大師の「高野建立の初めの結界の啓白の文」です。
「高野建立の初めの結界の啓白の文」
「沙門遍照金剛、敬って十方諸仏、両部の大曼荼羅海会の衆、五類の諸天及び國中の天神地祇、竝に此の山中の地、水、火、風、抜済せしむ空も諸鬼等に白さく。
夫れ形あり識(こころ)有るものは必ず佛性を具す。佛性法性法界に遍して不二なり。自身他身一如と與にして平等なり。
之を覚るものは常に五智の台(うてな)に遊び、之に迷ふ者は毎に三界の泥に沈む。
是の故に大悲大日如来独り三昧耶の妙趣を鑑みて六趣の塗炭を悲嘆したまふ(大日如来は衆生が六道を流転して苦しんでいるのを救うため驚かして悟りの道に入れんとして)。如実智(大日如来の智恵)の雷、法界の殿に震い、秘密の曼荼、閻浮提に傳はる。金剛薩埵、龍猛菩薩の傳へ授けしより、師師相傳へて今にいたるまで絶えず。
遂に弘教和尚、弁正三蔵(大広智不空三蔵)、錫を振るって東来して漢地に流傳して、群生を抜済せしむ。然りといえども地泓海(深い海)を隔てて、人機(法を伝える人とその機質)未だ塾せず。教秘閣(密教のありか)につつんで未だ此の朝に及ばず。
ム甲(それがし)、幸に諸佛の加持力と幽明機塾の力を頼って去んじ延暦廿三年を以って彼の大唐に入る。大悲胎蔵及び金剛界会、両部の大曼荼羅の法ならびに一百余部の金剛乗を奉請して平らかに本朝に帰れり。
地相応の地無く、時正しく是の時に非らず。日月苒荏(じんぜん)として忽に一紀に過ぐ(十二年が過ぎる)。ここに輪王、運を啓いてこの法を弘めむと擬するに、必ず須らく其の地を得べし。四遠を簡び択ぶにこの地卜食(うらはみ・亀の甲を焼いて卜う)す。
天皇陛下、特に恩爾(恩徳の印鑑)を下してこの伽藍の処を賜へり。今上には諸佛の恩を報じて密教を弘揚し、下は五類の天威を増して群生を抜済せむがために、一(もはら)、金剛乗秘密教に依って両部の大曼荼羅を建立せむと欲ふ。
仰ぎ願わくは、諸佛歓喜し、諸天擁護し、善神誓願してこのことを證誠したまへ。所有東西南北四維上下七里の中の一切の悪鬼神等は皆我が結界を出去れ。所有一切の善神鬼等の利益あらむものは心に随って住せよ。又願わくは、この道場は普く五類の諸天及び地、水、火、風、空の五大の諸神ならびにこの朝開闢以来の皇帝皇后等の尊霊、一切の天神地祇を以って檀主とす。伏して乞ふ。一切の冥霊昼夜に擁護して此の願を助け果たせ。
敬白。
ム年ム月ム日」
「高野建立の初めの結界の啓白の文」
「沙門遍照金剛、敬って十方諸仏、両部の大曼荼羅海会の衆、五類の諸天及び國中の天神地祇、竝に此の山中の地、水、火、風、抜済せしむ空も諸鬼等に白さく。
夫れ形あり識(こころ)有るものは必ず佛性を具す。佛性法性法界に遍して不二なり。自身他身一如と與にして平等なり。
之を覚るものは常に五智の台(うてな)に遊び、之に迷ふ者は毎に三界の泥に沈む。
是の故に大悲大日如来独り三昧耶の妙趣を鑑みて六趣の塗炭を悲嘆したまふ(大日如来は衆生が六道を流転して苦しんでいるのを救うため驚かして悟りの道に入れんとして)。如実智(大日如来の智恵)の雷、法界の殿に震い、秘密の曼荼、閻浮提に傳はる。金剛薩埵、龍猛菩薩の傳へ授けしより、師師相傳へて今にいたるまで絶えず。
遂に弘教和尚、弁正三蔵(大広智不空三蔵)、錫を振るって東来して漢地に流傳して、群生を抜済せしむ。然りといえども地泓海(深い海)を隔てて、人機(法を伝える人とその機質)未だ塾せず。教秘閣(密教のありか)につつんで未だ此の朝に及ばず。
ム甲(それがし)、幸に諸佛の加持力と幽明機塾の力を頼って去んじ延暦廿三年を以って彼の大唐に入る。大悲胎蔵及び金剛界会、両部の大曼荼羅の法ならびに一百余部の金剛乗を奉請して平らかに本朝に帰れり。
地相応の地無く、時正しく是の時に非らず。日月苒荏(じんぜん)として忽に一紀に過ぐ(十二年が過ぎる)。ここに輪王、運を啓いてこの法を弘めむと擬するに、必ず須らく其の地を得べし。四遠を簡び択ぶにこの地卜食(うらはみ・亀の甲を焼いて卜う)す。
天皇陛下、特に恩爾(恩徳の印鑑)を下してこの伽藍の処を賜へり。今上には諸佛の恩を報じて密教を弘揚し、下は五類の天威を増して群生を抜済せむがために、一(もはら)、金剛乗秘密教に依って両部の大曼荼羅を建立せむと欲ふ。
仰ぎ願わくは、諸佛歓喜し、諸天擁護し、善神誓願してこのことを證誠したまへ。所有東西南北四維上下七里の中の一切の悪鬼神等は皆我が結界を出去れ。所有一切の善神鬼等の利益あらむものは心に随って住せよ。又願わくは、この道場は普く五類の諸天及び地、水、火、風、空の五大の諸神ならびにこの朝開闢以来の皇帝皇后等の尊霊、一切の天神地祇を以って檀主とす。伏して乞ふ。一切の冥霊昼夜に擁護して此の願を助け果たせ。
敬白。
ム年ム月ム日」