無重力の宇宙空間に滞在することは、人体にいろんな影響を及ぼすと思われます。
一番わかりやすいのが、筋力低下。
長期間宇宙に滞在した宇宙飛行士は、地球に降り立つと自分の足では立位が保てない映像をニュースでよく見かけます。
脳にも変化が出るのでしょうか?
その変化をMRIで評価した報告を紹介します。
ただ、所見のみでそれがどういう意味を持つのかの記載がありません。
症状は出たのかな?
■ 宇宙飛行が脳に与える影響は?/NEJM
(ケアネット:2017/11/13)
宇宙飛行が、脳の解剖学的構造および髄液腔へ与える影響を、MRIを用いて調べる検討が、米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らにより行われた。同影響に関する情報が限られている中で、研究グループは宇宙飛行士の長・短期ミッション前後の脳を調査した。その結果、主に長期飛行後の宇宙飛行士で、脳の中心溝の狭小化および上方偏位と、頭頂部髄液腔の狭小化が、高頻度に認められたという。所見を踏まえて著者は、「地球帰還後の飛行後画像診断を繰り返し行うなど、さらなる調査を行い、これらの変化がどれくらいにわたるものなのか、また臨床的意味について確認する必要がある」と述べている。NEJM誌2017年11月2日号掲載の報告。
長・短期飛行を担った宇宙飛行士の、飛行前後に撮影した脳MRIを比較
検討はMRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在し長期間のミッションをこなした宇宙飛行士(長期飛行群)18例、スペースシャトルプログラムに関与し短期間のミッションをこなした宇宙飛行士(短期飛行群)16例、それぞれの脳画像をミッション前後に撮影し比較を行った。画像読影者に、飛行期間は知らされなかった。
また、長期飛行群12例と短期飛行群6例の高解像度3次元画像を基に、飛行前後をペアとするシネMRIを作製し、髄液腔の狭小化と脳構造の偏位を評価した。
さらに、T1強調MRI画像の自動解析を用いて、飛行前後の脳室容積の比較も行った。
事前規定の主要解析の注視点は、中心溝の容積の変化、頭頂部髄液腔の容積の変化、脳の垂直偏位であった。
長期飛行群で脳の狭小化、上方偏位、頭頂部髄液腔の狭小化が顕著に確認
平均飛行期間は、長期飛行群164.8日、短期飛行群13.6日であった。
脳の狭小化は、長期飛行群17/18例、短期飛行群3/16例で認められた(p<0.001)。
シネMRIを用いた評価では、脳の上方偏位が長期飛行群(12例)は全例に認められ、一方短期飛行群(6例)は全例で認められなかった。また頭頂部髄液腔の狭小化は、長期飛行群では全例(12例)に認められ、短期飛行群で認められたのは1/6例であった。
長期飛行群の3例が視神経乳頭浮腫と中心溝の狭小化を有していた。このうち入手できた1例のシネMRI評価では、脳の上方偏位が確認された。
<原著論文>
・Roberts DR, et al. N Engl J Med. 2017;377:1746-1753.
