日々の出来事 5月19日 ハレー彗星
今日は、ハレー彗星騒動があった日です。(1910年5月19日)
ハレー彗星は、約76年周期で地球に接近します。
前回は1986年、次回は2061年に出現予定です。
オックスフォード大学のエドモンド・ハレーは、1705年にSynopsis Astronomia Cometicae(彗星天文学概論)において、約76年周期で地球に接近する彗星があることを発表しました。
この彗星は、惑星以外で太陽系を公転する天体の初めての例となります。
そして、次回は1758年に現れることを予言し、予言の通り彗星が現れたため、この彗星はハレー彗星と呼ばれるようになりました。
特に、1910年5月19日のハレー彗星は、地球に大接近し、非常に見やすく初めて写真撮影もされました。
この大接近時、地球が彗星の尾の中を通過することが予測され、彗星の尾には有毒のシアンが含まれていることも知られていたので、人類は破滅するとセンセーショナルに煽ったメディアもありました。
そして、呼吸用の空気を確保するため、自転車のタイヤのチューブが売れました。
「 ハレー彗星、キタ―――(゚∀゚)―――ッ!!!! 」
「 タイヤのチューブだァ~!」
「 あれっ、行っちゃった・・・・・?」
「 ?(´・ω・`)?」
ドラエモンの話にも取り上げられた出来事です。
実際には彗星のガスは非常に薄いので、地球の濃い大気はガスを跳ね除け、地球が尾の中を通過しても何も起きませんでした。
ハレー彗星
☆今日の壺々話
星に願いを
夫「 流れ星が消える前に、三回願いが言えれば、その願いが叶うんだ。」
嫁「 あっと言う間に消えちゃうから、大急ぎで言わなきゃね。」
長女「 そりゃ、大変だわ。」
長男「 じゃ、練習しておこう。」
それぞれがブツブツ言いながら、夜が来ました。
四人が庭に並んで夜空を見上げていると、流れ星が出現!
夫「 カネカネカネ!」
長男「 オンナオンナオンナ!」
長女「 オトコオトコオトコ!」
嫁「 イサンイサンイサン!」
夫「 誰の?」
嫁「 えっ!?!」
こりん星
兄貴の家族が実家に遊びにきた。
兄貴の子供(女の子:小1)は、小倉優子がこりん星から来たと本気で信じてて、談笑する大人の間を一生懸命説明して回ってた。
場にいた大人は誰一人相手にしなかったが、俺は「俺の姉貴(24歳)もね、こりん星人なんだよ!」と教えてやった。
その時、台所から顔を覗かせた姉貴がダッシュで二階に上がる気配がしたので、ちょっと時間をあけてから「証拠見せてやるよ」と、俺も姪っ子を連れて二階に上がった。
アラビア文学専攻の姉貴はカイロ留学から帰ってきたばかりで、部屋はアラブの本だらけ。
姪っ子は1冊を手に取りパラパラめくると、驚いた顔で次々本を手にとってめくる。
そこにクローゼットの中から姉貴登場。
まだ荷物のバラシがすんでないのでクローゼットは空っぽだったが、アルミホイルで簡単な装飾がなされており、即席UFO風。
ヘッドフォンを縦(おでこから後頭部)に回し「ポピペパペペピッパペポープ」みたく、p音のみで構成された言語を、アラビア語にまぶして話す姉貴。
「 あ、電話中だった?ゴメ。」と言うと、
「 いいの、星から。すぐ終るヨ。」と流暢な日本語で笑う。
姪っ子は、歓喜と恐怖の入り交じった表情で、「おとおさーーーーん!おかあさーーーーん!」と転がるように階段を下りていった。
部屋に残った姉貴と俺はニコニコ。
姉貴がこりん星人なら、お前もこりん星の血が入ってるわけだがな。
にんじん
俺の母親は、俺が2歳の時にがんで死んだそうだ。
まだ物心つく前のことだから、当時はあまり寂しいなんていう感情もあまりわかなかった。
俺が小学校に入学してすぐ、父母同伴の遠足があった。
父は仕事で忙しく、一緒に来られなかった。
一人お弁当を食べる俺を、友達のY君とそのお母さんが一緒に食べようって誘ってくれたので、寂しくもなかった。
でもなんとなく、Y君のお弁当に入っていた星形のにんじんが、なぜだかとっても羨ましくなって、その日仕事から帰ったばかりの父に、
「僕のお弁当のにんじんも星の形がいい」って頼んだんだ。
