「・・私はあるとき突然お大師さんのイメージの背後から人間空海が語りかけてくるのに出会ってしまった。・・そのころの私の精神は真っ暗闇の泥沼をあがきつかれてへとへとになっていた。・・私はその後姿にひかれて夢中であとを追った。するといつのまにか泥沼は消えて清らかな山林の小道をこちらもすたすたと歩いていた。ただ歩いているだけではないクウカイのとなえる虚空蔵菩薩の陀羅尼をとなえていたのである。・・・そのときわたしは二十一歳。京都大学で哲学を学んでおり、銀閣寺の近くに下宿していたのだが毎朝未明に起きて銀閣寺の裏にそびえる如意が嶽(大文字山)の大師堂に通いながら虚空蔵の陀羅尼をとなえつずけた。来る日も来る日も未明に起きて山道に分け入りダラニをとなえつずけた。・・こんな行為をたゆみなく重ねるうちに春を過ぎ夏を迎える頃になるといつのまにか泥沼は消え去っていた。(「空海と最澄」)すこしながすぎる引用になってしまいましたがここに語られているような経験が半世紀あまりに及ぶ私と仏教とのかかわりの出発点となったのです。きっかけは岩波文庫本の「三教指帰」でした。・・その序文にある出家から虚空蔵求聞持法を教わってその行に没頭したことが人生の大きな転機となったといった意味のことが書かれておりわたくしはこれだと思ったのです。・・わたくしはまったく自己流で求聞持法をはじめてしまったのです。(続)
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