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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 8月6日 蛙釣り

2014-08-06 19:06:09 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 8月6日 蛙釣り




 これは今から20年程前、小学校3年生の頃の話です。
それは8月のある蒸し暑い夜でした。
父が車で知人の家に行くと言ったので、特についていく理由はなかったのですが、蛙がいると聞いたので、その頃はまっていた蛙釣りがやりたくてついて行きました。
 蛙釣りとは、水田の稲穂の先を一粒残して他は全て取り除き、その先を水田にいる蛙の鼻先に近づけてくわえさせ釣り上げる遊びです。
当時、蛙釣りは小学校で流行っており、俺は小学校でトップクラスの腕が自慢だったのです。
 その知人の家に行くのは俺は初めてでした。
その頃、夜に一人で出かけられない臆病者ではありましたが、初めて行く場所での蛙釣りの誘惑には逆らえず、知人宅に着くと早速一人で釣り場を探し始めました。
 すぐに釣り場を見定めると、周囲の暗闇を少し気にしながらも釣り始めました。
その夜はなぜかいつもよりもよく釣れ、普段の倍のペースで釣れました。
しばらくすると蛙も慣れて釣れなくなるので場所を替えようと移動を始めました。
その知人宅の隣には小さい神社があり、その鳥居前の電柱には電灯がついていて、その明かりに少しホッとし、その明かりの下で再び釣りに夢中になっていました。
 しかし、しばらくするとまた釣れなくなり、興奮も収まってきたので再び移動しようと顔を上げたとき、周囲の異変に気付きました。
いつの間にか辺りは深い霧に包まれていました。
周囲の電柱には何本かおきに電灯があり、また小型懐中電灯も持ってきていたので霧の中ということは容易に判断できました。
 しかし自分の住んでいる地域では夏に霧が発生することは無く、その見慣れぬ状態と視界の悪さに忘れていた恐怖感が戻り、父の所に帰ろうと知人宅を目指しました。
でも、進めども進めども家が見えてきません。
 道を間違えたかとも思いましたが、俺は当時方向感覚が鋭く、道や方向を間違うことは一度もありませんでした。
それ以前に隣接した神社の前にいたのだから歩いても1分とかからないはずでした。
おかしいなと思った瞬間、周囲に突然何かの気配が感じられました。
 姿は見えないがかすかに足音のようなものが聞こえました。
人が歩くような足音ではなく、言葉で表すのは難しいのですが、“ヒタヒタ+ポタポタ”というような音でした。
だんだんとその音は近づいてくるように感じました。
 頭の中は恐怖でいっぱいになり、その気配を何とかやり過ごそうと道を外れ、路肩の畦道に立ち止まり、道の方を向きました。
気配はさらに自分との距離を縮め、通り過ぎろと祈りましたがその思いは誰にも通じず、自分の前で止まり、こっちを向いたように感じられました。
 俺は半泣き状態で一歩後ずさりをした瞬間、足を滑らし田んぼに落ちました。
いや、落ちたはずでした。
気がつくと田んぼと灌漑用の溝を仕切るコンクリートの上に立っていました。
左手に田んぼ、右手に畦道の土壁です。
 周りはまだ深い霧に包まれていました。
足を滑らした時に懐中電灯を落としたらしく、はっきりと判別はできません。
闇に目が慣れるまでその場を動かず、というか恐怖で動けず時は過ぎていきました。
 しばらくすると闇に目が慣れ、ぼんやりと周囲が月明かりで明るくなっていき、それと同時に霧が晴れていきました。
 周りが見えてくるにつれ、周りの異変にも否が応にも気付きました。
前後50cmくらいの間隔で何かいる。
大人くらいの背丈の何か。
人の様ではあるが人ではない様に感じました。
 霧が晴れるにつれ、周囲の状況が把握できるようになりましたが、その異常さは理解ができませんでした。
何かの気配があったのは前後だけではありませんでした。
その前にも後ろにも同じようなものが並んでいる。
まるでブランドバッグの限定品に行列している人々のようでした。
怖かったのですが、もう一度確認しようと恐る恐る後ろを振り向いた時、心臓が凍りつくくらいにドキゾクッとしました。
 その人のような物の全ての顔の部分に狐の面がついていました。
能面の狐の目をさらに吊り上げたような感じでした。
そしてその狐面はグッと体を押してきました。
押された俺は、前に出ました。
 足元は細くて不安定なコンクリートで、否応なしに前に進まされていると、前にいた何体もの狐面が一つ一つ姿を消していきました。
自分の眼前にいた狐面が姿を消した瞬間、何が起こっているか理解できました。
 足元に穴が開いており、そこに落ちていったようでした。
俺は踏み止まろうと抵抗しましたが、後ろからの圧力には勝てずに、自分も落ちていきました。
 土のスライダーを滑り落ちているような感じでした。
5秒ほどで底に着き、そこで見たものは落ちる前と同じ風景です。
左手に田んぼ、右手に畦道の壁です。
 後ろの狐面もすぐに滑り降りてきて、再び妙な行列は始まりました。
しばらく進むとまた穴があり、その底にはまた同じ風景です。
何度も何度も同じことを繰り返し、どれくらいの時間がたったのかわかりませんでした。
 しかし、頭がだんだんと冷静になっていったのか、滑り落ちる穴が深くなっていることに気がつきました。
最初5秒位滑落していたのが10秒位になっている。
さらに何度か歩いては落ち歩いては落ちを何度も繰り返すと、今度は穴が底なしになりました。
かなりの時間滑り落ちていた感じがし、このまま永遠に落ち続けるかのようでした。
 その時、何か低い音が轟きました。
猛獣が吠えた様なおなかに響く威圧感がありました。
その音を聞いた途端目の前がぼやけ、かすみ、意識が遠ざかっていくのを感じました。
 意識が戻ったとき、目の前には父の顔がありました。
帰ろうと捜しに来たところ、神社の狛犬の像に寄りかかるように倒れていたらしいのです。
ケガとかは無かったので大騒ぎにはならず、そのまま帰ったのですが、翌日、父にこの出来事を話したところ、不思議な顔をされました。
 父いわく、知人の家の窓から俺の姿が見えていたと言うことです。
ずっと同じところをうろうろしていたらしいのです。
蛙釣りが好きなのを知っていたため、別に不審にも思っていなかったと言っていました。
もちろん霧のことも言ったのですが霧など出ておらず、満月だったため非常に明るかったらしいのです。
しかし、その日着ていた服の背中からお尻にかけて土まみれでひどく汚れていたとは言っていました。
 今から思うと最期の咆哮の主は発見時に寄りかかっていた狛犬で、狐に憑かれようとしていた俺を守ってくれたのでしょうか。
ちなみにその神社が何を祀っていたのかはわかりません。
というか、その神社がどこにあったのか、今となってはわからないのです。
父に聞こうにも鬼籍に入ってしまい、不可能になりました。
母はその知人の家は知らないそうです。













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