この報告の解説・コメントです。
上記所見は「無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する」「特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似」と説明しています。
やはり病的変化のリスクもあるということでしょうか。
■ MRIに示された宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響(中川原譲二氏)
米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らの研究者は、MRIを用いて宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響について検討し、長時間飛行後の宇宙飛行士においては、中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂での脳脊髄液(CSF)スペースの狭小化が、頻繁に生じることを報告した。これらの所見は、無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する脳構造の変化として注目される。
背景:宇宙飛行が脳の解剖学的構造およびCSFスペースに与える影響に関する情報は限られている。
方法:著者らは、MRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在することを含む長期間の任務の前後で撮像された18人の宇宙飛行士の脳の画像と、スペースシャトルプログラムへの参加を含む短期間の任務の前後に撮像された16人の宇宙飛行士の脳の画像を比較した。画像は、飛行期間を知らなかった読影者によって解読された。また、CSFスペースの狭小化の程度と脳構造の変位を評価するために、長期間飛行後の12人と短期間飛行後の6人の高分解能3次元イメージングから得られた飛行前後のMRIシネクリップを作成した。著者らはT1強調MRIの自動解析により、飛行前の脳室容積と飛行後の脳室容積とを比較した。予め定められた主要分析では、中心溝の容積の変化、頭頂におけるCSFスペースの容積変化、および脳の垂直方向への変位に焦点を当てた。
長期間飛行で中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト
結果:中心溝の狭小化は、長期間飛行群(平均飛行期間:164.8日)では18人中17人、短期間飛行群(平均飛行期間:13.6日)では、16人中3人に見られた(P<0.001)。サブグループのシネクリップでは、脳の上方へのシフトが、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られたが、短期間飛行群(6人の宇宙飛行士)では見られなかった。また、頭頂におけるCSFスペースの狭小化は、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られ、短期間飛行群では、6人中1人に見られた。長期間飛行群の3人の宇宙飛行士は視神経乳頭浮腫を呈し、3人全員に中心溝の狭窄化が見られた。これらの3人のうちの1人では、シネクリップが入手でき、シネクリップは脳の上方へのシフトを示した。
結論:中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、長期間飛行後の宇宙飛行士に頻繁に、そして優勢に起こった。これらの変化の持続時間および臨床的意義を決定するためには、地球上でしばらくしてから実施される反復するフライト後の画像を含むさらなる調査が必要である。
脳構造の変化は特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似
長期間飛行後の宇宙飛行士に見られる中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、時にVIIP syndromeを伴うことから、ある種の髄液吸収能の障害が生じることを示唆するものである。無重力状態では、髄液よりもやや比重の軽い脳組織が上方へシフトすることにより、矢状静脈洞近傍の静脈構造の圧迫やarachnoid (pacchionian)granulationの閉塞を来たし、CSFや静脈の流出が障害され、頭蓋内圧が亢進するのかもしれない。宇宙飛行が人類にもたらす新たな医学的な問題点として、引き続き研究が必要である。大変興味深いのは、中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、高齢者の特発性正常圧水頭症(iNPH)に特徴的なMRI所見としても知られていることである。両者に同様の機序が生じているとは考えにくいが、特発性正常圧水頭症では、地球上の重力下で脳組織が上方へシフトするとすれば、脳比重が髄液よりも減少することが、その病態として考えられなくもない。無重力下の脳構造の変化は、重力下の特発性正常圧水頭症の病態診断に対して、新たな視点を提供するものとして注目される。
一番わかりやすいのが、筋力低下。
長期間宇宙に滞在した宇宙飛行士は、地球に降り立つと自分の足では立位が保てない映像をニュースでよく見かけます。
脳にも変化が出るのでしょうか?
その変化をMRIで評価した報告を紹介します。
ただ、所見のみでそれがどういう意味を持つのかの記載がありません。
症状は出たのかな?
■ 宇宙飛行が脳に与える影響は?/NEJM
(ケアネット:2017/11/13)
宇宙飛行が、脳の解剖学的構造および髄液腔へ与える影響を、MRIを用いて調べる検討が、米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らにより行われた。同影響に関する情報が限られている中で、研究グループは宇宙飛行士の長・短期ミッション前後の脳を調査した。その結果、主に長期飛行後の宇宙飛行士で、脳の中心溝の狭小化および上方偏位と、頭頂部髄液腔の狭小化が、高頻度に認められたという。所見を踏まえて著者は、「地球帰還後の飛行後画像診断を繰り返し行うなど、さらなる調査を行い、これらの変化がどれくらいにわたるものなのか、また臨床的意味について確認する必要がある」と述べている。NEJM誌2017年11月2日号掲載の報告。
長・短期飛行を担った宇宙飛行士の、飛行前後に撮影した脳MRIを比較
検討はMRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在し長期間のミッションをこなした宇宙飛行士(長期飛行群)18例、スペースシャトルプログラムに関与し短期間のミッションをこなした宇宙飛行士(短期飛行群)16例、それぞれの脳画像をミッション前後に撮影し比較を行った。画像読影者に、飛行期間は知らされなかった。
また、長期飛行群12例と短期飛行群6例の高解像度3次元画像を基に、飛行前後をペアとするシネMRIを作製し、髄液腔の狭小化と脳構造の偏位を評価した。
さらに、T1強調MRI画像の自動解析を用いて、飛行前後の脳室容積の比較も行った。
事前規定の主要解析の注視点は、中心溝の容積の変化、頭頂部髄液腔の容積の変化、脳の垂直偏位であった。
長期飛行群で脳の狭小化、上方偏位、頭頂部髄液腔の狭小化が顕著に確認
平均飛行期間は、長期飛行群164.8日、短期飛行群13.6日であった。
脳の狭小化は、長期飛行群17/18例、短期飛行群3/16例で認められた(p<0.001)。
シネMRIを用いた評価では、脳の上方偏位が長期飛行群(12例)は全例に認められ、一方短期飛行群(6例)は全例で認められなかった。また頭頂部髄液腔の狭小化は、長期飛行群では全例(12例)に認められ、短期飛行群で認められたのは1/6例であった。
長期飛行群の3例が視神経乳頭浮腫と中心溝の狭小化を有していた。このうち入手できた1例のシネMRI評価では、脳の上方偏位が確認された。
<原著論文>
・Roberts DR, et al. N Engl J Med. 2017;377:1746-1753.
