重ね、2015年10月から、雑誌「ウェッジ」などに、HPVワクチン接種後の多彩な症状は薬害ではないのではないかと科学的に検証する記事を次々に発表していった。
 「多くの医師からよくぞ言ってくれたという声が届き、書いた後に皆が心配していたテーマだったのだと気づきました。みんな声を上げようとしても、薬害を訴える人たちから攻撃を受けるのを恐れています。実際に、記事が出た後、『村中はワクチンメーカーから金をもらって書いている』という根も葉もない噂が流され、抗議の電話が厚生労働省にも殺到したと聞きました」

◇ 訴訟を起こされ、仕事も激減
 厚労省は、接種後の症状に苦しむ人のために全国に診療体制を整えたほか、治療法を探るために二つの研究班を設置した。
 そのうちの一つ、池田修一・信州大学医学部長(当時)を班長とする通称「池田班」が行った2016年3月の研究内容の発表に、「捏造行為があった」と指摘する記事を書いたのも村中さんだ。
 池田班が行っていたのは、HPVワクチンの成分が脳に障害をもたらすという「薬害」を仮定した研究。その基礎的なメカニズムを明らかにするマウス実験で、自説に都合の良いデータを恣意的に選ぶ不正が行われたと指摘した。
 信州大の調査をもとに、厚労省が後に「池田氏の不適切な発表により、国民に対して誤解を招く事態となった」と異例の見解を公表する事態となったが、池田氏は村中さんやウェッジらに対し、名誉を毀損されたとして訴訟を起こした。
 この問題について、池田氏側は研究班長として他のメンバーの実験内容を発表しただけで、実験内容には関与していないため、捏造ではないと主張している。
 この研究発表の直後には、薬害であると訴える人たちによって、国や製薬会社に損害賠償を求める集団訴訟も全国で起きた。
 「訴訟以降は、HPVワクチンについては書かないという空気がメディアに広がり、当時持っていた3つの連載は全て切られてしまいました。私は、『薬害を薬害でないと言っている悪者』と位置付けられ、ほとんどメディアで記事を発信することができなくなりました」
 これについても、ネイチャーは、「訴訟で彼女の口を封じようとし、彼女の専門家としての地位を貶めようとする動きに直面しながらも、このワクチンの安全性について科学的根拠を明らかにし続けた。これにより、科学的根拠を重視することが日本人だけでなく世界の公衆衛生に対しても役立つということを保証してきた」と論評している。
 アイルランドやデンマークでも薬害を訴える人の運動をマスメディアが広く報道することで接種率が激減する事態が起きており、世界共通の問題となっている。

◇ 日本での議論に弾みを
 厚労省はワクチンの安全性を検証する検討会で、ワクチン接種後の体調不良の多くは、心理的・社会的な要因が関連する心身反応(機能性身体障害)と結論づけている。
 さらに、厚労研究班(祖父江班)が行った全国疫学調査で、ワクチンを打っていない人でも、接種後に体調不良を訴える女子と似た多様な症状が見られることが明らかにされた。
 日本小児科学会や日本産科婦人科学会など17の関連学術学会は2016年4月に、積極的な接種を推奨する見解を発表。ワクチンの有効性は国内の研究でも徐々に明らかにされていっている
 一方、ワクチン接種の機会が与えられないことが長引く中、子宮頸がんの発症リスクはワクチン導入前のレベルに戻っているという研究報告も出始めている。
 WHOも2015年12月に「若い女性たちはワクチン接種によって予防しうるHPV関連のがんに対して無防備になっている。弱い科学的根拠に基づく政策決定は、安全かつ有効なワクチンを使用しないことにつながり、実害をもたらしうる」と日本を名指しで批判。今年7月にも改めて「HPVワクチンと様々な症状との因果関係を示す根拠は今のところない」「HPVワクチンは極めて安全」という見解を公表した。
 それでも、国は積極的な接種勧奨を再開するかどうか、判断を先送りしたままだ。
 村中さんは、「これだけ書いてきたのに、何も状況が変わっていないのを見ると無力だなと思います」と語り、「どんな判断材料があったら再開するのか、国が判断を示せないでいるのが一番の問題です。国は国民の命に責任を持たなくてはいけないはずです」と訴える。
 また、メディアの責任についても、「被害を訴えている人の側から書くのが楽だし、売れるのでしょうが、真実は何であるのかという判断を放棄しています。サイエンスを一般にわかりやすく伝えるのはメディアの役割で、正しく伝えることがもっとも大切です」と批判する。
 今回の賞に村中さんを推薦した日本産婦人科医会会長の木下勝之さんは、「この受賞が、HPVワクチンを日本社会で使うことを推進していくために、厚労省に強いインパクトを与えると信じている。さらに、このワクチンがもたらす多大な公共の利益に疑念を抱く医療の専門家やジャーナリストに対し、この表彰が考えを改めさせるのに役立つよう願う」とコメントしている。


 村中さんはHPVワクチンに関する自分の調査内容と考えをまとめた本を出版しようとしましたが、すべての出版社から断られたと聞いています。
 出版社は“売れる本”にしか興味がないのです。
 そして“売れる本”とは、他人の悪口・批判する内容と相場が決まっています。
 例えばこれ

 しかし村中先生の努力が稔り、ようやく出版にこぎ着けました(「10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか」平凡社、2018年発行予定)。
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「糞便移植」は確立した治療法と言えるだろうか?

