大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 8月16日 そいつ

2014-08-16 18:30:17 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 8月16日 そいつ



 バイト先の知り合いが霊感ある人だった。
シフトが同じで、仕事明けにいつも一緒に帰ってたんだけど、いつもあるテナントビルの前を通る度に嫌がってた。
なんでも、そこのビルの前に、数人の霊が佇んでるのが分かるとか。
 俺は霊感ないから分からないけど、聞いたら、幽霊って、別に透明だったり足がなかったりしないらしい。
そこにいる霊は普通の男女数人で、それぞれ別な方向を向いて無言で立ってるとか。
 それで、ある時に一緒に帰ってて、そのビルの前でいきなり立ち止まって上をジッと見上げだした。

「 何?」

って聞くと、そこにいつもいる霊がみんな上を見上げてるらしい。
 何かあるのかなと、しばらく二人で上見てたら、そこの真上の屋上に誰か人影がみえる。
そいつが、

「 おーい!」

と声かけたら、なんか制服着た学生が逃げて行った。

「 あれ多分、自殺するとこだったんだよ!」

ってそいつは言ってて、それってヤだなと俺は思った。

「 ビルの屋上なんて、カギかけて管理してるだろうに、なんで学生が入れるんだろうね?」

って話してたら、

「 下にいるあいつらが呼ぶから。」

って笑って言ってた。
それからしばらくシフトが変わったこともあって、そいつとは一緒に帰ることもなくなった。
 2年ほどして、俺は既にバイトを辞めてて、久しぶりにそのバイト先に遊びに行った。
そしたら、そいつがそのビルの屋上から飛び降り自殺したって聞かされた。
多分、今はあの下にいるのかも。









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日々の恐怖 8月15日 街の掟

2014-08-15 18:36:59 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 8月15日 街の掟



 そこは横浜の有名な繁華街に程近く、朝に手配師に拾われなかったアブレや、追われて行き場を失った人達がひっそり生活している街。
タバコのばら売り、靴の片売り、中古の足袋や軍手、ワンカップを買うと沢庵の尻尾が付いてきたり、煮込みには何が入ってるか分からない。
毎年冬場には無念の想いで亡くなる人も多く、地元の人は避けて通るような所だった。
 自分は当時勤めていた会社や人間関係に嫌気がさし、いつしかこの街に通うようになってしまった。
そんな人達に混じりテレビを観ながら街頭賭博をしてた頃、背後に見慣れない姿の人が立っていた。
僧侶である。
 衣はボロボロで垢だらけ、素足に長い錫杖、首には大きな木製の数珠が掛けられていた。
この街で托鉢など見たことは無かったが、素足がやけに気になった。
どんなに酔いつぶれていても、サンダルや靴ぐらいは皆履いている。
 そしてこの僧侶、人懐っこく周囲の者に何かを話し掛けているのだが、皆無視をしているのか、通り過ぎるばかりで足を止めようとしない。
そんな光景をぼんやり見ていると、自分に気付いたらしく近寄って来た。
背丈は小さく160センチ位で60歳ほど、顔は皺だらけで真っ黒、異臭を放っていた。
 博打をしている連中を指し、

「 これは何をしてるのか?」

と聞いてきた。
 自分は警察の囮捜査かと直感し口を噤んだ。
この街の掟みたいなもので、分からなければ見て覚えろ、聞いちゃいけない、と言われた通りにするしかなかった。
 相棒を肘でこづき、変なのがいる事を伝えようとして振り返ると、砂が風にさらわれるように足元から消えて無くなった。
一瞬の出来事だったが、まだ異臭は残っていた。
 それを告げると、誰一人見たものは無く、後から聞いた話には、この街には僧侶の姿の貧乏神が住んでいるらしい。
人の運をさらって行き、最後には絶命に追い込む悪い神らしいが、偶然その姿を見た者には幸運が訪れるらしい。
 それで、現在の自分だが、それから10年、紆余曲折あったが、数人の人を雇えるほどの飲食店を経営している。













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日々の恐怖 8月14日 七不思議

2014-08-14 18:45:40 | B,日々の恐怖


  日々の恐怖 8月14日 七不思議


 今の学校って七不思議とかってあったりするのだろうか。
俺が小学校の三年くらいまで通ってた学校にも七不思議はあった。
その七不思議も多くの学校で聞くようなありきたりなヤツだったが、一つだけ異色なヤツがあった。
それが、中庭に転がる見えない骨ってヤツ。
 俺が通っていた小学校には中庭があったんだけど、妙に薄暗くてムシムシするところだった。
その中庭には木に囲まれた小さな池があるんだけれど、その池の前に人の目では見えない人骨が転がっていて、それに躓くと消えてしまうだったか、死んでしまうとかって話だった。

 俺には物心つくぐらいから仲良くしてて、小学校も同じになった友達が3人いた。
名前は仮にA、M、Kにしておく。
 それで、仕切り屋っていうか、俺たちのリーダー格だったAが、

「 昼休みに中庭に行こう。」

って言い出した。
何でも、サッカー友達から、中庭の池にはザリガニがいる、って話を聞いたらしく、釣りに行こうという話だった。
 その時には俺も七不思議のことは知っていたんだけれど、そういうのってまだ疎かったっていうか、信じてなかったっていうか。
とにかく二つ返事でついていった、昼休みに一人でいるのも嫌だったし。
 MとKもすぐにOKを出した。
Kなんか、

「 じゃあ餌に給食残しておかなくちゃな!」

とか言っちゃって、すごい張り切っていた。
 そして、昼休み。
Kは自ら率先して餌持ち、Mが図工室から竹串貰ってきて中庭に向かった。
 中庭は、確か基本的に子供だけの立ち入りは禁止で、先生がついていないとダメだったんだけれど、別に鍵がかかってる訳じゃないからすんなりと入れた。
今思うと、あれだけ中庭を囲むように窓がついていて、昼休みだから校舎内は賑やかだったのに、よく誰にも気づかれなかったと思う。
 目的の池はすぐに目の前にあった。

Mが「先生なしで入るって楽しいな」みたいなことを言ったら、
Aが「先生いたらザリガニなんて釣らせてもらえないだろ」って返したのは覚えている。

 何を思ったのか、俺の隣を歩いていたKがいきなり池に向かって走りだした。
いきなりのことで反応できなかったけれど、すぐにはしゃいでるんだなって思った。
それで、そのKが、池の前で躓いたんだ。
本当に、なんにもないところで。
 足がもつれたのかと思った。
結構勢い良く走っていたし、これは池に飛び込むなって思った。
先生にすごく怒られるな~、とも。
でも、池にKが飛び込む音は鳴らず、水しぶきすら上がらなかった。
 消えた。
ホントに、なんというか、パッと消えた。
動画とかで人が写ってる映像と写ってない映像をつなぎあわせて、人が消えたり現れたりするヤツ。
あんな感じ。
 本当に、なんの前触れもなく消えた。
俺は焦った。
というより、すごくパニックになっていたのを覚えている。
 前を歩いていたAの肩を掴んで、

