学問空間

「『増鏡』を読む会」、第10回は3月1日(土)、テーマは「二条天皇とは何者か」です。

『言論抑圧-矢内原事件の構図』への疑問(その2)

2014-11-07 | 将基面貴巳『言論抑圧-矢内原事件の構図』
投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2014年11月 7日(金)21時02分0秒

この本程度の分析がなぜ「マイクロヒストリー」なのか、最後まで読んでもさっぱり分からないのですが、少なくとも「マイクロヒストリー」を標榜するからには細部にもう少し気を使ってほしいと思う記述が山ほどありますね。
例えば、長与又郎総長の対応について、将基面氏は次のように書かれています。(p135)

--------
 ちなみに、矢内原と大内の証言によれば、長与の矢内原に対する高い評価は、長与本人の見識によるものではなかった。長与の実弟で同盟通信社(現在の共同通信社)の岩永裕吉から「矢内原ぐらいえらい教授は東大にはいない。あれをやめさせるならば、お前は総長が務まらない」といわれたので、長与は大内に「おれは矢内原をやめさせない」といったらしい。
--------

まず、「同盟通信社(現在の共同通信社)」とありますが、同盟通信社が戦後に分割されて共同通信社と時事通信社になったので、これは正しさも半分だけですね。
こんなことは社会常識ではないかと思うのですが、知らない人は知らないのですかね。

時事通信社
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%82%E4%BA%8B%E9%80%9A%E4%BF%A1%E7%A4%BE

次に将基面氏の引用の仕方だと、長与又郎の実弟である同盟通信社初代社長の岩永裕吉は東京帝国大学総長の兄を「お前」呼ばわりしたことになりますね。
まあ、兄弟だから「お前」呼ばわりの可能性が全くないとは言えませんが、私の知っている岩永裕吉像とはかなりズレます。

岩永裕吉
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B2%A9%E6%B0%B8%E8%A3%95%E5%90%89

新書なので論文の場合のような厳密な引用や出典の表示は無理とは思いますが、それでも「矢内原と大内」二人分の証言の引用の仕方はあんまりじゃないですかね。
岩永裕吉が長与又郎に「矢内原ぐらいえらい教授は東大にはいない。あれをやめさせるならば、お前は総長が務まらない」と言ったという「証言」は矢内原のものなのか、それとも大内兵衛のものなのか。
あるいは二人の「証言」をごちゃまぜにしているのか。
気になるので確認したいのですが、将基面氏は具体的な出典は明示せず、巻末に「主要参考文献一覧」があるだけなので、いささか手間がかかりますね。
ま、『矢内原忠雄全集』全29巻と大内兵衛『経済学五十年』、同『私の履歴書』を見れば良いだけの簡単なお仕事ですが。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『言論抑圧-矢内原事件の構図... | トップ | メモ・岩永裕吉 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

将基面貴巳『言論抑圧-矢内原事件の構図』」カテゴリの最新記事