当時の俺はガキなりにも母親がいないという家庭環境に気を使ったりしてて、
「何でうちにはお母さんがいないの?」なんてことも、父には一度だって聞いたことがなかった。
星の形のにんじんだって、ただ単純にかっこいいからって、羨ましかっただけだったんだ。
でも父にはそれが、母親がいない俺が一生懸命文句を言っているみたいに見えて、とても悲しかったらしい。
突然俺をかき抱いて「ごめんな、ごめんな」って言ってわんわん泣いたんだ。
いつも厳しくって、何かいたずらをしようものなら遠慮なくゲンコツを落としてきた父の泣き顔を見たのはそれがはじめて。
同時に何で親父が泣いてるかわかっちゃって、俺も悲しくなって台所で男二人抱き合ってわんわん泣いた。
それからというもの、俺の弁当に入ってるにんじんは、ずっと星の形をしてた。
高校になってもそれは続いて、いい加減恥ずかしくなってきて、「もういいよ」なんて俺が言っても、「お前だってそれを見るたび恥ずかしい過去を思い出せるだろ」って冗談めかして笑ったっけ。
そんな父も、今年結婚をした。
相手は俺が羨ましくなるくらい気立てのいい女性だ。
結婚式のスピーチの時、俺が「星の形のにんじん」の話をしたとき、親父は人前だってのに、またわんわん泣いた。
でもそんな親父よりも、再婚相手の女の人のほうがもらい泣きしてもっとわんわん泣いてたっけ。
良い相手を見つけられて、ほんとうに良かったね。
心からおめでとう。
そしてありがとう、お父さん。
星座別初対面見た目分類(女性向)
星座別に初対面の人から「どう見られやすいか」に焦点を当ててみました。
牡羊座……おおざっぱに見られる、実際もおおざっぱ
初対面では、相手の見た目がまず気になるもの。髪型や靴や指先。意外と細かいところまで見られています。ガサツで細かいことを気にしない牡羊座は、鏡で見えない頭の後ろに寝癖が残っていたり、靴を磨いてなかったり、ストッキングが伝線していたり、ネイルがはげていたりしがち。「ガサツな人」と思われがちなのですが、実際にそうなので、見た目通りなのです。
牡牛座……弱々しく見られる、しかし意外と丈夫
声が小さく、うつむきがちでふしめがち、いかにも内気で弱々しく見られがちな牡牛座。緊張のあまり顔面蒼白になっていたり、真っ赤に赤面していたり、「倒れそう」「熱があるのでは?」と思われることも。実際の牡牛座は意外と頑丈。学生時代は皆勤賞をもらっているかも。面接などの場合は、体が弱そうに見えるとマイナスなので、できるだけ胸を張って姿勢をよくしましょう。
双子座……年より若く見られる、実際の中身も若い
流行のファッションを取り入れ、イマドキ情報に詳しい双子座は、初対面では実年齢よりも若く見られることが多いでしょう。年齢を聞いて相手がびっくりすることも。その反応が見たくて「何歳に見える?」とすぐに聞く癖があるかも。頭の回転も速く、実際に中身も若いので、年下と話が合うのはいいのですが、年配者からは落ち着きがない、と思われていそう。
蟹座……年上に見られる、しかし中身は子どもっぽい
蟹座が年上に見られることが多いのは、顔が老けているという意味ではなくて、雰囲気や持ち物がもっさりしていて垢抜けていないからです。お母さんに買ってもらったバッグに、おばあちゃんが持たせてくれた裁縫セットなどなど。良く言えば家庭的で落ち着いた雰囲気なのですが実際は、落ち着きなくむしろ子どもっぽく、そのギャップが蟹座の魅力なのです。
獅子座……リーダーに見られる、実際もリーダータイプ
獅子座のリーダー的資質は、初対面の第一印象でもバッチリわかってしまいます。まず姿勢がいい、声が大きい、動作がゆっくり。本人としては緊張して固くなって動作がぎこちなくなっていると感じていても、周りからはどっしりと落ち着いているように見えるのです。本人がいくら遠慮しても否定しても、生まれついてのリーダー的素質は隠せません。
乙女座……世話好きに見られる、しかし実際は結構クール
細かいことに気付く乙女座は、初対面の場でも気配りできる人。自分のことだけでなく、周りの人の落し物を拾ったり、間違いを訂正してあげたり、面倒見てあげたり……。気付くからやっているだけなのですが、そんな姿が世話好きに見られてしまうのです。うっかりすると役員やらマネージャーやら、面倒な仕事を任されて「好きでやってるわけじゃないのに」と愚痴ることに。