「 Kは?どこ?どこ行ったの?」

みたいなことを言った。
 おかしなのは、ここからだった。
AとMはパニックになってる俺を不思議そうに見つめてから、顔を見合わせた。
そして、Mが言った。

「 K?誰それ?」

驚いたというか、呆然としたというか、とにかく俺は耳を疑った。
さっきまで一緒にいたヤツのことを、

「 誰?」

って、そりゃねーだろ。
でも、二人は本当に知らない風で、Aなんか苦笑して、

「 え?俺ちゃんの友達?一緒に来るはずだったの?」

とか言ってきた。
 俺はもう訳がわからなくなって、中庭から飛び出した。
そこを先生に捕まった。
俺たちの担任の先生だった。

「 こら!そこに勝手に入るなって言ってるだろ。」
「 先生!Kが!Kがいなくなって!」
「 K?」

不思議そうに先生はつぶやいて中庭に入った。
それから中庭を見回して、

「 またお前ら3人か、本当に色々やらかすな。」

って笑っていた。
気まずそうに目をそらすAとMを尻目に、先生はもう一回中庭を見渡して、

「 で、そのK君って、何組の子?」

って言ってきた。
 この時の俺のパニックっぷりったらなかったみたいだ。
なんか絶叫しながら廊下を走り去ったらしい、覚えてないけど。
俺が次に覚えてるのは保健室で、泣き疲れて落ち込んでるところだった。
 休憩時間にAとMが迎えに来て心配してくれた。

「 大丈夫か?」

って言われた。
 それで、保健室から出た後、俺は妙に頭の中がすっきりしてて、物事を冷静に見ることが出来た。
まず、Kがこの学校にいた痕跡は何もなくなっていた。
ロッカーに名札もないし、ランドセルもない。
クラスの集合写真も、Kがいたはずのところは詰められて撮影されていて、本当にKはいなくなっていた。
記憶にないんじゃなくて、いなくなっていた。
 俺は次に、Kのお母さんに聞いてみることにした。
母さんがK、A、Mのお母さんを集めてお茶飲むって言い出して都合がよかった。
そのお茶会で俺はそれとなく、Kおばさんの前で、

「 ねえお母さん、Kおばちゃんの家に、俺くらいの子っていないの?」

とか言ってみた。
そしたら母さん、

「 何いってんの。
Kさんの子供は、あの子だけよ。」

って言って、Kおばさんの抱いている赤ちゃんを撫でた。
Kおばさん自身も苦笑して、

「 もうちょっと早く欲しかったんだけどね。」

って言った。
 ただ、俺の記憶ではKに弟もしくは妹はいなかったと思う。
その後、K宅とは年賀状程度のやり取りすらやらなくなったので、あの家族がどうなったのかわからない。
弟もしくは妹がいなかったって言ったのは、俺の記憶の限りでは、Kがまだいた時に彼の家に遊びに行った時に、赤ちゃんなんていた記憶がないから。
それで、中庭に転がる見えない骨に躓いたKは、俺の記憶の中だけに生きていることになっている。












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日々の恐怖 8月13日 看護婦さん

2014-08-13 18:23:27 | B,日々の恐怖


    日々の恐怖 8月13日 看護婦さん


 小学校1年の時に病気で入院しいて、夜中病棟で毎晩のように泣いていた。
泣き始めるとすぐに看護婦さんが来てくれて、寝付くまで一緒にいてくれた。
名前が○○さんと言って、若くて可愛い人で、子どもながらに自分はその人の事を好いていた。
 半年程入院生活が続いたけれど、毎晩のように僕は泣いてしまい、毎日泣き始めるとすぐに○○さんが駆けつけてくれていた。
 無事手術も終えて退院することになった日に、○○さんはいなかったんだけれど、母に、

「 ○○さんに、よろしくお伝えください。」

と婦長さんに伝えてもらった。


 自分が高校生になって、その病院の内科に行く機会があり、ついでと思い小児科病棟に寄ったら、当時の婦長さんはまだ現役だった。
 当時のことを話していて、○○さんのことを婦長さんに聞いてみた。
しかし、婦長さんが言うには、当時○○さんって言う看護婦さんはいないと言うことだった。
 はっきり名前も覚えていたし、漢字でも覚えているし、下の名前も覚えている。
僕が熱を出して泣きじゃくっていた日、部屋に現れて手をつないでくれていた日も鮮明に覚えている。
特徴等を婦長さんに伝えたんだけれど、やはりそんな人はいなかったと言われた。

いまや真相は闇の中です。












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日々の恐怖 8月12日 病院

2014-08-12 22:18:05 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 8月12日 病院



 私は薬剤師で、今年からある田舎の病院に勤務している。
薬剤師は私を含めて3人。
一番下っ端の私は、何でもやらなくてならない。
 ある日のこと、いつものように夕方近くに外来が終わり、病棟のオーダーに基づいて注射薬の払い出しをしていた。
どういう訳かこの日のオーダーはややこしいのが多く、病棟に問い合わせをしたりしながら作業をしていると、結構な時間になってしまった。
しかも、その日のうちに薬品会社へ発注をかけなければならない薬があり、その発注書を作らなければならなかった。
 食堂に晩飯を予約しておけばよかったと思いながら、発注書を作り始めたとき、内線が鳴った。
が、受話器を上げても声がしない。

「 薬局ですけど、なんですか? 」

と呼びかけるが、何の応答もない。
電話機には、A病棟のナースセンターを示す内線番号が表示されている。

“ 電話の故障か・・・?”

と思い、一旦切った。
だが、また内線が鳴る。
 出るとさっきと同様に応答がない。
これが2,3回繰り返されるとさすがにイライラしてきた。
しょうがなく、調剤室を出てA病棟に向かうことにした。
 A病棟は5階。
エレベータに乗り、階数ボタンを押す。
2階、3階、4階・・・。
エレベータが止まり、扉が開いたときにようやく思い出した。

“ この病棟、改装中で使われてなかったよな・・・。”

 養生シートがそこら中に貼られている真っ暗なフロアだ。
目を凝らすと、エレベータの出口の真ん前にあるナースセンターに看護師らしき人間が一人立っている。
火災報知機の赤いランプの灯で、ナースキャップ、そしてカーディガンを着た後ろ姿がうっすらと見える。

“ 何をしているんだろう・・・。”

と、エレベータから降りようとしたとき心臓が止まりかけた。
その看護師の身体を透かして向こう側が見える。
 必死でエレベータの閉ボタンをガチガチと押した。
エレベータのドアが閉まり、再び開くまでひたすら目を閉じたまま耐えた。
そして、チンという音を聞くと、飛び出すようにエレベータを出た。
 一刻も早く病院を出たかった。
だが、調剤室を放ったらかしにはできないし、発注だけはしておかないとえらいことになる。
小走りで調剤室に向かい、書き殴るように発注書を仕上げ、チェックして、ファックスに突っ込こもうとした時、また内線が鳴った。
着信音とともに、小さな赤いランプが点滅している。
 無視した。
絶対に表示を見たくない。
 ファックスが送られたのを確認し、電気を付けたまま調剤室を出て鍵をかけた。
暗くなった調剤室を見るのが嫌だった。

