日々の恐怖 3月12日 お祓い(5)
青年神主の話は、次のようなものだった。
関東のわりと大きな神社に勤めていた頃、かつてその神社で起きた話として先輩神主が、さらにその先輩神主から伝え聞いたという話。
ある時から神主、巫女、互助会の組合員等、神社を出入りする人間が、狐のお面を目にするようになった。
そのお面は敷地内に何気なく落ちていたり、ゴミ集積所に埋もれていたり、賽銭箱の上に置かれていたりと、日に日に出現回数が増えていったという。
ある時、絵馬を掛ける一角が、小型の狐のお面で埋められているのを発見され、これはもうただ事ではないという話になった。
するとその日の夕方、狐のお面を被った少年が、家族らしき人たちとやって来た。
間の良いことにその日、その神社に所縁のある位の高い人物が、たまたま別件で滞在していた。
その人物は家族に歩み寄ると、
「 こちらでは何も処置できません。
しかし○○神社なら手もあります。
どうぞそちらへご足労願います。」
と進言し、家族は礼を言って引き返したという。
「 その先輩は、”神社ってのは聖域だから、その聖域で対処できないような、許容範囲を超えちゃってるモノが来たら、それなりのサインが出るもんなんだなぁ”って、言ってました。」
「 じゃあ、今のがサインってことか?」
と、おじさんが呟いた。
「 多分・・・・、まぁ、間違いないでしょうね。」
「 でも、あのまま帰しちゃって良かったんですかね?」
という俺の質問に青年は、
「 ええ、一応予約を受けた時の連絡先の控えがありますから。
何かあればすぐに連絡はつきますから。」
「 いやぁ、でも大したもんだね、見直しちゃったよ。」
とおじさんが言った。
俺も彼女も、他の皆も頷いた。
「 いえいえ、もう浮き足立っちゃって。
手のひらとか汗が凄くて、ていうかまだ震えてますよ~。」
と青年は慌てた顔をした。
その後、つつがなくお祓いは済んだ。
正直さっきの出来事が忘れられず、お祓いに集中出来なかった。
しかしエライもので、それ以後体調は良くなり、不幸に見まわれるような事もなくなった。
結婚後も、彼女とよくあの時の話をする。
あの日以来、彼女は心霊番組を見たりしている。
やっぱり気になっているのだろう。
しかし、だからといってあの人の良い青年神主に話を聞きに行こう、という気にはならない。
「 もしもだけどさぁ、私たちが入った途端にさ、木がビュンビュンって、揺れだしたら、もう堪んないよね~。」
彼女が引きつった笑顔でそう言った。
まったく、その通りだと思う。
あれ以来神社や寺には、どうにも近づく気がしない。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