北朝鮮は非核化で譲歩する前提として、朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を要求したが、米側は保有核兵器開示など北朝鮮の追加措置が先だと突っぱね、話し合いは難航しています。さらに中国の非協力的な対応が米朝協議に悪影響を及ぼしているとして、トランプ大統領が先行きの見通せない米中貿易協議を持ち出したことで、非核化に向けた事態打開のメドは立ちません。金融市場的には北朝鮮へのミサイル攻撃が杞憂に終わり、日本が復興・難民支援をしなくて済んだことが最大の恩恵です。北朝鮮問題は非核化が進展しなければ国連制裁を続ける。米朝首脳会談は数年行わなず、後ろ盾中国に対する、米中貿易戦争を続け、中国経済を停滞させ北朝鮮が音を上げるのを気長に待つしかないでしょう。しかし、この期に及んでもトヨタと日産は三割増の設備投資に踏み切るとは、目先の利益に釣られ、金を溝に捨てるようなものです。
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米中貿易戦争、第二幕が開演。秋の第三幕で合計2500億ドル分に制裁関税 商業レベルで見れば「狂気の沙汰」だが、長期戦略の原点に立ち帰ってみると・・・。
なぜ商人の発想しか出来ないのか、日本のメディアの論調を読んでつくづく思った。
7月6日に発動されたトランプ政権の対中制裁関税の第一幕は160億ドル。(前史として鉄鋼とアルミへの25%関税があった)。そして8月23日の第二幕は340億ドル分、合計500億ドルの中国からの輸入品に対して25%の関税をかける。中国はただちに応戦し、同額の関税を報復課税で応じた。
九月以降に予想される第三幕では2000億ドルの中国からの輸入物品に対して、知財侵害への制裁を名目に高関税をかける準備作業に入っている。
日本経済新聞(8月24日)の一面トップは「供給網に亀裂、経済の影」とあって、「米の対中制裁 狙い裏目――半導体の六割『逆輸入』」の見出しが躍った。
曰く。「グローバル企業が築いたサプライチェーンにヒビが入り、世界の自由貿易体制は大きく揺らぐ」
「実は中国企業を狙い撃ちにしているようで、大きな被害を受けるのは米企業だ」。
トランプの唱えるアメリカ・ファーストは、反グローバリズムであることをすっかり忘れたような分析である。
トランプ大統領はロイターとのインタビュー(8月20日)に答え、「中国との貿易戦争は無期限であり、事務レベルの協議には何も期待していない」と冷淡に突き放している。事実、8月23日に終了した事務レベルの米中討議は何の成果もあがらなかった。
ただし第三幕の2000億ドル分への高関税適用は、消費者物資、食品など、アメリカの有権者の台所を直撃する品目が対象になるため、さすがのトランプ政権も中間選挙を前に、公聴会を開くなどして、慎重な姿勢である。
それにしても、日本のメディアの分析は、トランプの長期的戦略には思考が及ばず、一方的、かつ商業主義的レベルである。
第一に米中貿易戦争はお互いに裨益せず、経済的損失に繋がるとそろばん勘定しか頭にないが、米国は賃金の安さの魅力に引かれて中国へ進出して米国企業に、早く中国での生産をやめて、米国に戻ることが解決方法であると示唆しているのである。
つまりトランプのアメリカ・ファーストは、「中国進出企業よ、帰ってこい」という強いナショナリズムの呼びかけであり、長期戦になることは必定である。日本はこの期に及んでもトヨタと日産は三割増の設備投資に踏み切る。勇気を持って中国から撤退を決めたのはスズキだけだ。
▲、「中国進出のアメリカ企業よ、帰ってこい」
第二にサプライチェーンに支障が出てきたから、需給の構造が軋むと日本のメディアが批判している。
トランプの狙いは、サプライチェーンを改編し、中国中心の構造を壊して、新しいサプライチェーンの構築にある。
アジア諸国は「中国基軸」のサプライチェーンに見事にビルトインされており、この構造と無縁な存在はインドしかない。だからインドは高度成長を続けているが、ビルトインされた国々は中国経済の失速の影響をもろに被って失速する。ベトナム、韓国、台湾がその典型である。
この生産、物流、販売の「チャイナ・サプライチェーン」を改編し、分散を目的としているのが米国であり、この戦略行使こそが、中国がもっとも怖れることだ。このままで事態が推移すれば習近平の唱える「中国製造2025」は達成不可能となるだろう。
具体的に半導体産業を俯瞰すれば、その構造がよくよく理解できる。
ハイテク製品に適用される半導体、集積回路、世界に「三大メーカー」がある。嘗てITチップの時代は日本が世界一だった。いまは米国のインテル、韓国のサムソン、そして台湾のTSMC(台湾積体電路製造=張忠謀が創設)である。中国はこれらから集積回路を輸入しなければスマホなどを製造できない。
中国はなんとしても欲しい技術であるがゆえに、東芝メモリィを買収しかけた。台湾の鵬海精密工業はシャープを買収したが、これは液晶が主なビジネスである。
さてインテルは言うに及ばず、韓国サムソンは米国が育てた。1980年代の日米貿易摩擦で、アメリカは「ヤングレポート」を出したが、このときの米国戦略は次世代技術を日本の頭越しに韓国に製造基地をもうけ、日本の競争力を弱体化させることだった。
▲「中国製造2015」を潰すまでトランプは戦い続ける様子だ
第三に米中貿易戦争は、年内には終わりそうな気配がないが、米中高官会談に希望を見出す論調が目立つ。
しかしトランプ側近の布陣をみよ。あたかもルーズベルト政権が、モーゲンソー、ハル、ホワイト、ヒスといった対日強硬派で固められ、日本がいかように和平を模索しても日米開戦は鉄壁の基本原則だったように、トランプ政権の対中タカ派はポンペオ国務長官、ジョン・ボルトン大統領補佐官、ピーター・ナバロ通商産業政策局長、ライトハイザーUSTR代表、クドロー国家経済委員会委員長となって、対中妥協派のムニューチン財務長官の影は薄く、全員が貿易戦争貫徹組しかいないではないか。
ヘゲモニーを賭けた戦いを挑んだトランプ大統領は、異形ではなく、当たり前のアメリカ人の原則に回帰した大統領であり、ジョンウエインを尊敬し、レーガンを仰ぎ見る。むしろオバマの八年間こそ、米国政治史において、異質で異形の大統領だったのである。宮崎正弘氏