 翌日、出勤すると事務課の職員から、

「 調剤室の明かりがつけっぱなしだったよ。」

と小言を言われた。
謝りながら、

「 A病棟って内線が通じるんでしたっけ?」

と聞くと、

「 えっ? 医局からも同じ問い合わせがあったけど、改装中だから通じませんよ。」

と言われた。











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日々の恐怖 8月11日 吸殻

2014-08-11 18:48:21 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 8月11日 吸殻


 前いた職場の喫煙所に、40cm四方くらいのでかい灰皿があった。
大きな建物で会社が多く入っており、いろんな利用者が皆そこで吸っていくから吸殻もすぐ溜まって、清掃員が頻繁に掃除していた。
 夜勤の日、深夜3時の休憩のときだった。
一服し終えた後に、同僚が、

「 俺、もう一本吸ってくわ。」

と一人で残った。
 彼はヘビースモーカーなので、それ自体はよくある事だったが、休憩終了間際に泣きそうな顔で戻ってきた。
脇には、さっきは持っていなかった東急ハンズのでかい紙袋を抱えている。
何か物凄い臭いが立ち込めている。

「 タバコ吸ってたらオカンが来て、『身体に悪いから程々にしい』って、これ渡してきた。」

はじめは彼が何を言っているのかよく分からなかったが、紙袋一杯にタバコの吸殻が入っていた。
 吸殻の銘柄はどれも彼の吸っている物と同じで、あまり吸っている人を見かけないパーラメント。
パーラメントの吸殻だけが、その袋一杯に詰まっていた。
同僚はすぐその場で実家に電話を掛けたそうだが、その時お母さんは自宅で寝ていたらしい。











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日々の恐怖 8月10日 小児科

2014-08-10 18:28:12 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 8月10日 小児科



 小児科の研修医だった頃の話です。
小学2年生ぐらいの女の子と付き添いのお母さんが、診察室に訪れた。
この女の子は夜眠れないそうで、いつも朝方になってからやっと眠るそうだ。
そのため、学校で居眠りをする事が多く、先日も先生に呼び出されて注意を受けたとのことだった。
 たまに寝付けたとしても、大抵夜中に大泣きして目覚めてしまい、その度に起こされて家族も困っているらしい。
最初、不眠症かな?と思った。
 睡眠障害は大人の方が圧倒的に多いが、大人だけの病気じゃない。
子供が睡眠障害になる例も珍しくはない。
とりあえず何か不安な事はないか聞こうと思い、話しにくいかも知れないのでお母さんには席を外してもらって、その女の子と二人で話をした。

「 どうして夜寝ないのかな?」
「 寝たくない。」
「 なんで寝たくないのかな?寝るの嫌い?」
「 寝るのは嫌じゃないけど。」
「 けど・・?」
「 夜、寝てたら起こしにくるから。」
「 誰が起こしにくるの?」
「 お母さん。」
「 お母さんが夜中に起こしにくるの?」
「 うん。耳元で、なんかボソボソしゃべってくるの。」
「 なんて耳元でしゃべってくるの?」
「 う~ん、あんまり聞き取れないけど、なんとか、ミゾケネ~って言ってると思う。」
「 お母さんが耳元でそう言ってくるの?」
「 うん。お母さんっぽい人が。」
「 お母さんっぽい人?起こしに来るのはお母さんじゃないの?」
「 お母さんに似てるけど、多分ちがうと思う。」
「 じゃあ誰?」
「 わかんない。」
「 なんで、お母さんと違うって思うのかな?」
「 だって、いつも壁の中から出てくるから。」

もう、怖すぎ。
自分の部屋で寝てるっていうから、お父さんとお母さんのベッドで寝るように話して帰した。
 お母さんには日当たりの問題かもとか適当なこと言って、なるべく女の子の部屋を変えてもらうように話しておいた。
それ以降受診に来なかったから、女の子はちゃんと眠れるようになったと思う。
状況を想像すると、とても怖い。












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日々の恐怖 8月8日 鐘の音

2014-08-08 18:28:18 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 8月8日 鐘の音



 俺の母方の実家と言うのが本当にド田舎で、今でこそ山の上の方に高架道路なんぞが通っているが、昔は、山間を縫うように走る狭い道に、沿うようにして家が並んでいて、村と言うよりは集落と言ってもいいような、そんな場所だった。
そんな場所だからかは知らないが、昔話やら伝承やら、そう言った類の話には事欠かず、かく言う俺も、子供の頃からここを訪れるたびに、少なからず胡乱な体験をしていたりした。
 あれは、両親の盆休みが終わっても、ひとりで数日の間は泊まるようになっていたから、小学生の高学年だったかと思う。
その日は朝からずいぶんと暑く、俺は婆ちゃんの家の敷地内を流れる川べりで、魚やら虫やらを採るなり、涼むなりをして悠々自適に過ごしていた。
 川と言っても石壁で両脇を囲われた用水路のようなもので、水位は、当時の俺の足のすね中程まであるかないかだが、両脇の壁自体がえらい高く、川底に降りれば大人でもすっぽりと隠れてしまうくらいある。
 もっとも、玄関から出てちょっと左に行った所にある石階段を降りると、足場があって自由に降りることができるから、そんなに危ないと言うわけでもない。
村に水道が来る前までは、ここで野菜やら何やらを冷やしたり、ちょっとした洗い物などをしていたらしい。
 そんなこんなで時間はあっという間に過ぎ、夕方に差し掛かった頃だろうか、どこからか強い風が吹き始め、陽が沈む頃には、雨を交えたそれが轟々と唸りをあげながら猛威を振るっている。
その日、俺は婆ちゃんの家に通い始めてから初めて、そこでの台風と言うものを経験することになった。
 夕食を終え風呂に入ると、じいちゃんとばあちゃんに今日は早めに寝てしまえと言われた。
いつもなら夏休みとお泊りの特権を活かして、23時くらいまで爺ちゃんとテレビなんぞ見ながら過ごすが、今日は天気が天気だ。
アンテナの調子もずいぶんと悪いらしく、そもそもテレビがまともに映らない。
21時を回る頃には、夜更かし派の爺ちゃんも自室に引込み、俺も自動的に、布団を敷いた座敷に押し込められる事となってしまった。
 だが、台風の夜特有の変な興奮と、婆ちゃんの家での初めての台風と言う二つの要因が、俺のテンションを変な所に押し上げてしまい、なかなか寝付けない。
座敷の電気を一応消して、代わりに爺ちゃんの部屋から借りてきた電気スタンドの灯りを頼りに、家から持ってきた漫画を読みふけりながら、雨の音、風の音、家鳴りの音に胸がドキドキする。
 それでも2、3時間もすれば、やがて眠気がまさってくる。
少しずつうとうととし始め、しばらく意識がぷっつりと途切れたかと思った頃、俺はその奇妙な音を確かに聞いた。

“ かあん かあん・・・・。”

雨と風と時々の家鳴りに混じって、そんな音が聞こえる。
 小さな鍋底を棒で叩くというか、それよりはやや響きがあると言うか、音としては仏壇でお経を上げる時に使う、小さな木槌みたいなので叩く平たい鐘に近い感じだった。
それが、風のうなりや雨音が鳴り響く中、遠くからだけどはっきりと聞こえてくる。
 最初、自警団が見回りでもやってるのかな?と思ったが、時計を見ると既に午前の2時だ。
上手く説明は出来ないが、兎に角何かおかしいなと思って部屋を出る。
 俺の泊まっていた座敷は、婆ちゃんの家でも奥まった場所で、とりあえず道路に面している玄関の方へ行ってみようと思った。
しかし、廊下を歩いていると、

“ かあん かあん・・・・。”

その音は、何故か後の方から聞こえる。
 振り返ると、そこにはカーテンの引かれたガラス戸があり、ガラス戸の向こうには、裏手に広がる庭と、そして昼間に遊んだ川が見える筈だ。

“ かあん かあん・・・・。”

少しずつ音が近づいてくる気がして、俺は恐る恐るカーテンの隙間から外を覗く。
風雨の吹き荒れる庭と、背の高い壁に囲まれた川。
そして、

“ かあん かあん・・・・。”

あの小さいが妙に響く鐘の音だ。
 そのままじっと眺めていると、だんだんと音が近づいてきて、視界の隅で何かが揺れた。

“ 灯り・・・?”

