田中爺は満足そうに俺に言った。
「 うん、分かったなら、それでええわ。
あ、ションベン、行って来ォ!
説明で一生懸命やったから、行きたいの忘れてた。」
田中爺は、着物の前を閉じて、スリッパを足に引っ掛けて大急ぎで部屋を出て行った。
“ で、田中爺は一体何で入院しているのだろう?
手術の跡は治っていたように見えたけど・・・・。”
田中爺は、昔の話はしていたが、今は分からない。
俺は、取り敢えず田中爺は京都の人だろうと言うことは理解できた。
それで、そのとき山本爺は何をしていたかと言うと、相変わらず無言で布団を眼の下まで被って、俺と田中爺のやり取りを見ていた。
そして、田中爺がトイレに去って行くの眼で追ってから、田中爺が視界から消えると視線がサッとこちらに戻ってきた。
俺と山本爺の視線がピッタリ合う。
“ うっ・・・・。”
山本爺は何も喋らず、眼はジッと俺を見ている。
「 えっとォ~・・・・・・。」
俺は山本爺の視線にたじろぎ、バツが悪くなって空中に眼を泳がせた。
病室に重い空気が流れる。
“ 田中爺とだけ喋って、山本爺と喋らないのはマズイよなァ・・・。”
俺は話す内容も考えず、山本爺にも声を掛けた。
「 あの~・・・・・。」
山本爺は、両手で布団をサッと引き上げて顔を隠した。
「 あらっ・・・・・・?」
額まで引き上げられた布団の上には頭だけが見え、ヒナ鳥のような白髪がツンツン立っている。
“ 人見知りが激しいのかな?
喋ってくれないし・・・・。”
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