大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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☆(  しづめばこ P574 )                          

霧の狐道144

2008-11-13 19:27:13 | E,霧の狐道
田中爺は満足そうに俺に言った。

「 うん、分かったなら、それでええわ。
 あ、ションベン、行って来ォ!
 説明で一生懸命やったから、行きたいの忘れてた。」

田中爺は、着物の前を閉じて、スリッパを足に引っ掛けて大急ぎで部屋を出て行った。

“ で、田中爺は一体何で入院しているのだろう?
 手術の跡は治っていたように見えたけど・・・・。”

田中爺は、昔の話はしていたが、今は分からない。
俺は、取り敢えず田中爺は京都の人だろうと言うことは理解できた。
 それで、そのとき山本爺は何をしていたかと言うと、相変わらず無言で布団を眼の下まで被って、俺と田中爺のやり取りを見ていた。
そして、田中爺がトイレに去って行くの眼で追ってから、田中爺が視界から消えると視線がサッとこちらに戻ってきた。
俺と山本爺の視線がピッタリ合う。

“ うっ・・・・。”

山本爺は何も喋らず、眼はジッと俺を見ている。

「 えっとォ~・・・・・・。」

俺は山本爺の視線にたじろぎ、バツが悪くなって空中に眼を泳がせた。
病室に重い空気が流れる。

“ 田中爺とだけ喋って、山本爺と喋らないのはマズイよなァ・・・。”

俺は話す内容も考えず、山本爺にも声を掛けた。

「 あの~・・・・・。」

山本爺は、両手で布団をサッと引き上げて顔を隠した。

「 あらっ・・・・・・?」

額まで引き上げられた布団の上には頭だけが見え、ヒナ鳥のような白髪がツンツン立っている。

“ 人見知りが激しいのかな?
 喋ってくれないし・・・・。”



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