学問空間

「『増鏡』を読む会」、第10回は3月1日(土)、テーマは「二条天皇とは何者か」です。

「リスちゃん登場」(by 辻邦生)

2014-10-21 | 南原繁『国家と宗教』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2014年10月21日(火)12時03分0秒

>筆綾丸さん
神田千里氏の『織田信長』(ちくま新書)、読んでみました。
信長研究の最近の動向は知らなかったので、金子拓氏の『織田信長<天下人>の実像』を読み終えた時点では多少疑問も残ったのですが、神田氏の「天下」に関する説明は読者が抱くであろう疑問を全て予想して懇切丁寧な検討を加えており、実に説得的ですね。

装飾写本の世界、面白そうだなあと思って、とりあえず日本語の文献を少しずつ読んでいるところなのですが、私のような初心者には辻佐保子氏の解説が役に立ちます。
辻佐保子氏も2011年に亡くなられていたのですね。

辻佐保子(1930‐2011)

遥か昔の大学生の頃、私は何故か辻邦生(1925‐99)がけっこう好きだったのですが、『夏の砦』を本当に久しぶりにパラパラめくってみたら、装飾写本のこともかなり詳しく出ていますね。
結果的に未完の遺作となった『のちの思いに』(日本経済新聞社、1999)も読んでみたところ、真面目そうなタイトルに反して、古希を過ぎた辻邦生が気楽に書いた自伝風小説でしたが、ここには東大文学部で一年下だった「リスちゃん」こと佐保子氏が頻繁に登場します。
後に名古屋大学・お茶の水女子大学教授となった佐保子氏の生真面目な文体からはちょっと想像し難い、美術史科初の女子学生で人気者だった当時ののんきな日常が面白いですね。
ちなみに『夏の砦』の主人公・支倉冬子 の少女時代の思い出は、辻佐保子氏の思い出がベース、というか殆どそのままだったみたいですね。

『のちの思いに』から、昭和二十年代半ばの東大仏文科の様子が伺える箇所を少し引用してみます。(p30)
同じ東大文学部でも国史学科あたりとはずいぶん雰囲気が違ったようですね。

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 そんな中で学生たちの人気を集めていたのは、中島健蔵講師であった。中島健蔵はフランス文学者というより、幅広い文化人として知られていた。教室はそうした評判もあって、いつも学生たちで満員だった。当時はまだ日常のおしゃべりに江戸前のべらんめい調を使う人がまま残っていた。あまり頻繁になるとそれも嫌みだが、歯切れのいい江戸前の言葉で喋られると、それなりの粋な感じがあった。
 中島健蔵の喋りの特色は、このべらんめいを混えた江戸前の早口であった。講義の語り口も同じだったから、聞いていても気持ちよかった。「おめえさん、そんなとこで何を突っ立っていやがるんだい」という調子を教室で耳にすると、最初はかなりどぎまぎするが、決して悪い気はしなかった。江戸前の切り口上で喋るうえ、フランス文学の内容も立て板に水式で、とても講義ノートをとる暇がなかった。はじめはノートをとろうとする勇者もいたらしいが、その喋りの面白さにひかれて、高座の落語を聞くようにみなが聞きほれた。ケンチ(中島先生は学生たちにも健蔵、略してケンチと呼ばれていた)はフランス文学科の顔のような存在だったから、スタンダールの『赤と黒』のジュリアンとレナール夫人の恋愛については、法学部の学生でも知っていた。ケンチの名調子はそれほどまでに評判が高く、もぐりで聴講にくる学生も多かったからである。(中略)
 鈴木信太郎、渡辺一夫両先生も名講義をされたが、中島ケンチのような講義は前代未聞であり、これぞ同時代に生まれた余徳といったものであった。ケンチの飛ばす与太のようなお喋りのなかにも、人生の知恵のようなものがふんだんに含まれていた。べらんめいで喋る中島健蔵のような先生の方が、人間として一まわりも二まわりも大きいのではないか、と思うこともあった。
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※筆綾丸さんの下記投稿へのレスです。

京極表の篝の前 2014/10/18(土) 19:59:36
小太郎さん
「breathed her last」はまさに「御こときれ」という感じがしますが、この時の南方(金沢貞顕)の最期を考えると、なんだかとても印象的なシーンですね。「京極表の篝の前に、床子に尻掛けて」、文人肌(?)の武将は何を考えていただろう、といったような。また、黒澤映画の一場面のような感じもしてきますね。

http://www.shinchosha.co.jp/book/118318/
早野龍五氏の本が出たので、読んでみようかと思います。
補遺
さきほど、読み終わりました。専門外の領域で、これほどの業績を残してしまうのだから、早野龍五氏はほんとに優秀な科学者なんですね。ジュネーヴのCERNにおいて英語でプレゼンしたという福島高校の三人の生徒も、うーむ、見事なものだな。

追記
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG17004_R20C14A4CR0000/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%88%E3%81%AE%E5%AE%B6
以前、レンブラントの家(Museum Het Rembrandthuis)を訪ねたとき、和紙に描かれたデッサンに驚いたものですが、産地がわかれば面白いですね。
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