妙法蓮華経秘略要妙・観世音菩薩普門品第二十五(浄厳)・・26
三には人身に五つ。一には小王身。
「應以小王身得度者。即現小王身而爲説法。」
「小王」とは、天中の王に對しては人中の王を小王とす。人王の中に、金・銀・銅・鐵の四種の輪王、次第に後後を以て小王とす。又鐵輪王の一閻浮提を領するに對せば、支那日本等の王は小なり。又支那の中にも公矦(公侯、諸侯)の國は方百里なれば王も又随って大なり。伯(方七十里)子男(方五十里)附侯(五十里に足らず)の國王等は次第に又小なり。日本に於いても六十八州を総じて領するは大王なり。其の中の一國二國を領するは又小なり。一國を領ずるにも國の大小に随って亦大小の王あるべし。𦾔譯の仁王經には、十回向の菩薩、金輪王と成りて十善を以て衆生を化す、と説き(仁王護國般若波羅蜜多經菩薩行品第三「復次道種性菩薩。修十回向起十忍心。謂觀五蘊色受想行識。得戒忍定忍慧忍解脱忍解脱知見忍。觀三界因果。得空忍無想忍無願忍。觀二諦假實諸法無常。得無常忍。一切法空得無生忍。此位菩薩作轉輪王。能廣化利一切衆生」。仁王護國般若經疏「以道種性菩薩作金輪王。化四天下也。」)、新譯の仁王經には、初地の菩薩の化身と説く(仁王經疏 (「初地菩薩作閻浮王二地菩薩作轉輪聖王」)。新華厳の十地品には二地の菩薩、轉輪王と成るといへり(大方廣佛華嚴經卷第二十四十地品第二十二之二「菩薩入二地・・佛子住此地 多作轉輪王令諸衆生等 住於十善道」)。又釈迦如来昔國王と成りて衆生を利益し玉ひし事、其の因縁稱て數ふばからず。今此の小王も此に準じて知るべし。十輪經には、地蔵菩薩化して輪王と成ると云へり(大方廣十輪經卷第二諸天女問四大品第二「善男子若能如是名爲初輪灌頂王位。於其國土得安樂住初伏怨敵。壽命長遠守護身命。」)。今亦準ずべし。又真言教には地蔵と観音と同體の奥義あり。
「而為説法」とは、廣く一切の法に通ずべし。涅槃經第十一巻には仙豫王十二年の間、婆羅門を供養し了て後に無上道心を発すべしと勧誘せしに婆羅門不信にして大乗は有るものに非ずと謗ぜしかば、即ち其の婆羅門を殺害せしといへり(大般涅槃經卷第十二聖行品第七之二「我念往昔於此閻浮提作大國王。名曰仙預。愛念敬重大乘經典。其心純善無有麁惡嫉妬慳悋。口常宣説愛語善語。身常攝護貧窮孤獨。布施精進無有休廢。時世無佛聲聞縁覺。我於爾時愛樂大乘方等經典。十二年中事婆羅門供給所須。過十二年施安已訖。即作是言。師等今應發阿耨多羅三藐三菩提心。婆羅門言。大王。菩提之性是無所有。大乘經典亦復如是。大王。云何乃令人物同於虚空。善男子。我於爾時心重大乘。聞婆羅門誹謗方等。聞已即時斷其命根。」)。又仁王經には、普明王、班足王の為に般若の四非常の偈を説きて、空平等地を得せしめたりといへり(仁王護國般若波羅蜜多經卷下護國品第五「時彼衆中第一法師。爲普明王而説偈言
劫火洞然 大千倶壞 須彌巨海
磨滅無餘 梵釋天龍 諸有情等
尚皆殄滅 何況此身 生老病死
憂悲苦惱 怨親逼迫 能與願違
愛欲結使 自作瘡疣 三界無安
國有何樂 有爲不實 從因縁起
盛衰電轉 暫有即無 諸界趣生
隨業縁現 如影如響 一切皆空
識由業漂 乘四大起 無明愛縛
我我所生 識隨業遷 身即無主
應知國土 幻化亦然
爾時法師説此偈已。時普明王聞法悟解證空三昧。」)此れ等の類なるべし。