天秤座……気があると思われがち、しかし実際はまるでなし
コミュニケーションスキルの高い天秤座は、相手を立てて、褒めるのが上手。初対面の相手は褒められて持ち上げられて舞い上がり、天秤座が自分に気があると勘違いしてしまいます。同性の場合も「初対面でいきなり、すごく仲のいい友達になれた!」と相手が思っていても、天秤座自身は単なる社交辞令であることが多いのです。初対面の印象がよすぎるのも考えもの。
蠍座……怖い人に見られる、しかし実際は面倒見がいい
警戒心と猜疑心の強い蠍座は、初対面ではまず、笑顔を見せません。受け答えもぶっきらぼうで、冷たくて怖い人と思われがち。そんなことは蠍座自身、百も承知でわかっていて「どうせそれが自分だから」と開き直っているのです。そのガードを越えてきてくれる人にだけ、心を許し、とことん面倒を見ます。蠍座の本当の顔を見られる人はごく少数です。
射手座……セレブっぽく見られる、しかし実際は庶民派
射手座はスタイルがよく、動作が優雅なので、一見、セレブっぽく見えます。カバンや時計も、たとえ安物でも、射手座が持っているとなんだか高価なもののように見えるのです。エキゾチックな顔立ちで外国生まれと思われることも。実際は、激安セールや屋台、B級グルメが好きな庶民派なのですが、なぜか射手座が屋台にいると、絵になるのです。
山羊座……冷たそうに見られる、しかし実際は結構熱い
山羊座の場合、表情が固く、特に初対面だと緊張して余計に能面のように無表情になってしまいがち。冷たそう、おもしろみのない人、と思われれることが多いでしょう。実際は、一途で頑張り屋で、いろんな場面で頼りになる熱いハートの持ち主。せめて、服装をモノトーンではなくて、明るい色にすると、初対面での冷たさがやわらぎます。
水瓶座……軽そうに見られる、しかし実際は硬派
しゃべると早口でフレンドリー、目上にも目下にも対等なその態度は、初対面だと軽そうに見られることが多いでしょう。服装もあまりTPOにこだわらず個性的なものを好むので、男性だとチャラい、女性だと遊んでいるタイプと見られてしまうことも。実は意外と硬派で、勉強熱心、仕事での責任感も強く、見た目ほど軽くないのです。
魚座……不思議ちゃんにみられる、実際も天然
優しい魚座は、初対面の相手を喜ばせようと気を遣います。一生懸命さとがんばりは伝わるのですが、ファッションや言動がどことなくずれているので、不思議なムードは隠せません。そして親しくなってみれば、やっぱり天然な人だったと再確認。魚座の場合、がんばりすぎると空回りしやすいので、心持ちひかえめにしているほうが自然と馴染んでいけるはず。
作家の星座別作品のイメージ
牡羊…わかりやすく、さっくりしていて明るい。時々展開が早すぎて読者を置いてきぼりにするが、それが気にならないぐらいうまくまとめる。
牡牛…単一カプ者が多く、作品にカプの2人しか出ないものが多い。作風はほんわか甘々だが、時々ぞっとするぐらい鬱ヤンデレ台詞をサラリと吐かせる。食べ物を美味しそうにかく。
双子…学パロ好き。ノリノリな楽しい展開でギャグ路線。登場人物も多ければカプも多い、しかしキャラの特徴をよく掴んでいるから、ごっちゃにはならない。
蟹座…丁寧に作られているので読みごたえがある。原作の雰囲気を崩さない。描写が細かい。ギャグになると、はっちゃけすぎててギャップに吃驚する。
獅子…ギャグはこれでもかというぐらいギャグ。シリアスはこれでもかというぐらいシリアス、しかしシリアス通り越して軽くホラーになる。強引な展開にすることがあるが、意外と好評を得る。
乙女…リーマンパロがすき。大人な雰囲気ばりばり出しちゃうぜと本人は意気込むが、何故か可愛くなる、主に受けが。スーパーにエコバック持って行ったりと、キャラの何気ない行動に生活感がでる。
天秤…色や構図にセンスがある。短い言葉で雰囲気を出せて、ふとした心理描写にドキリとする。話は良い意味で軽く、ちょっとスイーツ。攻めは絶倫、受けはビッチ。
