投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2016年 2月14日(日)10時31分43秒
東大名誉教授・学士院会員の京極純一氏が亡くなられたそうですが、産経新聞の記事に載っている写真は丸メガネをかけていないので、あれ、こんなお顔だったのか、と思いました。
「京極純一氏が死去 92歳 政治学に統計的手法」
http://www.sankei.com/life/news/160213/lif1602130015-n1.html
記事には「統計的手法を用いた政治学を確立した」、「統計学や数量分析の手法を政治学に取り入れ、選挙や世論、政治意識を分析」とありますが、私が三十数年前に聴講した「政治過程論」ではそうした洋風ないし理数系の話は全くなくて、「親心の政治」対「正論の政治」みたいな渋い和風の言葉を用いた政治文化論でした。
西郷隆盛がいかに腹の据わった大人物かを強調するエピソードとして、食事を担当する下男が味噌汁にダシを入れ忘れたときも西郷は決して叱らなかった云々、という話をされたことがあり、京極氏の飄々とした語り口は面白かったのですが、何じゃそれ、と思ったことがあります。
正直、全般的に何だか古臭い感じがして、余り熱心に聴いていた訳でもないのですが、京極氏が共産主義とキリスト教の類似性を強調されたことはかなり印象に残っています。
保守的な群馬県の田舎でのんびり育った私には共産主義との接点は特になかったのですが、高校の英語の先生に旧制一高・東大を出ているにもかかわらず世間的な出世欲は皆無で、一種の世捨て人みたいな雰囲気で教えることを楽しんでいた人がいて、その人が何故か、どう見てもあまり熱心ではなさそうな共産党員でした。
ま、その人の話はやたら面白かったので、大学入学当時の私はそれほど共産主義、というか左翼に悪い感情は持っておらず、岩波の『世界』などもたまに買って読んでいました。
そういう薄いピンク系の私には共産主義とキリスト教の類似性はあまり愉快な話題でもなく、京極氏は何を言っているのかな、という不信の念すら若干抱いたのですが、その後、共産主義の歴史を勉強してみると、やっぱり共産主義とキリスト教はかなり似ていることに気付きました。
少し前に山崎正和氏の『世界文明史の試み─神話と舞踊』(中央公論新社、2011)を引用した上で、<「周囲には隣人の励ましも見る目の強制もない」にもかかわらず行われる「孤独な死への飛躍」は珍しく、日本ではキリシタンくらいでは>と書きましたが、戦前の非合法時代の日本共産党には夥しい「殉教者」がいて、この点でもキリスト教とそっくりですね。
ま、この話に深入りするとけっこう面倒な論点がいろいろ出てくるので、先の投稿では触れなかったのですが、京極氏ご逝去のニュースを聞いたこともあり、ちょこっとメモしておきます。
「殉教する宗教─孤独な自我の萌芽」(by 山崎正和)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/32e8ff61dbd1d8aabb64b10c224d7a54
なお、私は大学で京極氏の醒めた分析を聞いたときは、この人は無神論者なのだろうなと思ったのですが、京極氏の最初の著書は「統計学や数量分析の手法を政治学に取り入れ、選挙や世論、政治意識を分析」したものではなく、『植村正久―その人と思想』(新教出版, 1966年)で、戦前からのプロテスタントなんですね。
私は京極氏の著書を熱心に読んでいた訳ではないので、京極氏が東京女子大学(Tokyo Woman's Christian University)の学長となられたときに、あれ、あの人はプロテスタントだったのかと意外に思いました。
東京女子大学の公式サイトを見たら、京極氏が学長になられたのは1988年ですね。
ついでに同サイト内の「創立期の人々(新渡戸稲造・安井てつ・ライシャワー)」を見ると、東京女子大学のあのあまり趣味が良いとも思えない校章は「 S (Service)と S (Sacrifice)を組み合わせた」ものだそうで、決めたのは初代学長の新渡戸稲造なんですね。
また、二代目学長・安井てつに関する説明に、
-------
1928~1929年に共産党員に対する検挙が行われ、東京女子大学の卒業生が、また、1931~1932年になると在学生も検挙されました。安井はその学生たちを深く思いやり、励まして送り出したといいます。留置された学生のためいろいろ差し入れもしました。
http://office.twcu.ac.jp/aboutus/spirit/founder.html
とありますが、この「留置された学生」に野呂栄太郎夫人の塩沢富美子と志賀義雄夫人の志賀多恵子(旧姓高橋)、そして土屋文明の歌集に出てくる伊藤千代子がいることは以前少し書きました。
東京女子大学は共産主義界隈にもなかなか優秀な人材を輩出していますね。
「四十年のふ思議なつきあい」(by 志賀義雄)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/475bca9c33cec69ded3b19191ebd5126
伊藤千代子と土屋文明
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/d88dc05a507461ab7b64e20ec5043f0f