日々の恐怖 5月15日 箱(4)
Sさんは半泣きの弟に、言い聞かせた。
「 あれは自分が受け継ぐと決まっているものだから、お前は心配しなくていい。
自分が受け継いだら、すぐに処分する。
それまでは、できるだけ近寄らないように気を付ければいい。」
その後、Sさんは結局地元へ戻り、そこで就職した。
確かに働ける職種は少なかったが、就職するにあたって女性が特別不利ということでもなく、また就職後はセクハラ被害にあうこともなかった。
「 たまたま、運が良かっただけかもしれないけどね。
でも、少し疑っちゃうよね。
兄さんが私を疎んで、嘘を言ったのかなって・・・・。」
実際のところ、どうだったのかはわからない。
もはや、確かめようのないことだ。
弟は大学進学を機に家を出て、そのままそちらで就職した。
帰省はめったにしないが、それなりに連絡は取っているという。
「 箱は、受け継いだんですか?」
「 まだです。
今は、母が健在だから。」
「 もしよかったら、一度見せてください。
外見だけでいいので。」
「 いいよ。
処分する前に、連絡するね。」
最後に、そんな話をして別れた。
この数年後、一通のメールを送ってきたきり、Sさんとは音信不通になった。
最後のメールは、箱を受け継ぐことになったと知らせるものだった。
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