川の方で、小さな灯りがゆらゆらと揺れているのが見て取れた。
 懐中電灯のような指向性のあるものではなく、まるで提灯か何かを下げているような、そんなぼやっとしたものだ。
川の深さの所為で、光源とそれを持っている何者かの姿を確認することはできない。
でも確かにそこからは灯りが漏れていて、それは少しずつ少しずつ、川の中を進んでいっているようだった。
 ぞくり背筋に寒いものが走る。
だが、同時にそれの正体を確かめたくもなった。
もしかしたら夜回りの人が、水が漏れていたりして危ない場所はないか調べているかもしれない。
いやいや、きっとそうであれば良いのにと、自分を納得させたかっただけなのかもしれない。
 その時、

「 何しとるんや?」

不意に後ろからかけられた声に、俺はぎゃあと叫びだしそうになった。
それでも声が出なかったのは、逆にそれだけ恐ろしかったからなのだろう。
 心臓をばくばくさせながら振り返ると、そこには爺ちゃんの姿があった。

「 じ、じいちゃん、なんか、あの、その、あれ、音、灯り・・・?」

しどろもどろになりながら、何とか状況を説明しようとするも、爺ちゃんは、

「 ほれ、こっちこい。」

と俺の手を取る。
 ほとんどパニックになりかけていた俺は、導かれるままにじいちゃんと囲炉裏のある部屋へと向かった。
爺ちゃんは俺を囲炉裏の傍に座らせると、その向かいに腰を下ろす。
 その頃になると、囲炉裏は既に現役ではなくなっていて、火棚や何やらは取り払われ、灰を溜めておくスペースだけが残されていた。
そしてそこは、爺ちゃんの家での唯一の煙草飲み場であり、いつものように囲炉裏端に置いておいたタバコを引っつかむとライターで火を灯し煙をくゆらせる。
 無論その間も、

“ かあん かあん・・・・。”

と言う音は、台風の音にかき消されること無く響き続けていた。

「 爺ちゃんの子供の頃からなあ・・・。」

少しの間を置いて爺ちゃんが言う。

「 何年かに一度、こういう雨風の強い夜になると、ああやって川を登ってきたもんでなあ。」
「 登る?」
「 そうや、聞こえとるやろ?」

ことも無げに言う。

「 え、と、爺ちゃん、アレ何なの?」

俺の問いかけに爺ちゃんは、はてと首を捻り、

「 さてなあ、ただあの川は、この辺りを抜けたらそのまま海に繋がっとるからなあ。
海から来とるんと違うかなあ。」
「 何が?」

と聞くと、爺ちゃんはやっぱり、

「 さてなあ・・・。」

と繰り返す。

「 こ、怖くないの?」

俺が聞くと爺ちゃんは、

「 まあ、他になにするわけでもないからなあ。」

とのんきなもの。

「 正体とか、しらんの?」

思い切って問いかけると、爺ちゃんはいやいやと首を振る。

「 ありゃ、川を登っていくだけや。
それ以外はなんもせん。
なら、それで良いんとちがうかなあ・・・。
ほれ、もうあんなに遠くなっとる。」

言われてふと気づくと、

“ かあん かあん・・・・。”

と言う音は、ずいぶんと遠くなっていた。

「 ここ、三十年くらいはめっきり来なくなっとったけど・・・。
そうかそうか、今年は来なすったのか・・。」

そう言う爺ちゃんの顔は、何だか懐かしいようなそんな表情をしていた。
 結局、俺は何がなんだか分からないまま、爺ちゃんと一緒に囲炉裏端で一晩を過ごした。
あの音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
 先日、婆ちゃんの田舎に行った折、7歳になる甥っ子が例の川べりで遊んでいる姿を眺めていたら、なんとなくこの話を思い出し、その時隣にいた爺ちゃんに、

「 そう言えばあれから、アレはまた川を登ってきたりしたんか?」

と聞くと、

「 いいや。
もしかしたら、もう登って来なさらんのかもしれんなあ・・・・。」

と寂しそうに答えてくれたので、少なくとも夢では無かったんだなと思う。
 それは、爺ちゃんや婆ちゃんが子供の頃から、既に“そういうもの”だったらしい。
朝になったら爺ちゃんと婆ちゃんが、

「 昨日、来なすったなあ。」
「 ほんにねえ、久しぶりやねえ。」

って、普通に話していたようだ。
それに、村の人らも、普通に、久しぶりだなぁ、みたいな言い方をしているようで、

“ あ、そーゆーものでいいんだ。”

と思った。












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日々の恐怖 8月7日 産科

2014-08-07 18:22:35 | B,日々の恐怖




     日々の恐怖 8月7日 産科




 緊急帝王切開で出産入院した時、2階3階の一般部屋は満杯で入れなかった。
そこの産科は、二人部屋と一般個室から選べる。
しかし、私は一般個室を希望していたが、空いていない。
二人部屋のベッド一つも空いていない。
 仕方ないので、初日は1階の経過観察室のベッドで過ごし、二日目に、

「 一般個室料金で良いので、4階の部屋を利用して貰えますか?」

とお願いされた。
 4階の部屋、そこはワンルーム並の設備、家具家電がおかれた特別個室だった。
家族も寝泊まり出来る様にか立派なソファベッドがあり、クローゼットには布団一式、システムキッチンやシャワー室、とにかく豪華すぎる部屋だった。
母子別室のため、夜はゆっくり休めると思った。
 そこに移って三日目の夜だった。
うとうとしていると、廊下から男性の話し声が聞こえた。

“ 隣の特別個室の方の身内かな?”

と思ったが、何かがおかしい。
 帝切の傷口が痛むがドアの前まで行き、耳を澄ます。
すると、奥から大人の泣き声が複数聞こえ始め、読経が始まる。

“ 不気味だし、疲れているのかな・・、気のせいだろう・・・。”

と、またベッドに戻り眠る。
 私は疲れていると耳鳴りがしたり雑音が聞こえたりする体質で、ベースの音やエアコンの音がお経の様に聞こえたりするからだ。
 それで、夢を見た。
引き戸を開き、和尚さんらしき人が廊下に出ていく。
喪服姿の人々がお礼を述べて見送る。
中の部屋は和室。
真ん中にベビー布団が敷いてある。
 場面は一転する。
薄青色のつなぎの清掃員二人が、さっきの和室に掃除機をかけ、焼香台を片付けていた。

 目が覚めたのは朝方だったが、もう汗だく。
やけにリアルな夢だった。
で、昼食前にドアをノックされた。

「 部屋のお掃除に来ました。」

薄青いつなぎを着た清掃員二人だった。
 傷口が痛み、掃除の間はソファで横になろうと思ったが、

「 その体勢じゃキツイでしょう。」
「 埃も出るし、他の部屋でお休みになって下さい。」

と言われた。

“ 他の部屋・・・?
隣部屋は空いたのかしら・・・?”

