日々の恐怖 8月28日 不愉快
幼稚園のときの話です。
幼い頃の話なので細部の記憶が正確では無いし、また思い込みもあると思いますが話します。
うちの幼稚園では、“きんきんさん”と言う人がいるらしかったのです。
というのも、必ず誰でも見えるわけではなく、クラスの半分くらいの子しか見ることができませんでした。
私は見えない方だったので、その話題になる度にどんな人か聞きました。
ですが、見える友人達は皆よく分からないという答えばかりで、詳しく聞いたことはありませんでした
最初は私に教えたくないんだと思っていましたが、どうやら本当に分からないようです。
確かに見えるんだけれど、それを言葉にしようとすると難しい。
これが見える友人達の意見でした。
ある時、先生にそのことを話してみました。
これだけクラスで話題になっているのだから、きっと先生も知っているだろうと思っていましたが、
「 何その話、初めて聞いたなぁ・・・。」
と言われました
それで、先生にその人のことを聞かれましたが、私自身見たことがないので答えようがありません。
仮に知っていたとしても、言葉に表すことはできなかったと思います。
なので、私もよくは分からないが、こういう人がいるらしいということだけ言いました。
それから結構日が経った頃です。
夕方に数人の友達と残っていて、鬼ごっこをしようということになりました。
幼稚園の裏には大きな石段や木があって、恰好の遊び場だったのですが、昔事故があってからはそこで遊べなくなっていました。
それでも鬼ごっこをするにはスリルのある場所だったので、バレないようにこっそりと裏へと行きました。
最初は鬼ごっこを楽しんでいましたが、その途中に1人の子が、
「 きんきんさん、きんきんさん!」
と叫び出しました。
皆も、
「 本当だー、きんきんさん!」
と同調していました。
どうやら皆見える子達だったらしく、私しか見えていないようです。
でも、ここで見えないと言っても決してバカにするような子達ではありませんでしたが、1人だけというのは少し恥ずかしい気持ちでした。
「 見えないのー?」
と訊かれて、いつものように、
「 うーん、まだかなー。」
と曖昧に答えました。
すると、皆が一斉にこっちを真顔で振り向きました。
皆同じような表情で、いつもとは違う気がしました。
私は怖くなって、つい、
「 やっぱり見えるよー。」
と嘘をついてしまいました。
「 だよね。」
とニコッと笑いかけられ、すぐにまた友達達は、いつもの状態に戻りました。
それで、しばらくはそのきんきんさんに手を振ったりしていました。
そのうち、私達がいないことに気付いた先生がこっちにやって来ました。
その先生は、前に私がきんきんさんについて質問した先生です。
先生にダメと言われていた所に行って叱られ、ちょっとシュンとしていましたが、その後に、
「 何してたの?」
と訊かれて、友達達は、
「 鬼ごっこしてたらきんきんさんが来た。」
と答えました。
先生は興味深そうに、
「 何それ?」
と訊いていました。
普段なら、えっとねーと友達達は先生に話すのですが、何故かその時だけは両目を両手で覆い、
「 見えませんー、知りませんー。」
と言うのです。
私は初めて見た友達の様子に驚いて、きょとんとしていました。
1人だけではなく全員がしています。
そして、突っ立っているだけで同じことをしていない私を、皆が指を少し開けて真顔で見つめるのです。
それに驚いて、私も焦って同じことをしました。
先生はますます気になったらしく、
「 教えてよー。」
と詳しく訊こうとしていました。
すると、いきなり1人の女の子が先生の目に親指を突き出しました。
先生は尻餅をついて避けましたが、今度はその女の子が自分で親指を目に突っ込み出しました。
先生も私もびっくりして、
「 やめてやめて!」
と叫びましたが止めません。
周りの子達はまた空に向かって、
「 見えませんー、知りませんー。」
と言っています。
そして、1、2分もすると、その子も元の状態に戻って、目が痛い痛いと涙目になっていました。
それでも、周りの子達は別段気にする様子もなく、ポーッとしていました。
驚いた先生が急いでその子を救護室に連れて行こうとしたので私もついて行こうとすると、皆から、
「 んーーーー!」
と言葉にならない声で、行くなと言うような圧力を掛けられました。
それから少し騒ぎになり、親も呼ばれたりしましたが、結局理由は分かりませんでした。
その後、一週間程すると、彼女が転校になりました。
朝、急にそのことを言われて私はびっくりしましたが、その彼女はお別れの挨拶だけをしに幼稚園に来ていました。
そのとき、彼女は両目を包帯で覆っていて、お母さんもついて来ていました。
挨拶が終わり、帰り際に私が、
「 今までありがとう、違うところでもがんばってね。」
と言うと、
「 きんきんさんに、嘘ついちゃダメだよ。」
と言われてドキッとしました。
お母さんも何度か見たことありましたが、そのときは何だか違う人のように見えました。
最後に手を振ると、小声で、
「 死んじゃえば良かったのに・・・。」
と言われてスゴク不愉快でした。
話はこれで終わりですが、今でもあれが何のことだったのか、よく分かりません。
とりあえず、今でも不愉快です、あ~、もう、思い出しても、腹立つ!
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