日々の恐怖 3月8日 極秘の依頼
土方系ITに努める彼の事務所にある日、某所より依頼があった。
「 なんか極秘の依頼だとかで・・・・。」
正式な発注者名も告げられず、営業も通さず社長自身が窓口をやっていた。
納入明けに社長が一席設ける程、非常に美味しい条件の依頼らしかったのだが、
「 カメラに映る人影を消す、それだけの仕事。」
幾つかのサンプル動画を与えられ、一定の条件を持つ人影を自動的に消すフィルターを作成する。
そのフィルターをまた別のサンプル動画に適用し、効果を試す、という繰り返し。
動画には、煌々と照明に照らされた2車線の道路が映っており、両側は壁。
どちらの車線も車はかなり飛ばしていて、手前から画面奥へと消えていく。
交通量は多くなく、画面を虫がしばしば横切るので、山の中の高速道路の片側二車線のトンネルとしか考えられない。
そこを人影が横切る。
片足で着物姿の小学生ぐらいの子供が、壁から壁へヒョコヒョコと横切るそうだ。
「 壁から壁、ってなんだよ?」
と聞くと、
「 壁からスッと出てきて、反対側の壁にまたスッと消えるんだよ。」
特徴あるシルエットだったので、人影の抽出や消去は容易だったそうだが、
「 変なんだよね。車が素通りするし。」
一部の車は明らかに人影を避けてハンドルを切って避けるのだが、
「 ほとんどの車は、何も見えていないかのように轢いて行っちゃう。
そいつは轢かれても車を通り抜けて、何事も無かった様にヒョコヒョコ歩いているし。」
さらに、
「 轢かれる時と壁から出てくる時、全身が見えない時は、どうしても輪郭がね・・・・。」
プレデター状態になってしまったそうな。
発注元に社長を通して確認すると、
「 常時一つの画面を注視していないから、それで結構。
レスポンスと納期重視で。」
という回答。
テレビでやっていた高速道路の管制室のマルチモニターの映像が、彼の頭の中で浮かんだ。
山中を走る高速道路。
そこは古えの魑魅魍魎の世界と、最先端の科学が直に肌を接する異界です。
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