投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2021年 3月15日(月)14時17分22秒
井上宗雄氏によれば『臨永集』の「成立は元徳三年<八月元弘と改元>三月尽の詞書がみえるのでこれ以後、集中作者の官位記載(春宮大夫公宗など)によって同年九月以前であろう」とのことで、元徳三年(元弘元年)は西暦では1331年、本当に鎌倉最末期ですね。
井上宗雄氏『中世歌壇史の研究 南北朝期』(その8)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/dce23fb995dd1b94a833f744bba9ad78
『臨永集』は二条派の平明な作品が多い歌集ですが、歌会などで親しく交わることも多かったであろう武家歌人たちが、この僅か二年後、敵味方に分かれて凄絶な殺し合いをしたかと思うと、普通の歌集とは違った感懐を覚えます。
具体的に作品を少し見て行くと、巻一「春歌」には35に「平守時朝臣女」の、
夕春雨といふことを
かすむだに おぼつかなきを ゆふづくよ なほくもかかる 春雨の空
37に「平英時」(赤橋)の、
我が宿に またるる花は さきやらで ほかより匂ふ 庭の春風
という歌があります。
他の歌を見ても、平守時朝臣女はやはり若年ではなく、練達の歌人という感じですね。
巻二「夏歌」に入ると、89に平守時朝臣女
うらみても わびてもきかば 郭公 かひなきねをや 先つくさまし
94に赤橋英時
つれなさの まつにまさるは ほととぎす おもひよわりて のちやきかまし
とあって、両歌は対応しているように見えるので、あるいは同じ歌会での作品でしょうか。
巻三「秋歌」には、165に平守時朝臣女
をる袖も うつりにけりな 白露の いろどる庭の 秋萩のはな
があります。
214の作者は「平貞宗」ですが、これは大友貞宗ですね。
たれかいま よさむの月の 秋風に はつ霜ながら 衣うつらん
いかにも手慣れた感じですが、この隣の215は赤橋英時
よもすがら をだもる人や さをしかの おどろくばかり 衣うつらん
となっていて、二年後の仇敵同士が隣り合っています。
巻四「冬歌」に入ると、237は大友貞宗
梯時雨といふ事を
風はやみ とやまの里は 時雨きて 雲のうへなる みねのかけはし
そして262に「源高氏」、即ち足利尊氏が登場します。
千鳥を
浦風も いま吹きたちて いせ島や 月のでしほに 千鳥なくなり
まあ、尊氏の歌も悪くはありませんが、どちらかというと大友貞宗の方が上手いかな、と思います。
巻六「恋歌上」では、417が赤橋英時ですね。
うつつにも あふよのあらば おもひねの 夢やちぎりの はじめならまし
井上宗雄氏によれば『臨永集』の「成立は元徳三年<八月元弘と改元>三月尽の詞書がみえるのでこれ以後、集中作者の官位記載(春宮大夫公宗など)によって同年九月以前であろう」とのことで、元徳三年(元弘元年)は西暦では1331年、本当に鎌倉最末期ですね。
井上宗雄氏『中世歌壇史の研究 南北朝期』(その8)
https://blog.goo.ne.jp/daikanjin/e/dce23fb995dd1b94a833f744bba9ad78
『臨永集』は二条派の平明な作品が多い歌集ですが、歌会などで親しく交わることも多かったであろう武家歌人たちが、この僅か二年後、敵味方に分かれて凄絶な殺し合いをしたかと思うと、普通の歌集とは違った感懐を覚えます。
具体的に作品を少し見て行くと、巻一「春歌」には35に「平守時朝臣女」の、
夕春雨といふことを
かすむだに おぼつかなきを ゆふづくよ なほくもかかる 春雨の空
37に「平英時」(赤橋)の、
我が宿に またるる花は さきやらで ほかより匂ふ 庭の春風
という歌があります。
他の歌を見ても、平守時朝臣女はやはり若年ではなく、練達の歌人という感じですね。
巻二「夏歌」に入ると、89に平守時朝臣女
うらみても わびてもきかば 郭公 かひなきねをや 先つくさまし
94に赤橋英時
つれなさの まつにまさるは ほととぎす おもひよわりて のちやきかまし
とあって、両歌は対応しているように見えるので、あるいは同じ歌会での作品でしょうか。
巻三「秋歌」には、165に平守時朝臣女
をる袖も うつりにけりな 白露の いろどる庭の 秋萩のはな
があります。
214の作者は「平貞宗」ですが、これは大友貞宗ですね。
たれかいま よさむの月の 秋風に はつ霜ながら 衣うつらん
いかにも手慣れた感じですが、この隣の215は赤橋英時
よもすがら をだもる人や さをしかの おどろくばかり 衣うつらん
となっていて、二年後の仇敵同士が隣り合っています。
巻四「冬歌」に入ると、237は大友貞宗
梯時雨といふ事を
風はやみ とやまの里は 時雨きて 雲のうへなる みねのかけはし
そして262に「源高氏」、即ち足利尊氏が登場します。
千鳥を
浦風も いま吹きたちて いせ島や 月のでしほに 千鳥なくなり
まあ、尊氏の歌も悪くはありませんが、どちらかというと大友貞宗の方が上手いかな、と思います。
巻六「恋歌上」では、417が赤橋英時ですね。
うつつにも あふよのあらば おもひねの 夢やちぎりの はじめならまし
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