射手…ざっくり描く。話もざっくり…だから見やすい。話もテンポがよくスピード感があるから、さくさく読める。たまに出る身内ネタはいまいち笑いどころがわからないけど、作者が一番楽しそう。
蠍…趣味趣向が全面に出ている。個性が強い。世界には2人しかいない、たまに世界が滅亡したりする。情熱的で官能的。甘いのをかくと甘々になるが、殺伐をかいても結局ドロドロ甘々になる。遊廓パロ好き。
山羊…話の内容を美化したりしない。アソコもあまり美化しないで堂々とかく。話は考えられており、枠の中にきちんと収まっているイメージ。淡白だがエロが好き。話が理屈っぽい。
水瓶…さっぱりとねっとりの差がはげしい。話はたまにぶっ飛ぶけど、納得はできる。コマ割りや言葉選びがうまい。変なこだわりがあり理解されにくいため変態扱いされることもある。
魚…少女マンガチックな桃色の片思いで切ないピュアピュアな展開を好む。受け視点が多い。童話パロが好き。鬱話をかかせるととことん病んでるものができあがる。
星雲
私が子供だった頃、友人の家に、初めて遊びに行った時のことだ。
当時私は小学六年生で、友人はその年に私と同じクラスに転校してきた。
最初の印象は『暗くて面白みのないヤツ』で、あまり話もしなかった。
季節は秋口。
学校が終わった後一端家に鞄を置いてから、私は待ち合わせ場所である、街の中心に掛かる橋へと自転車を漕いだ。
地蔵橋と呼ばれるその橋では、先に着いていた友人が私を待っていた。欄干に手をかけて川の流れをぼーっと見ている。
私のことに気付いていないようなので、そっと自転車を止め、足音を殺して近づいた。
「わっ」
後ろからその肩を掴んで揺する。
しかし、期待していた反応はなかった。声を上げたり、びくりと震えもしない。
彼はゆっくりと振り返って、私を見やった。
「びっくりした」
「してねぇだろ」
彼はくらげ。もちろんあだ名である。
何でも幼少の頃、自宅の風呂にくらげが浮いているのを見た時から、
常人では見えないものが見えるようになったのだとか。
私は今日の訪問のついでに、それを確かめてみようと思っていた。
すなわち、彼の家の風呂にくらげは居るのか居ないのか。私には見えるのか見えないのか、だ。
橋を渡って南へと、並んで自転車を漕いだ。
私たちが住んでいた街には、街全体を丁度半分南北に分ける形で川が流れており、
私は北地区、くらげは南地区の住人だった。
住宅街から少し離れた山の中腹に彼の家はあった。
大きな家だった。家の周りを白い塀がぐるりと取り囲んでいて、木の門をくぐると、砂利が敷き詰められた広い庭が現れた。
その先のくらげの家は、お屋敷と呼んでも何ら差し支えない、縦より横に伸びた日本家屋だった。
木造の外観は、長い年月の果てにそうなったのだろう。木の色と言うよりは、黒ずんで墨の様に見えた。
異様と言えば、異様に黒い家だった。
私が一瞬だけ中に入ることに躊躇いを覚えたのは、その外観のせいだったのだろうか。
「入らないの?」
見ると、くらげが玄関の戸を開いたまま私の方を見ていた。私は彼に促されて家の中に入った。
中は綺麗に掃除されていて、外観から感じた不気味さは影をひそめていた。
くらげが言うには、現在この広い家に住んでいるのはたったの四人だという。
祖母と、父親、くらげの兄にあたる次男。そして、くらげ。くらげは三兄弟の末っ子。
母親が居ないことは知っていた。くらげを生んだ直後に亡くなったのだそうだが、詳しい話は聞いていない。
長男は県外の大学生。次男は高校で、父親は仕事。
家には祖母が居るはずだとのことだったが、その姿はどこにも見えなかった。気配もない。
どこにいるのかと尋ねると、「この家のどこかにはいるよ」と返ってきた。
玄関から見て左側が、家族の皆が食事をする大広間で、右に行くと、各個人の部屋に加えて風呂やトイレがある、と説明される。
二階へ続く階段を上ってすぐが、彼にあてがわれた部屋だった。
くらげの部屋は、私の部屋の二倍は軽くあった。
西の壁が丸々本棚になっていて、部屋の隅に子供が使うには少し大きな勉強机がひとつ置かれている。
「元々は、おじいちゃんの書斎だったそうだけど」とくらげは言った。
確かに子供部屋には見えない。
本棚を覗くと、地域の歴史に触れた書物や、和歌集などが並んでいた。
