平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

鎌倉殿の13人 第18回「壇ノ浦で舞った男」~義仲は死に平家は滅んだ……この先、私は誰と戦えばいいのか?

2022年05月09日 | 大河ドラマ・時代劇
「義仲は死に、平家は滅んだ。この先、私は誰と戦えばいいのか?
 私はいくさ場でしか役に立たん」

 いくさの天才・義経(菅田将暉)の言葉である。
 こんな義経を梶原景時(中村獅童)はこう評価。
「勝利のためなら手段を選ばず、人の情けを蔑ろにする」
 だが、義経には「人の情け」はあったようだ。
 処刑直前の平宗盛(小泉孝太郎)親子を会わせて、
「今宵はゆっくり語り合うがよい」
 この情けは義経が生来持っていたものなのか?
 それとも、
 自分がもたらしたいくさの悲惨や頼朝(大泉洋)に拒まれた悲しみに拠って得たものなのか?

 義経はこんなことも言っていた。
 義時(小栗旬)にいくさの悲惨を責められると、
「勝たなければ意味がない。いくさで死んだ者の命が無駄になる」
 これは戦争指導者が陥りがちな言葉ですね。
 これで戦争がズルズルと長期化する。
 義経はたまたま勝ったからいいが、太平洋戦争の戦争指導者たちは、この言葉で戦争を長引かせた。
 現在のプーチンも、おそらくそうだろう。

 いずれにしても義経の鬼神のようないくさをヒロイックに描くのではなく、悲惨と後味の悪さで描いたことには好感を持てる。
 …………………………

 梶原景時のスタンスが面白い。
 屋島攻めで嵐の中を義経が舟で向かった時は、
「命を落とせばそこまでの御人だったってこと」
 頼朝から総大将を命じられた時は小芝居をうって、場を「義経が総大将」という空気にした。
 景時は義経を武人として認めている。
 だが一方、頼朝の前では先程の評価で義経を貶めている。
「勝利のためなら手段を選ばず、人の情けを蔑ろにする」
 本来なら、九郎殿のいくさぶりは素晴らしかった、と褒めるべきだが、それをしなかった。
 実に冷静で客観的な意見。
 これは、いったい何なのだろう?
 誠実に客観的事実を述べただけなのか?
 モーツァルトに対するサリエリのような天才に対する嫉妬なのか?
 武人同士の権力争いで義経を追い落とそうとしたのか?
 義時には「おふたり(頼朝と義経)は神より選ばれた方、そんなふたりが並び立つはずがない」と言っていたが。
 景時は「神の意思」というものを基準にする人ですよね。

 頼朝は義経のことで怒りつつも、政子(小池栄子)の前では「平家が滅んだ……!」と涙を流した。
 一方、宗盛を前にした時は「何の怒りの憎しみも湧いて来なかった」
 目的を達成するとはこういうことなのだろう。
 すべての行ないは虚しさに向かう。
 諸行無常。
 山に登っている時は大変だが、実は楽しい。
 目標を達成した頼朝はどこへ向かうのか?

 義経も景時も頼朝も、豊かな人物描写でしたね。
 さまざまな角度から人物を描いている。


コメント (8)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 朝ドラ「ちむどんどん」若手... | トップ | プーチンの戦勝記念日演説を... »

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
マキャベリスト?景時 (TEPO)
2022-05-09 22:27:20
>実に冷静で客観的な意見。誠実に客観的事実を述べただけなのか?
>モーツァルトに対するサリエリのような天才に対する嫉妬なのか?

本作の梶原景時を見ていると「銀河英雄伝説」なるアニメ物語に登場する「オーベルシュタイン」という人物を連想します。
「銀河帝国皇帝ラインハルト」の参謀的な腹心ですが、冷徹無比なマキャベリスト。
ただし、「マキャベリズム」とは全体利益の最大化を図る「功利主義」の徹底(「冷酷」「卑劣な」手段も厭わないという意味で)であって、「利己主義」ではありません。
事実、オーベルシュタインは多くの人に嫌われてはいるものの、彼の「私心の無さ」は誰もが―彼を嫌う「敵」すらも―認めていて、彼の最期もそれを証明していました。
「神の意志」を基準にする景時がオーベルシュタイン同様に私心が無いのかどうか、今のところ何とも言えないところですね。

八重さんのことが気になるのは、主人公義時の「愛妻」だからという以上に、私にとって彼女が「結末が見えない」唯一の人物だからかもしれません。
「義時の妻」というポジションが定まったためか、政子の前にも顔を出し、すっかり北条家の女性たちの一員となり、今回は大姫の家庭教師役を演じていました。
しかし、次回予告では「愚痴をもらす頼朝に対し苦言を呈す八重」というくだりがあり、また少し心配です。
返信する
Unknown (ロギー)
2022-05-09 23:57:11
これまで、ネットでは義経ってサイコパスとか色々と散々な事を言われてましたね。
彼は精神年齢が未成熟な子供なんですよね。
その為に大活躍をしながらも、とんでもない事を何度もやらかしました。
でも、打ち解けると良い所もあります。
宗盛、清宗親子への配慮や藤平太に里芋煮を振る舞ったりするところが印象的でした。

特に終盤で、義経は恩人である藤平太たちに里芋煮を振る舞って自身も美味しそうに食べるシーンとか、義経が求めていたのは団欒だった気がしますね。
この時が義経にとって人生の絶頂期なんでしょうね。
次回から一気に悲劇になるのを考えると自業自得でも、可愛そうです。
返信する
状況を俯瞰して見える人 (コウジ)
2022-05-10 08:46:28
TEPOさん

