・今日弘仁12年(大師48歳)9月7日は大師が「四恩の奉為に二部の大曼荼羅を造る願文」を書かれた日です。
御大師様は曼荼羅諸尊を画く行為は国家を擁護し衆生を覚らせる功徳があるとされています。
われわれの写仏もこの数万分の一位の功徳はあるということです。
「弟子苾芻空海両部の曼荼羅に帰命し奉る。それ金剛の四法身(自性・受用・変化・等流)、胎蔵の三秘印(字・印・形相)は空性に憩って軷祖(ばっそ・出発にあたり道祖神を祀る)し(第八住心の人が空性の教えにとどまりつつ上の第十住心の密教の悟りへ向かおうとする)、重如に秣(まぐさかっ)てもって脂轄す(金剛の四法身、胎蔵の三秘印は、第七住心の人が如如の理に沈着しながら大日如来の教えにより到達した境地である)。
一道無畏(天台宗)は初入の門、三自本覚(華厳宗)は声も及ばず。衆宝の心殿(胎大日の教え)は高広にして無辺なり。光明の日宮(金大日の教え)は遍せずというところなし。真言の大我(理智大日)は本より心蓮に住し、塵沙の心数(大日の無数の眷属)は自ら覚月に居す。三等の法門(身口意三平等)は佛日(三世をこえた如来の日)に住して常に転じ、秘密の加持は機水(機根)に応じて断ぜず(如来は機根に応じて絶えず説法を続けておられる)。
法性の身塔(宇宙に遍満する大日如来)、奇なるかな大なるかな。
弟子空海、性薫我を勧めて還源を思いとす。径路未だ知らず、岐に臨んでいくたびか泣く。精誠感あってこの秘門を得たり。文に臨んで心昆うして赤縣(中国)を尋ねんことを願う。人の願いに天順いたまうて大唐に入ることを得たり。
たまたま導師に遇いたてまつって両部の曼荼羅を図し得たり。兼ねて諸尊の真言印契等を学す。しかしよりこのかた、年三六を過ぎて絹破れ、彩落ちて尊容化しなんとす。後学を顧みて歎を興し、群生の無福を悲しむ。ここに諸仏、膽を照らし(肝胆を照らす)、一天誠を感ず。后妃随喜し、震卦(東宮)また応ず。三台(太政大臣・右大臣・左大臣)心を竭し、衆人力を效いたす。
謹んで弘仁十二年四月三日より起首して八月尽に至るまで、大悲胎蔵曼荼羅一鋪、金剛界大曼荼羅一鋪九幅、五大虚空蔵菩薩(五智如来の変化、金剛・宝光・蓮華・業用・法界の五菩薩、辛酉年の除災をする金門鳥敏法本尊として霊験あらたか)、五忿怒尊(不動・降三世・軍荼利・大威徳・金剛夜叉、仁王経法の本尊)、金剛薩埵、佛母明王(孔雀明王、孔雀経法の本尊)、各四幅一丈、十大護の天王、蘖魯拏天(きゃろだてん、迦楼羅天)、龍猛菩薩、龍智菩薩の真影等すべて二十六通を圖し奉る。九月七日を取っていささか香華を設けて曼荼を供養す。九識の心王(胎蔵曼荼羅の中大八葉院の九尊)は乗蓮の相を凝らし、五智の法帝(金剛界の成身会の五佛)は坐月の貌を厳しうす(厳かに月輪の中に住しておられる)。点塵の身雲は本標を執って輻側し(無数の仏は衆生済度の標を持って並び)、恒沙の心数は供器を擎げて駢羅(べんら)たり(無数の仏の眷属は仏に供養する器をささげて並んでいる)。一礼一瞻すれば慧剣縛を断ち(仏を一礼し一見すれば仏の智慧の剣が煩悩を断ち切る)、もしは供、もしは讃、智宝福を与う(仏の智慧が福を与える)。
伏して願わくはこの功業を廻らして仏恩を報じ奉り、国家を擁護し、悉地を尅証せん(さとりを開かん)。刹は妙楽の刹に等しく、人は不変の人に同じからん(国は密厳国土であり、人は大日如来である)。もしは卑、あるいは道、あるいは俗、財を捨て力を効すの績(善行)、筆を揮い針を投ずるの営み、木を伐り、水を汲み、饍を設け味を調え、心を挙げて随喜し、掌を合わせて低頭し、讃毀見聞、親疎恩怨、五大の遍ずるところ、心識の在るところ(心をもっている有情)、阿字を本初に悟って三宝を三密に覚り(仏法僧の三密が平等であることを身口意の三密平等の原理により覚る)、鑁文を無終に解して(梵字の鑁字の永遠の真理をさとり)五界を五智に知らん(衆生の眼耳鼻舌身の五根、地水火風空の五大が仏の五智と等しいと悟る。)法爾の荘厳豁然として円に現じ、本有の万徳森羅として頓に証せん。」
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