医学書らしきものもあった。マンガ本の類は見当たらない。
「くらげさ。ここでいっつも何してんの?」
「本を読んでるか、寝てる」
シンプルな答えだ。
確かにくらげの部屋にいても、面白いことはあまり無さそうだ。そう思った私は、彼に家の中を案内してもらうことにした。
二階は総じて子供部屋らしい。階段を上って三つある部屋の内の一番奥が長男、真ん中が次男、手前がくらげ。
兄貴たちの部屋を見せてくれと頼んだら、「僕はただでさえ嫌われているから駄目だよ」 と言われた。
「そう言えばさ、その二人の兄貴も、見える人?」
くらげは首を横に振った。
「この家では、僕とおばあちゃんだけだよ」
一階に下りて、二人で各部屋を見て回る。
掛け軸や置物ばかりの部屋があったり、雑巾がけが大変そうな長い廊下があったり、意外にもトイレが洋式だったり。
くらげはどことなくつまらなそうだったが、私にとっては、古くて広い屋敷内の探検は、何だか心ときめくものがあった。
「ここがお風呂」
そうこうしている内に、今日のメインイベントがやって来た。
脱衣場から浴室を覗くと、大人二人は入れそうなステンレス製の浴槽があった。
トイレの時と同じように、五右衛門風呂なんかを想像していた私は、その点では若干拍子抜けだった。
中にくらげが浮いているかと思えば、そんなこともない。
そもそも水が入っていなかった。まだ午後五時くらいだったので、それも当然なのだが。
「何しゆうかね」
しわがれた声に、私はその場で軽く飛び上がった。
驚いて振り向くと、廊下にざるを抱えた腰の曲がった白髪の老婆が居た。
「おばあちゃん」とくらげが言う。
どうやらこの人がくらげの祖母らしい。
「どこ行ってたの?」
「そこらで、いつもの人と話をしよったんよ」
老婆はそう言って、視線を私の方に向けた。
「ああ。言ったでしょ。今日は友達連れて来るって。この人が、その友達」
「どうも」と頭を下げると、老婆は曲がった腰の先にある顔を、私の顔の傍まで近づけてきた。
目を細めると、周りにある無数のしわと区別がつかなくなってしまう。
その内、顔中のしわが一気に歪んだ。笑ったのだった。
そうは見えなかったが、「うふ、うふ」と嬉しそうな笑い声が聞こえた。
「風呂の中には、何かおったかえ?」
いきなり問われて、私は返答に詰まった。
何も答えられないでいると、老婆はまた「うふ、うふ」と笑った。
「夕飯はここで食べていきんさい。さっき山でフキを採ってきたけぇ」
「いや、あの……」
遠慮しますと言いかけると、老婆は天井を指差して、「夕雨が降ろうが。止むまで、ここにおりんさい」と言った。
夕雨。夕立のことだろうか。朝に天気予報は見たが、今日は一日中晴れだったはずだ。
「さっきからくらげ共が沸いて出てきゆうけぇ。じき、雨が降る」
思わず私はくらげの方を見た。無言で『本当か?』と問いかけると、
くらげは無表情のまま首を横に傾げた。『分からない』と言いたかったのだろう。
数分後。私はくらげの部屋から、窓越しに空を見上げていた。
雨が降っている。くらげの祖母の言った通りだった。
長くは降らないということだったが、土砂降りと言っても良い程、雨脚は強かった。
家に電話をして、止むまでくらげの家にいることを伝えると、『そう。迷惑にならんようにね』とだけ返って来た。
私の親は放任主義なので、子供が何をしていようがあまり気にしない。
「雨の日になると、街中がくらげで溢れるそうだよ。
プカプカ浮いて、空に向かって上って行くんだって。まるで鯉が滝を登るみたいに」
イスに座って本を読んでいたくらげが、そう呟くように言った。
「……マジで。そんなの見えてるのか?」
すると、くらげは首を横に振った。
「僕には見えないよ。僕に見えるのは、お風呂に水がある時だけだから」
私は窓の向こうの雨を見つめながら、前から気になっていたことを訊いてみた。
「なあ、そもそもさ。お前が風呂で見るくらげって、どんな形をしてんだ?」
「普通のくらげだよ。白くて、丸くて、尾っぽがあって。……あ、でも少し光ってるかも」
私は目を瞑り想像してみた。無数のくらげが雨に逆らい空に登ってゆく様を。
その一つ一つが淡く発光している。それは幻想的な光景だった。