と思ったら、エレベーター側からは見えない廊下に引き戸からあり、そこに案内される。
 引き戸を開くと和室だった。
そこは、夢で見たままの和室だった。
パニックになりながらも体の為に横になってみたが、頭痛がして何故か涙まで出てきた。
 清掃員が、

「 終わりました。」

と呼びに来てくれた際に、

「 あの和室も特別個室か何かですか?」

と聞くと、

「 あの部屋は時々集まりに使うだけで、部屋が満室でも泊まれないし、面会室でもないし、まあスタッフの会議室みたいな所です。」

との返事だった。
 私が昨日聞いた声が間違えなかったとしても、

“ あとは完全に夢だよね?”

と思いつつ、凄く気味悪くて、不思議話としても今まで誰にも言えずにいました。
思い出す度、

“ 忘れよう!”

と反射的に拒否状態です。












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日々の恐怖 8月6日 蛙釣り

2014-08-06 19:06:09 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 8月6日 蛙釣り




 これは今から20年程前、小学校3年生の頃の話です。
それは8月のある蒸し暑い夜でした。
父が車で知人の家に行くと言ったので、特についていく理由はなかったのですが、蛙がいると聞いたので、その頃はまっていた蛙釣りがやりたくてついて行きました。
 蛙釣りとは、水田の稲穂の先を一粒残して他は全て取り除き、その先を水田にいる蛙の鼻先に近づけてくわえさせ釣り上げる遊びです。
当時、蛙釣りは小学校で流行っており、俺は小学校でトップクラスの腕が自慢だったのです。
 その知人の家に行くのは俺は初めてでした。
その頃、夜に一人で出かけられない臆病者ではありましたが、初めて行く場所での蛙釣りの誘惑には逆らえず、知人宅に着くと早速一人で釣り場を探し始めました。
 すぐに釣り場を見定めると、周囲の暗闇を少し気にしながらも釣り始めました。
その夜はなぜかいつもよりもよく釣れ、普段の倍のペースで釣れました。
しばらくすると蛙も慣れて釣れなくなるので場所を替えようと移動を始めました。
その知人宅の隣には小さい神社があり、その鳥居前の電柱には電灯がついていて、その明かりに少しホッとし、その明かりの下で再び釣りに夢中になっていました。
 しかし、しばらくするとまた釣れなくなり、興奮も収まってきたので再び移動しようと顔を上げたとき、周囲の異変に気付きました。
いつの間にか辺りは深い霧に包まれていました。
周囲の電柱には何本かおきに電灯があり、また小型懐中電灯も持ってきていたので霧の中ということは容易に判断できました。
 しかし自分の住んでいる地域では夏に霧が発生することは無く、その見慣れぬ状態と視界の悪さに忘れていた恐怖感が戻り、父の所に帰ろうと知人宅を目指しました。
でも、進めども進めども家が見えてきません。
 道を間違えたかとも思いましたが、俺は当時方向感覚が鋭く、道や方向を間違うことは一度もありませんでした。
それ以前に隣接した神社の前にいたのだから歩いても1分とかからないはずでした。
おかしいなと思った瞬間、周囲に突然何かの気配が感じられました。
 姿は見えないがかすかに足音のようなものが聞こえました。
人が歩くような足音ではなく、言葉で表すのは難しいのですが、“ヒタヒタ+ポタポタ”というような音でした。
だんだんとその音は近づいてくるように感じました。
 頭の中は恐怖でいっぱいになり、その気配を何とかやり過ごそうと道を外れ、路肩の畦道に立ち止まり、道の方を向きました。
気配はさらに自分との距離を縮め、通り過ぎろと祈りましたがその思いは誰にも通じず、自分の前で止まり、こっちを向いたように感じられました。
 俺は半泣き状態で一歩後ずさりをした瞬間、足を滑らし田んぼに落ちました。
いや、落ちたはずでした。
気がつくと田んぼと灌漑用の溝を仕切るコンクリートの上に立っていました。
左手に田んぼ、右手に畦道の土壁です。
 周りはまだ深い霧に包まれていました。
足を滑らした時に懐中電灯を落としたらしく、はっきりと判別はできません。
闇に目が慣れるまでその場を動かず、というか恐怖で動けず時は過ぎていきました。
 しばらくすると闇に目が慣れ、ぼんやりと周囲が月明かりで明るくなっていき、それと同時に霧が晴れていきました。
 周りが見えてくるにつれ、周りの異変にも否が応にも気付きました。
前後50cmくらいの間隔で何かいる。
大人くらいの背丈の何か。
人の様ではあるが人ではない様に感じました。
 霧が晴れるにつれ、周囲の状況が把握できるようになりましたが、その異常さは理解ができませんでした。
何かの気配があったのは前後だけではありませんでした。
その前にも後ろにも同じようなものが並んでいる。
まるでブランドバッグの限定品に行列している人々のようでした。
怖かったのですが、もう一度確認しようと恐る恐る後ろを振り向いた時、心臓が凍りつくくらいにドキゾクッとしました。
 その人のような物の全ての顔の部分に狐の面がついていました。
能面の狐の目をさらに吊り上げたような感じでした。
そしてその狐面はグッと体を押してきました。
押された俺は、前に出ました。
 足元は細くて不安定なコンクリートで、否応なしに前に進まされていると、前にいた何体もの狐面が一つ一つ姿を消していきました。
自分の眼前にいた狐面が姿を消した瞬間、何が起こっているか理解できました。
 足元に穴が開いており、そこに落ちていったようでした。
俺は踏み止まろうと抵抗しましたが、後ろからの圧力には勝てずに、自分も落ちていきました。
 土のスライダーを滑り落ちているような感じでした。
5秒ほどで底に着き、そこで見たものは落ちる前と同じ風景です。
左手に田んぼ、右手に畦道の壁です。
 後ろの狐面もすぐに滑り降りてきて、再び妙な行列は始まりました。
しばらく進むとまた穴があり、その底にはまた同じ風景です。
何度も何度も同じことを繰り返し、どれくらいの時間がたったのかわかりませんでした。
 しかし、頭がだんだんと冷静になっていったのか、滑り落ちる穴が深くなっていることに気がつきました。
最初5秒位滑落していたのが10秒位になっている。
さらに何度か歩いては落ち歩いては落ちを何度も繰り返すと、今度は穴が底なしになりました。
かなりの時間滑り落ちていた感じがし、このまま永遠に落ち続けるかのようでした。
 その時、何か低い音が轟きました。
猛獣が吠えた様なおなかに響く威圧感がありました。
その音を聞いた途端目の前がぼやけ、かすみ、意識が遠ざかっていくのを感じました。
 意識が戻ったとき、目の前には父の顔がありました。
帰ろうと捜しに来たところ、神社の狛犬の像に寄りかかるように倒れていたらしいのです。
ケガとかは無かったので大騒ぎにはならず、そのまま帰ったのですが、翌日、父にこの出来事を話したところ、不思議な顔をされました。
 父いわく、知人の家の窓から俺の姿が見えていたと言うことです。
ずっと同じところをうろうろしていたらしいのです。
蛙釣りが好きなのを知っていたため、別に不審にも思っていなかったと言っていました。
もちろん霧のことも言ったのですが霧など出ておらず、満月だったため非常に明るかったらしいのです。
しかし、その日着ていた服の背中からお尻にかけて土まみれでひどく汚れていたとは言っていました。
 今から思うと最期の咆哮の主は発見時に寄りかかっていた狛犬で、狐に憑かれようとしていた俺を守ってくれたのでしょうか。
ちなみにその神社が何を祀っていたのかはわかりません。
というか、その神社がどこにあったのか、今となってはわからないのです。
父に聞こうにも鬼籍に入ってしまい、不可能になりました。
母はその知人の家は知らないそうです。