2017年12月01日 10時19分32秒 | 医療問題
 健康な他人のウンチを病人の腸に入れる「糞便移植」。
 効果が報告される一方で、テレビで放送されそのインパクトが先走っている印象がなきにしもあらず。
 ちょっと立ち止まって、冷静に判断しましょう・・・という報告を紹介します。

■ 腸内細菌は本当に効いた? 〜糞便移植の研究で報告されていなかったこと
執筆者:大脇 幸志郎
2017.05.29:Annals of internal medicineから:MEDLEY
 ほかの人の便ごと腸内細菌を移植することが、病気の治療として研究されつつあります。しかし、研究結果を理解するために必要な要素の欠けた報告が多いことが、研究報告の調査によってわかりました。
◇ 糞便移植の研究報告の実態を調査
 フランスなどの研究班が、糞便移植の研究がどのように報告されているかを調査し、結果を医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。
 研究班は、文献データベースを検索して、糞便移植の効果や安全性を調べた研究の報告を集めました。
◇ 糞便移植とは?
 腸内細菌は体の免疫のしくみに関わっています。いくつかの病気にともなって腸内細菌も変化することが知られています。糞便移植は、ほかの人(ドナー)の便を患者の腸の中に移植することで腸内細菌を移植し、病気を治療しようとする方法です。

★ 関連記事「抗生物質が効かなかった人が9割治った!腸内細菌を活用する糞便移植の効果

◇ 細菌の中身がわからない報告が58%
 調査により次の結果が得られました。

見つかった85件の出版された報告の大部分(84%)が、糞便微生物叢移植をクロストリジウム・ディフィシル感染症または炎症性腸疾患に対して位置付けており、大部分(87%)が非ランダム化対照試験だった。

 論文として出版された研究報告が85件見つかりました。そのうち84%で、糞便移植はクロストリジウム・ディフィシル感染症(偽膜性腸炎など)または炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)の治療として試されていました。
 通常、治療の効果を調べる研究では、対象者をランダムに振り分け、試したい治療をするか、比較のため別の治療をする(有効成分のない偽薬を使うなど)かのどちらかとします。この方法をランダム化対照試験と言います。ここで見つかった研究報告のうち87%は、ランダム化対照試験ではない方法によるものでした。
 報告の内容について次の結果がありました。

出版された研究の中で報告されていなかった、重要な方法論上の構成要素には次のものがあった。ドナーの適格基準(47%)、糞便を採取するための材料と採取時期(96%)、糞便を保存するための方法(76%)、使用した糞便の量と種類(たとえば、新鮮なのか冷凍なのか)および保存期間(67%)。多くのもの(58%)が微生物叢の構成の分析を報告していなかった。

 報告のうち47%が、便のドナーを選んだ基準を報告していませんでした。
 便を採取するのにどんな道具を使ってどの時期に採取したかは96%が報告していませんでした。
 便を保存する方法は76%が報告していませんでした。
 移植した便の量・種類、保存した期間は67%が報告していませんでした。
 腸内細菌にはどんな細菌が含まれていたかを分析した結果は、報告していないものが58%でした。
 この研究の限界として、研究班は「糞便微生物叢移植にとって最も重要な方法論上の構成要素は何かについて統一的な合意がないこと、また研究が実際にどのように行われたか、出版のプロセスが報告の完全性に影響したかどうかを評価できないこと」を挙げています。

本当に「確かめられている」のか?
 糞便移植の研究報告についての調査を紹介しました。
 研究の方法が適切に報告されていることは、結果を理解するために必要です。
 同じ糞便移植という言葉を使っていても、報告によってやり方が違っていれば、実は別のものを一緒に考えていたということにもなりかねません。また、腸内細菌を変化させることが理論的な前提になっているのに、糞便移植によって実際に腸内細菌が変化したかどうかを確かめられなければ、理論を検証することもできません。
 これまでに報告されている糞便移植の研究については、報告によって正確に何が確かめられるのかに注意して理解する必要があるかもしれません。


<参考文献>
Methods and Reporting Studies Assessing Fecal Microbiota Transplantation: A Systematic Review.
Ann Intern Med. 2017 May 23
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