再び目を開くと、そこには暗くなった家の庭に雨が降っている、当たり前の景色があるだけだった。
その内、くらげの父親が仕事から帰ってきた。
大学で研究をしているというその人は、くらげとは似つかない厳つい顔つきをしていた。
くらげが私のことを話すと、こちらをじろりと一瞥し、一言「分かった」とだけ言った。
口数が少ないところは似ているかもしれない。
次男はまだ帰って来ていない。但しそれはいつものことらしく、彼抜きで夕食を取ることになった。
大広間に集まり、一つのテーブルを囲むように座る。
大勢での食事会にも使えそうな部屋で四人だけというのは、いかにもさびしかった。
フキの煮つけと、白ご飯。味噌汁。ポテトサラダ。肉と野菜の炒め物。
いつも祖母が作るという夕食はそんな感じだった。
最後にその祖母がテーブルにつき、まず父親が「いただきます」と言って食べ始めた。
私も習って、家では滅多にしない両手を合わせての「いただきます」を言う。
テーブルには酒も置いてあった。一升瓶で、銘柄は読めないが焼酎の様だ。
但し、父親はその酒に手をつけようとしない。
その内にふと気がついた。
テーブルには五人分の料理が置かれていた。
私は当初、それは帰って来ていない次男の分だと思っていたが、そうでは無かった。
祖母が一升瓶を持って、一つ空のコップに注いだ。その席には誰も座っていない。
「なあ聞いてぇな、おじいさん。今日はこの子が、友達を連れてきよったんよ」
祖母は誰もいないはずの空間に向かって話しかけていた。まるでそこに誰かいるかのように。
おじいさんとは、後ろの壁に掛かっている白黒写真の内の誰かだろうか。
見えない誰かと楽しそうに喋る。たまに相槌を打ったり、笑ったり、まるでパントマイムを見ているかのようだった。
呆気に取られていると、私の向かいに座っていた父親が、呟く様にこう言った。
「……すまない。気にしなくていい。あれは、狂ってるんだ」
「うふ、うふ」と老婆が笑っている。
隣のくらげは黙々と箸と口を動かしていた。
私は何を言うことも出来ず、白飯をわざと音を立ててかきこんだ。
夕食を食べ終わったのが七時半ごろだった。その頃には土砂降りだった雨は嘘のように止んでいた。
外に出ると、ひやりとした風が吹いた。
車で送って行くという父親の申し出を断って、私は一人自転車で家路につく。
「お爺ちゃんも、雨の日に浮かぶくらげも、おばあちゃんがよくお喋りするいつもの人も、僕には見えない。
だから僕は、『おばあちゃんは狂ってないよ』って言えないんだ」
それは、私を見送るために一人門のところまで来ていたくらげの、別れ際の言葉だった。
「……もしかしたら、本当に狂ってるのかもしれないから」
くらげはそう言った。
――でも、お前も同じくらげが見えるんだろ――。
のどまで出かかった言葉を、私は辛うじて呑みこんだ。
『僕は病気だから』と以前彼自身が言っていたことを思い出す。
あの時、『あれは、狂ってるんだ』と父親が言った時、一体くらげはどう思ったのだろう。
家に向かって自転車を漕ぎながら、私はそんなことばかりを考えていた。
地蔵橋を通り過ぎ、北地区に入った時、私は思わず自転車を止めて振り返った。
一瞬、何か見えた気がしたのだ。
振り向いた時にはもう消えていた。
私はしばらくその場に立ちつくしていた。
それは光っていた。白く。淡く。尻尾のようなひも状の何かがついていたような。
あれは空に帰り損ねた、くらげだろうか。
もしもそうだったとしたら、私も少し狂ってきているのかもしれない。
しかし、それは思う程嫌な考えでは無かった。
くらげは良い奴だし、雰囲気は最悪だったがおばあちゃんの夕飯自体はとても美味しかった。
私は再び自転車を漕ぎだす。空を見上げると雲の切れ間から星が顔をのぞかせていた。
空に上ったくらげ達は、それからどうするのだろうか。私は想像してみる。
星になるんだったらいいな。くらげ星。くらげ座とか、くらげ星雲とか。
その内の一つが本当にあると知ったのは、私がもう少し成長してからのことだった。
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