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日々の恐怖 8月5日 タイムカード

2014-08-05 18:13:12 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 8月5日 タイムカード




 私は某アイス屋で働いています。
結構前から、時々ですが黒い人が店の中を通っていきます。
通るルートは必ず決まっていて、私たちが作業する作業場からバックヤードへトコトコと。
 正体を確かめようと思って、バックヤードまで追いかけたこともありましたが、すぐに姿を消してしまうので未だに何者なのか分かりません。
バックヤードは出入り口が一つで、生身の人間ならどこにも逃げ道はないのです。
私以外に見えている人がもう一人いて、二人で話し合った結果、

「 通ってるだけだし、ま、いっかヽ(^。^)ノ!」

ということになりました。

 それで、そんなある日、というか2か月くらい前のことです。
その日は休日で店が忙しく、私を含めスタッフ3人は右へ左へとキリキリ働いていました。
 昼を過ぎてお客様が減ってきて、ちょっと余裕の出てきた私たち3人は作業場でシフトのことで色々とおしゃべりをしました。

「 土日に3人だけとかありえない。」
「 一人あたりのシフトの時間が長すぎる。」

とまあ、疲れてもいたので文句がタラタラ。
とにかく3人じゃ足りないよ!と話が盛り上がったその時、

“ ガッ、ガーーーーーーーーーーーーッ!”

バックヤードに置いてあるタイムカードが作動する音が聞こえてきました。
 3人全員が間違いなく聞きました。
私たち以外は出勤していないはず。
というか、バックヤードに行くには私たちがいる作業場を通らなければなりませんが、当然誰も通っていません。
心当たりがあるとすれば黒い人しかいません。
 私たちが毎週ぐったり疲れているのを気にかけて、手伝おうとしてくれたのでしょうか?
黒い人、ありがとう。
でも、接客は無理だと思うよ?
気持ちだけ受け取っておくね。











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日々の恐怖 8月4日 家

2014-08-04 19:20:55 | B,日々の恐怖





     日々の恐怖 8月4日 家





 荷物を片付けるため、夏の暑い日に久々に母方の祖父の家を訪ねた。
といってもその家はすでに誰も住んでおらず、私一人だけでの作業であり、無駄に広い家の為、なかなかはかどらずにいた。
 中でもこの家で一番広い部屋には大きな仏壇が置いてあった。
長い間手入れをしていなかった為、埃まみれであったその仏壇を移動させなければならなかったが、あまりの汚れ具合を見かね、あまり使っていなかった雑巾で周囲を丁寧に拭いていた時だった。
 仏壇と壁の間には画鋲であるとか、そのほかゴミがいくつか挟まっていたのだが、その暗い隙間から一冊のノートが挟まっているのがみてとれた。
重い仏壇を一人で抱えるのは容易ではなかったが、それでもなんとか手を入れる程の隙間をつくり、手を伸ばしてノートを取るのだった。
 かなりの年月が経っていたことがわかる。
土色に変色していたり、シワだらけであったり、どうみても丁寧にあつかったものではない。
 目を引いたのはところどころ赤黒く変色した部分があることだった。
その染みは表紙だけでなく、表紙をめくった中にもある。
瞬間、これは長い年月によって変色した血液ではないのか、との思いがよぎった。
しかもこれは、まるで血液に浸されていたような染みのつき方であった。
 ひどく不快な気分、あるいは得体の知れない気味の悪さを感じたが、興味もあり、ページをめくっていく。
中は墨で書いたと思われる、文字になりきれていない複雑な線と、意味不明な絵が書かれ、そして赤黒い染みによって塗りつぶされていた。


 祖父は私が10歳の頃、亡くなっている。
祖母は90は越えたであろうが、身体も弱り、認知症もあるため、ある施設にて過ごしている。
といっても、もはや歩くこともできず、寝たきりで死を待つのみ。
言葉もなく、起きているのか寝ているのかの区別も難しい程だ。
 私はもはやろくに面会もしていなかった。
祖父と祖母の家は私にとってそれなりに思いではあったが、もはや祖母もこの家に戻ってこれる訳もなく、処分しなければならないという事になり、それに先立って私が荷物の整理を任されたのであった。
 ノートの事を母に尋ねるかどうか自問したが、このような気味の悪い物のことを親族に尋ねるのは躊躇した。
親族であるからこそ、知らないほうがいいことだってあるだろう。
おそらくまともな事を言いはしないだろう。
そんな気がした。
 話を聞けそうな人のあてはあった。
近所に面識のあるおばあさんがおり、やはり結構な高齢であったが、未だ現役で畑仕事をされており、しっかりした様子の人だ。
昔からこの土地に住んでおられ、私が子供のころはお世話になっていたものだ。
大人になった今でも会えば挨拶は必ず行っていたし、おそらく何かしら知っておられるだろう。
 日は傾き、畑仕事を終えて家にもどっている頃合をみて、おばあさんの家を訪ねた。
久々に会って話をするのだが、私のこともしっかり覚えていてもらえており、祖母の近況を交え、事のいきさつを話すのだった。
 ノートを見せると、やはり不気味さが先にたち、おばあさんにも心当たりはないといった様子であったが、しばらく眺めていたあとで、思い出したように話をしてくれた。
次のとおりだ


 祖父の親、つまり私の曽祖父は祖父が若い頃に両方とも亡くなっており、また、Sという弟もいた。
Sさんは生まれついての障害があり、耳が不自由であった。
当然言葉にも不自由で、それに伴って先天性か後天性かは不明だが、精神的にもおかしなところがあったという。
 祖父はSさんを一人で育てていたが、コミュニケーションが通じにくいことと、奇行が目立つようなり、目を離せず、仕事も満足に行えない生活で、徐々に疎ましく感じていったという。
Sさんは家に軟禁状態で、自分の意思や感情を伝えようと一生懸命ノートに書き記していたという。
 ある日、事件は起こる。
Sさんは当時飼っていた鶏を一匹残らず鎌で殺したあと、自身の両耳に箸をつっこみ、死に至ったという。
 箸は耳を抜け、ハンマーで叩いたように、頭蓋骨を貫通し、脳まで達していた。
耳はもちろん、目、鼻といった部位からおびただしい出血があったという。
 祖父の証言によって、Sさんは自殺ということで処理されることになったが、自ら望んだ自殺であったか、狂った末の自殺であったか、あるいは他殺、つまり祖父が殺したのではないかと当時近所では噂されていたという。
 つまり、おばあさんの話では、このノートはSさんのもので間違いないだろうということだった。


