日々の恐怖 10月17日 一軒家(9)
家の中に入ると、兄は居間の真ん中に置いてあるちゃぶ台でお香を炊き始めた。
太くて短いお香。
私達が珍しいお香だと興味深げに見てると、
「 これね、チベットのお香。
うちの会社で扱ってるんだよ。
天然もので白檀たっぷりだから、よく効くよ。」
と言った。
” なんに効くんだろう・・・?”
と私達が訝しがってると、やがて、お香の煙がお風呂がある方へと流れ始めた。
兄はずんずんと風呂場に向かうと、
「 こんなところに住み着きやがって・・・。」
と風呂の湯沸し器スペースに文句を言う。
兄いわく、
「 狸霊の夫婦が、ここを棲家にしてるんだよ。
おまえが聞いた老婆の歌はこいつらの文句だな。」
兄はお香を片手に、湯沸し器スペースに怒鳴り始めた。
「 こんなところに住まれちゃ邪魔なんだよ、馬鹿夫婦!
滅されたくなけりゃ、今すぐに出て行け!」
すると、今まで湯沸し器スペースに向かって流れていたお香の煙が、上に向かうようになった。
「 はい、風呂場も終了、と・・・・。」
と兄が言いかけた時、天井裏からズルズルと音がする。
「 お?
こっちも出て行ったか。
まあ、煙いもんなあ。」
と笑う兄でした。
どういうことかと問うと、湯沸し器スペースの狸の霊夫婦以外に、天井裏には大蛇の霊がいた、と言うことだった。
「 お客さんが視たっていう屋根の上の白い女ってのが、あの蛇霊だね。
さて、全員、居間に集めて。」
と、兄が指示を出す。
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