「それ釈教は浩汗(こうかん)にして際(きは)なく、涯(はて)なし。一言にしてこれを弊(つく)せば、ただ二利にあり。
常楽の果を期するは自利なり。苦空の因を済(すく)ふは利他なり。空しく常楽を願うも得ず。徒(いたずら)に抜苦を計れどもまた難し。必ずまさに福智兼ねて修し、定慧並べ行じて、いましよく他の苦を救い、自の楽を取るべし。(弘法大師「御請来目録」)
」(お釈迦様の教えは果てし無く広いが、一言にして之を言えば「自利・利他」である。悟って常楽の境地に遊ぶことを求めるのは自利であり、空の世界にいながら苦しむ衆生の苦の原因を救ってやるのは「利他」である。常楽だけを願っても得られず、衆生済度のみを願っても難しい。必ず利他という徳を積む福行と,自己の悟りを完成するための智行を共に修行し、また禅定行と智慧行を共に修行してはじめて自利利他行が全うできる。)(弘法大師「御請来目録」)
「もし善男善女ありて生死の苦根を断じ、菩提の妙果に至らんと欲せば、まず福智の因を積んで、しかるのちに無上の果を感致せよ。福智の因といふは妙経を書写し、深義を講思するは、すなわちこれ智慧の因なり。檀等の諸行はすなわちこれ福徳の因なり。よくこの二善を修し四恩を抜済し、衆生を利益するときは自利利他の功徳を具し、すみやかに一切智智の大覚を証す。これを菩提といい、これを仏陀と称し、または真実報恩者お名つ゛く。(大師、「理趣経開題」)(布施と写経により自利利他行をすれば生死の難より逃れ得る)。
このように、大師は至る所で、利他行の大切さを説いておられます。
お大師様は満濃池を大改修され、庶民の為に綜芸種智院を開校されました。
鎌倉時代、伊勢神宮や石清水八幡宮に祈願して蒙古を退散させた興正菩薩叡尊や忍性菩薩は真言律宗を復興させるほどの行者でありながら北山十八間戸(福祉施設)を設置するなど大変な利他行に努められています。
そこまでいかなくても、我々が日常修法する密教の行法のなかでは必ず全ての衆生の業を滅ぼすための修法が組み込まれていますし、読経の最後には「願わくはこの功徳を以て遍く一切に及ぼし・・・」と回向文を唱えます。いまでも、僧侶の間の手紙では「二利双修のこととお喜び申し上げます・・」とよく書きます。
自分自身は、「二利」ともに修行不足であること甚だしい、と切に感じる毎日でが、困ったことが起きたときは、修法とボランテアにはげむと何度も危機を脱することができたことも確かです。
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