 日が暮れ、祖父の家に戻った私はこのノートをどう処理するべきか思案した。
そのうちに慣れない肉体労働の疲れが出たのか、明日でもかまわないだろうと考え、そのノートを枕元に置き、床についた。
 すぐに眠りについたが、どれくらい眠ったのだろう。
物音に気づき、目が覚めた。

“ ガサガサ・・・、カリカリ・・・。”

そのような音だっただろう。
何かが這うような物音だ。
そしてすぐそば、枕元でそれは聞こえるのだ。
 暗闇の中、ようやく目が慣れたてきたころにそれを見ることができた。
Sさんのノート、そのノートから細長い腕が一本上に向かって伸びていた。
まるで植物が自然にはえているようであり、そしてその腕は肘をまげ、畳をかきむしっている。

“ ガサガサ・・・、カリカリ・・・。”

爪を立て、畳を掻く音であった。

「 う・・・・、うああ~~~~!!」

布団から飛びおきると、おそらく腰がぬけていたのであろう、立つに立てない。
転がるように部屋の隅へと逃げた。
 感じたことのない恐怖でパニックになっていたが、その腕の行方を見ずにはいられなかった。
腕は先ほど私が眠っていた枕まで到達していた。
そしてそのノートからは、二つの目が覗いていた。
 徐々に、頭全体がみえると、

「 オオ・・・ォ・・・。」

口から音にならない声が低く響く。
何かが口のあたりから吐き出される。
おそらく血液だったのではないだろうか。
 そのあたりで私の記憶は途切れている。
気を失ったようだ。
 目が覚めるとそこは身体になじんだベッド。
誰かに運ばれたのだろうか。
実家に戻っていた。
 母親に聞かれた。

「 何があったの?」
「 何がって、あの家で何かなかった・・・?」

そう聞いて母親の表情を伺ったが、その夜にあったことを証明する痕跡、血痕や畳を引っ掻く跡などを母親は見ていない様子であった。

“ そうだ、ノートだ。”

私は尋ねた。

「 部屋にノートはなかった?」
「 何もなかったわよ。
連絡がないから心配で行ったら倒れているから、心配したわよ。」

 私は頭が混乱してきた。
夢だったのか?
真実なのか?
もう一度行って確認する必要がある。
 疲れはあるものの身体に異常はみられない。
その日はそのまま朝まで自宅で休み、翌日に再度祖父の家に向かった。
今度は母親と一緒だった。
 自分が眠っていた、そしてあまりの恐怖に気を失ったその部屋には、ノートや血痕といったものは見つけることができなかった。
布団は母親が片付けたという。
訝しく思いながらも、母親の力を借り、片づけを終えた。


 それから半年あまり経って、祖母が死んだ。
寝たきりになってからは私も母親も心のどこかで覚悟はできており、それほど悲しくもなく、葬儀は祖父の家で行われた。
 あの時の奇妙な経験は日にちが経ち忘れていたのだが、祖母の死により、祖父の家に訪れたことにより、再び思い出してしまった。
ふと、ノートを見せたおばあさんの事を思い出した。
あのおばあさんにノートを見せ、相談したことすっかり忘れてしまっていた私は、おばあさんにもう一度話をして真偽を確かめたい、そう思わずにはいられなかった。
 古くからの付き合いがあるおばあさんだから、もちろん葬儀に来られているだろう。
もし来られていなくても近所なのだから、訪ねてみてもいい。
そう思い姿を探したのだが、どうにも見つからない。
母親に聞いてみる事にした。

「 近所に畑仕事していたおばあさんがいたよね、あのおばあさん今日きてないかな?」

すると母親から聞いた言葉は驚くべきことだった。

「 ああ、あのおばあさんはもう亡くなったでしょう。
何年前だったかね。
5年くらい前かね。
葬式には出られなかったけど、確かそうよ。」

私は何がなんだかわからなくなったが、続けて聴いた言葉はさらに驚くべき事だった。

「 近所の人はみんな知ってるはずなんだけど、あのおばあさんは持病があって、自殺だったらしいよ。
むごい死に方したらしくてね、両方の耳から箸をつっこんで死んでたらしいわ。」

 Sさんとそのおばあさんの関係はなんであったのか、そのノートはなんであったのか、それは結局わからないままになった。
最後に、おばあさんの家もう一度行ってみたが、その家はすでに取り壊された状態だった。











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日々の恐怖 8月3日 知らない人

2014-08-03 23:47:23 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 8月3日 知らない人



 俺は物心ついた時から片親で、父親の詳細はわからないままだった。
俺は幼少期に母親から虐待を受けてて、夕方5時から9時まで何時も家の前でしゃがんで、母親が風呂に入って寝るのを待っていた。
ボロアパートの2階だったので、階段下でずっと待つんだ。
小学生が夏も冬も暑くても寒くても、とにかく5時から9時ぐらいまでは待つのはつらかった。
でも、家に入ると母親に殴られるので外にいた。

 9時になると母親は寝るので、こっそりと家に入り、朝まで押入れの中で眠った。
朝の3時ごろに母親は家を出て行くので、それから起きて家にあるご飯を食べた。
生保生活だったのか、仕事をしていたのか不明だが、一応給食費だけは出してたので、平日は給食が唯一のまともなご飯だった。

 母親は、夕方4時55分には必ず家に帰ってきた。
男を連れてくるときもあった。
その男も同じ様に、俺にしつけと言いながら殴る蹴るの暴力を行った。
そんな日々が、俺の小学校生活における日常だった。

 俺が小学校5年生になったある日、学校の友人数人が万引きをして捕まった。
俺は万引きをしなかったのだが、一緒に居た事で注意を受けるために、学校に連れて行かれた。
親が迎えに来てぶん殴られる子も居れば、泣きながら謝る親もいた。
俺の親は迎えに来なかった。何度電話をしても。

 担任は俺と一緒に家に行くと言うが、俺は必死で断った。
怖かったんだ、暴力が。
なんとか、俺は無実だった旨と、親は忙しくて家に夜中にしか帰らないと嘘をついて、注意と、先生から母親への文面での報告だけで済むことになった。

 とりあえず難を逃れたと思ったが、結局帰った瞬間に包丁で手を切られた。
初めて泣き叫びながら死を感じた。
異常だと思ったのか、アパートの住人の誰かが警察を呼んだらしく、数人の警官が駆けつけて母親を取り押さえ、俺は施設へ入所することになった。

 中学校卒業と同時に俺は仕事を探して、今の仕事(とび)に就いた。
院の先生は良い人達だったので、今でも繋がりがある。

 未だににぞっとするのは、俺が母親だと思ってた女性が、赤の他人だったこと。
あれ以来会ってないが、戸籍上俺の母親は俺が2歳の時に死んでおり、俺には父しかいなかった。
父親との面識は一度も無い。
それを本当につい最近しった。