この報告の解説・コメントです。
上記所見は「無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する」「特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似」と説明しています。
やはり病的変化のリスクもあるということでしょうか。
■ MRIに示された宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響(中川原譲二氏)
米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らの研究者は、MRIを用いて宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響について検討し、長時間飛行後の宇宙飛行士においては、中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂での脳脊髄液(CSF)スペースの狭小化が、頻繁に生じることを報告した。これらの所見は、無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する脳構造の変化として注目される。
背景:宇宙飛行が脳の解剖学的構造およびCSFスペースに与える影響に関する情報は限られている。
方法:著者らは、MRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在することを含む長期間の任務の前後で撮像された18人の宇宙飛行士の脳の画像と、スペースシャトルプログラムへの参加を含む短期間の任務の前後に撮像された16人の宇宙飛行士の脳の画像を比較した。画像は、飛行期間を知らなかった読影者によって解読された。また、CSFスペースの狭小化の程度と脳構造の変位を評価するために、長期間飛行後の12人と短期間飛行後の6人の高分解能3次元イメージングから得られた飛行前後のMRIシネクリップを作成した。著者らはT1強調MRIの自動解析により、飛行前の脳室容積と飛行後の脳室容積とを比較した。予め定められた主要分析では、中心溝の容積の変化、頭頂におけるCSFスペースの容積変化、および脳の垂直方向への変位に焦点を当てた。
長期間飛行で中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト
結果:中心溝の狭小化は、長期間飛行群(平均飛行期間:164.8日)では18人中17人、短期間飛行群(平均飛行期間:13.6日)では、16人中3人に見られた(P<0.001)。サブグループのシネクリップでは、脳の上方へのシフトが、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られたが、短期間飛行群(6人の宇宙飛行士)では見られなかった。また、頭頂におけるCSFスペースの狭小化は、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られ、短期間飛行群では、6人中1人に見られた。長期間飛行群の3人の宇宙飛行士は視神経乳頭浮腫を呈し、3人全員に中心溝の狭窄化が見られた。これらの3人のうちの1人では、シネクリップが入手でき、シネクリップは脳の上方へのシフトを示した。
結論:中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、長期間飛行後の宇宙飛行士に頻繁に、そして優勢に起こった。これらの変化の持続時間および臨床的意義を決定するためには、地球上でしばらくしてから実施される反復するフライト後の画像を含むさらなる調査が必要である。
脳構造の変化は特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似
長期間飛行後の宇宙飛行士に見られる中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、時にVIIP syndromeを伴うことから、ある種の髄液吸収能の障害が生じることを示唆するものである。無重力状態では、髄液よりもやや比重の軽い脳組織が上方へシフトすることにより、矢状静脈洞近傍の静脈構造の圧迫やarachnoid (pacchionian)granulationの閉塞を来たし、CSFや静脈の流出が障害され、頭蓋内圧が亢進するのかもしれない。宇宙飛行が人類にもたらす新たな医学的な問題点として、引き続き研究が必要である。大変興味深いのは、中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、高齢者の特発性正常圧水頭症(iNPH)に特徴的なMRI所見としても知られていることである。両者に同様の機序が生じているとは考えにくいが、特発性正常圧水頭症では、地球上の重力下で脳組織が上方へシフトするとすれば、脳比重が髄液よりも減少することが、その病態として考えられなくもない。無重力下の脳構造の変化は、重力下の特発性正常圧水頭症の病態診断に対して、新たな視点を提供するものとして注目される。