日々の恐怖 6月9日 窓の外
3年ほど前、関東のとある古い大学病院に入院したときのことです。
換気のために病室の窓を開けていると、部屋付きの看護助手のおばちゃんが、
「 ごめんね~。
ここ、閉めさせてね!」
とバタバタ閉めていく。
「 暑いよ~。」
と不満を言うと、おばちゃんは、
「 落ちる人がいるから・・・・。」
みたいなことを言う。
それで、
「 朝、病院に来るとね、この窓の外に患者さんが立っているのよ。
で、下から見上げた私たちと目が合うと、ニッコリ笑ってから飛び降りるの。
そんなことが何回かあってね・・・・。」
同室の人たちは思わず顔を見合わせて沈黙した。
” 何でそんな話をここでする?”
と、こっちの顔に書いてあったのか、おばちゃん、
「 ああ、余計な話をごめんね~。」
と、そそくさと出て行ってしまった。
その後、手術を受けて別の病棟に移動になったんだけど、ある日の夜中に人の声で目が覚めた。
何だろうと耳を澄ませると、一番窓際のおばあちゃんがベッドに起き上がって窓の外を見ながらお経を唱えてるのがわかった。
しばらくブツブツと念じて、やがて静かになったんだけど、翌朝は何もなかったかのようにいつも通りの様子だった。
ちなみに、飛び降りの話を聞いた病棟とは、中庭を挟んで対面の病室だった。
単にそれが習慣だった、といえばそれまでだけど、
” 一回寝てからわざわざ起きて念仏唱えるかなあ・・・・。”
と不思議で不気味だった。
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