 ただ、俺は暴力を振るわれようと貶され様と涙を流そうと耐えて、いつかはいつかはと普通の家族を夢見て信じてた母親と呼べる女性が、他人で誰かもわからないと言う事実が正直怖かった。
あの女性は誰で、なんの関係で俺を育ててたんだろ。
本当に極稀に俺を撫でた手のやさしさはなんだったんだろう。
考えると泣けてもくる。

 あの家に行ってみたが、今は誰も住んでなかったけど、階段下の壁に『まーくん』と削った文字を見つけて、不可思議な同居生活がなんだか虚しく思い出された。

 養護施設の人に聞いたら情報持ってるんじゃないかと聞いたが、不思議なんだけど、院の先生は知らないと言う。
警察から連絡があって、家裁で決定されて、そのまま預かった経緯は教えてくれたけど、それ以外は不明だって言って、教えてくれない。

 それで、俺は父に育てられてた事になってるんだけど、俺は父の顔も知らない。
もしかしたら事情を考慮して隠してるって事も考えられるけど、嘘つく必要も無いし。
とりあえず父親は、俺に会いに来た事さえ無いし、今も不明だ。
あの女性は何者なのか知らないままのほうが良いかも知れないから、俺も深くは探さないつもりだ。

 今の仕事には満足して働いている。
でも、結婚はしないし、子供も作らないと思う。
俺自身が親という概念がさっぱりわかってないだけに、子供に親を教えれない。
院の先生は親とは違って、やっぱりどこまでいっても先生でしかないから。
良い人であることは間違いないけど。











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日々の恐怖 8月2日 運

2014-08-02 19:25:01 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 8月2日 運




 知り合いが、その友人と話した会話を教えてくれました。




「 もっと他にもトラブルってある?」

「 うん、あるよ。
なぜか自分が遠出する度に災害やトラブルが起こる。

1995年、阪神淡路大震災で泊まっていた親戚の家が全壊したが無傷。
2001年、同時多発テロが起きた時に世界貿易センタービルにいたが無傷。
2007年、能登半島地震が起きたときに輪島にいたが無傷。
そして、その後に行った新潟にて中越沖地震に遭遇するが無傷。

 その他にも、家族で旅行に行った先で水死体を見つける。
玉突き事故に巻き込まれる。
でも、同乗者全員無傷。
旅館の五階から落ちる。
これも無傷、かすり傷も無し。
 借りていたアパートの同じ階で殺人事件が起こったこともある。
あげだしたらキリがない。」


「 すさまじいなァ・・・・。」


「 まだまだ、あるぞ。
昨年、妻とオーストラリアに行った。
 今までの経験上きっと何か起こる!とガクブルしていたが、滞在最終日まで変わった事は一切起こらないまま最終日になった。
なーんだと思いながらシドニーで買い物をしていると、10年以上前の元カノにナイフで刺された。
ずっと私の事が好きだと思っていたのに!らしい。
もちろん無傷だったが、今までで一番怖かった。」


「 なんか、作り話に聞こえるけど・・・。」


「 最近では誰に話しても信じてくれないんだ。
妻は俺の事をコナン君と呼ぶ。」


「 ナイフで刺されたのに、無傷?」


「 突進してきたのでとっさに前を庇ったら、お土産の入った袋で受け止める形になった。
お土産は大きめのコアラの人形だったんだが、ナイフがほぼ貫通していてぞっとしたよ。
そのまま受けていたら、死んでいたかもしれないらしい。」


「 命の恩人の縫いぐるみは大事に保管してるよな?
まさか、あっさりポイしたりは・・・。」


「 勿論家にあるぞ。
我が家の守り神だよ。」


「 世界貿易センタービルって、どんなだった?」


「 ああ、それか・・・。
2001年、同時多発テロが起きた時に世界貿易センタービルにいたが無傷だった。
 事件当時、自分はロビーにいたんだが、綺麗だなと思って見ていたガラス窓、ステンドグラスみたいなヤツが、酷い衝撃で粉々になったことを覚えている。
不謹慎だが、きらきらと降り注ぐガラスはまるで星が降ってくるようで、綺麗なガラスは壊れる時にも美しいんだと思った。」


「 おまえって、よく生きているな。」


「 自分は多分、運が他人より強すぎるのだと思う。
悪運、良運合わせて。
 絶対ネタ扱いされると思って言わなかったが、今までに宝くじで100万円以上の当選が6回ある。
そしてすごいのかは分からないが、姪に頼まれて始めたモバゲーのくじで10000G当たった。」


「 良い方は・・、良いな・・・・。」


「 それと同時に、死体を見つけた回数は10を越えている。
福井県の東尋坊近くに出張した時は酷かった。1ヶ月で3体の死体を見つけ、一人の飛び降りを目撃した。
北陸は怖いところだ。
 幼いときはトゥルーマン・ショーって映画を見て、俺も誰かに観察されているのではないか?と疑心暗鬼だったなぁ・・・。
あまりにも衝撃的過ぎる人生だから。
 こんな俺と共に生きてくれている妻には本当に感謝している。
この人に出会えたことが人生で一番のラッキーだな。
因みに5月、静岡に行く。」













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日々の恐怖 8月1日 夜間警備

2014-08-01 20:31:23 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 8月1日 夜間警備



 昔、病院の夜間警備のバイトをしていた時の話。
二人制で、交代しつつ仮眠をとっていた午前2時。
 専用仮眠室は用意されていなかったため、人が居る棟とは別棟の一部屋を使用していた。
その棟の地下には霊安室があり、多少気味悪かったが、もうかなり慣れていた頃に事が起きた。
 仮眠は仮眠であり、それほど深くは寝付けなかったが、私はある夢を見た。
それは、私が階段を這って昇る夢であった。
ずるりずるりと、いうことを聞かない体をくねらせて階段を昇る夢。
私は夢の中でぼんやりと、ここだ、と思う部屋を目指す。
見たことのある部屋。
今、私が仮眠をとっているはずの部屋。
 私はその瞬間に目を覚まし、汗でびっしょりと濡れた額を拭った。
本当に意識のある夢だった。

「 気持ちの悪い夢を見たなぁ・・・。」

と、声にせずに言った。
一時も早く人のいる場所へ戻りたいと願った。
が、その日は妙に疲れていたのか、私は自分でも気がつかないうちにまた眠りについた。


 そして、ドーンという鉄の扉が閉まる音で目が覚めた。
一瞬何が何か分からなかった。
寝転んでいるはずの背中の感触はなく、重力は紛れも無く私の両足に掛かっている。
真っ暗な場所。
灯る二つのおぼろげな光。
 私は霊安室にいた。
先の音は、自分で扉を閉めた音らしい。
目の前のベッドには、ご遺体が一人眠っている。
 どうやら私は、呼ばれたのだ。
私は取り乱して、人のいる棟へと逃げ帰った。 。
後から聞くと、病気で両足を無くした方がその晩に亡くなっていたとのこと。だから、這って私を呼びにきたのだ。










 ☆帰ってきました。また、ぼちぼち始めます。 by おおみね せいふう







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