今日弘仁十四年823正月廿日は大師(50歳)が「酒人の内公主がための遺言」を代筆された日です。
この酒人の内親王(光仁天皇の王女)はなかなかさばけた人で、すでに逆修をおわっているので 簡素にせよ・・といっています。いまでも大変参考になる遺言です。
「酒人の内公主がための遺言(酒人の内親王は光仁天皇の王女。天長六年八月に薨ぜられたので大師が遺言を代筆されたもの)」
われ式部卿と大蔵卿と安敕(あと・桓武天皇第十三王女)の三箇の親王に告ぐ。それ道は本より虚無なり。終わりもなく始もなし。陰陽気構えて尤霊(ゆうれい・人間)すなわち起こる。起こるを生と名け、帰るを死と名く。死生の分は物の大帰あんり。わが齢、従心(70歳)にして気力俱に尽きぬ。いはんやまた四蛇身府に相闘ひ、両鼠命藤を争ひ伐る。すでに夢蝶のわれにあらざることを知って還って谷神(魂)の忽ちに休するに驚く。
またそれ提挈(ていけつ・引き連れる)は親なり。遠きを追ふものは子なり(親の死ぬまで面倒を見るのは子である)。われに一箇の瓊枝(けいし・子供)あり。不幸にして露に先だてり(親より先に死ぬ)。これを顧みるに恨恨たり。顧命するに(遺言する)人なし。猶子(兄弟の子供)の義は礼家の貴ぶところなり。ゆえに三箇の新王を取ってもって男女とし、終わりを慎むの道ひとえに三子に任せたり。
われ百年の後、荼毘を願はず(自分の死後は火葬をしなくてよい)。これを墳穸に封じてこれを自化にまかせよ。明器雑物(葬儀の器や副葬品)ひとえに省約に従へ。これわが願なり。追福の斎は存日に修し了んぬ。(すでに逆修してある)。もし事已むことをえずは、春日の院において七七の経を転ぜよ。周忌をばすなわち東大寺にてせよ。所有の田宅林牧等の類は三箇の親王と及び眷養の僧仁主(不明)に班ち充つ。自外は労に随って家司・僕孺等に分ち給へのみ。亡姑告ぐ。
弘仁十四年正月廿日」
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