いつもありがとうございます。

「銀英伝」のオーベルシュタイン。
あるいはマキャベリー。
なるほど~。
ある意味、物事を一番俯瞰して見ている人物なのかもしれませんね。
物事の本質を誰よりも深く理解できる人物でもある。
一方で「すべては天の意思」みたいな運命論者みたいな所もあって、実に面白い人物です。

八重さんに関しては、永井路子さんの『炎環』の最終章「覇樹」で2行くらいで触れられていました。
ネタバレになるので詳しく書きませんが、おそらく、この人物だと思われます。
返信する
天才は何かが欠けている (コウジ)
2022-05-10 08:56:41
ロギーさん

いつもありがとうございます。

>彼は精神年齢が未成熟な子供なんですよね。

これなんでしょうね。
子供なのに戦争の天才だから質が悪い。
天才は何かが欠けている。
一般人のバランス感覚を期待しても意味がない。
一方で狡猾な後白河法皇のような人物に利用される。

>義経が求めていたのは団欒だった気がしますね。
これも義経の本質で、政子に膝枕したりしていましたよね。

木曽義仲、梶原景時、義経──実に魅力的な人物が次々と登場しています。
返信する
「銀英伝」をご存知なら (TEPO)
2022-05-10 19:05:44
「銀英伝」という略称を使われるところから、この物語をご存知のようなのでもう少し。
オーベルシュタインも、ラインハルトの少年時代からの親友キルヒアイスに対しては嫉妬心を持っていたかもしれません。
彼はラインハルトに対して「キルヒアイスに特別待遇を与えるべきではない」との「正論」で迫り、たまたまその時オーベルシュタインのマキャベリズムを容認したことを咎められてキルヒアイスとの関係に亀裂が生じていたために、ラインハルトはこれを受け入れ、そのことが原因でキルヒアイスは非業の死を遂げます。
しかし、オーベルシュタインはキルヒアイスの死の遠因ではあっても、意図してキルヒアイスを排斥した訳ではありません。

しかしながら、景時は義経を意図的に頼朝から遠ざけています。
「そんなふたりが並び立つはずがない」と「状況を俯瞰して見た」上でのことかもしれませんが、私情も交じっていたかもしれません。

他方、義時は予想どおり頼朝と義経との関係修復のために奔走しています。
おそらく、今後退場してゆく人たちに対して、ほとんどの場合、「救おうとして努力したが、力及ばなかった」という形で描かれるのではないかと思います。
返信する
ヤン派です! (コウジ)
2022-05-11 08:55:21
TEPOさん

『銀英伝』で最初のアニメ版、最近のアニメ版を見て、原作も完読していて、僕の「政治」や「戦争」を考える上での基本テキストになっています!
「銀英伝」ファンはラインハルト派とヤン派の分かれるようですが、僕はヤン派です。
キルヒアイスの死はそういう経緯だったんですね。
忘れていました。

景時は「サリエリ」であり、「マキャベリ」であり、やはり面白い人物ですね。
義時はまわりの個性が強いので、こういう立ち位置になってしまうんでしょうね。
大河ドラマの主人公はどうしても歴史の目撃者になりがち。
でも、今作の後半は変わっていきそうですね。
返信する
私もヤン派です! (TEPO)
2022-05-11 20:49:00
>「政治」や「戦争」を考える上での基本テキストになっています!

そうでしたか。
「専制政体」と「民主政体」、その「最善形態」と「堕落」、「戦略」と「戦術」など、確かに「基本テキスト」に相応しいですね。

私は比較的最近、Amazon Prime Videoで旧作アニメを全部見ました。
全体を見通してから気に入ったシーンを繰り返して見るのが私の流儀ですが、実は私もヤン派でして、まず同盟側の物語から丁寧に見ていました。
シェーンコップ(彼なりにヤンに惚れ込んでいる)にいくら煽られても徹底的に無欲でとぼけた味のヤン、そうした彼を愛したフレデリカが私の「推し」です。
特に、倒せる筈だったラインハルトを倒さなかった時の心境を、「政府からの命令を口実にしていた(つまり本心ではラインハルトを倒したくなかった)」と述懐したヤンが味わい深かったと思います。
他方、ラインハルト麾下の将軍たちは当初皆同じに見えていましたが、最近になってほぼ見分けがつくようになりました。(笑)
そうした帝国軍の中で、オーベルシュタインはちょっと異色の「玄人好み」のキャラかと思います。

義時は、主人公として可能な限り「善人」でなければならないので、キャラとしての味わいという点では、どうしても本作のオーベルシュタイン・景時に圧倒されてしまいますね。
返信する
ヤンは生き方のお手本 (コウジ)
2022-05-12 09:44:55
TEPOさん

ヤンは僕の生き方のお手本でもありまして!
ヤンの思考は「リベラル」なんですよね。
あるネトウヨさんのツイッターのアバターが「ヤン」で笑ってしまったことがありましたが……。
あとは本当は「歴史の目撃者」でありたかったこと。
アスターテ会戦の時、指揮を執ることになって「失敗したら頭をかいて謝るさ」とつぶやいたこと。
ラインハルトは「常勝」ですが、ヤンは「不敗」であること。
ヤンは実にやわらかい。

フレデリカもすごいですよね。
演説するトリューニヒトに対して「あなたは安全な所でしゃべっているだけ」と言ってのける。

昭和のアニメ版は、僕はTSUTAYAのレンタルで見ましたが、見て止まらなくなりました。
それは「進撃の巨人」と同じ体験でした。
見返すたびに理解が深まるというのも「進撃の巨人」と同じですよね。
返信する

コメントを投稿

大河ドラマ・時代劇」カテゴリの最新記事