二十六聖人記念館の右後方に、何やら不思議な塔が二本、ニョキッと立っている。聖フィリッポ教会だ。1962年に記念館と同時に造られた。
最初に気付いたのは、長崎駅近くのホテルにチェックインした時だった。8階の部屋から外を見ると、あの2本の塔が見えた。尋ねると教会だという。それで、ぜひ寄ってみたいと思っていた。
中に入ると、優しいご婦人が丁寧に説明してくれた。聖フィリッポという名前は、二十六聖人の一人、フィリッポ・ヘススの名前がとられたもの。彼はフィリピンで司祭の修行を終え、故国に帰る途中日本沖で遭難し、また日本滞在中に逮捕され殉教した二十四歳の若者。
その彼の像が、祭壇に向かって右側に立っている。
建物の設計は、スペインのサグラダファミリア教会などで知られるアント二・ガウディ研究者、今井兼次。それだけに双塔はいかにもガウディをほうふつとさせる陶片をちりばめたデザインだ。
一方、内部は天井に木を使い、白壁で囲まれた空間に小さめのステンドグラスから漏れる光が差し込む。
建築家ル・コルビジェの代表作「ロンシャンの教会」を思わせる柔らかな明るさに包まれていた。
そのステンドグラスは平和の象徴であるハトをデザイン化した形。大きなステンドグラスも優しい。
ハトの光が、色を映して降り立ったように床を染めていた。
右側の壁面に聖遺骨が飾られていた。
これも二十六聖人のうちの3人のもの。写真で見ると、右から5番目のディエゴ喜斎、6番目のパウロ三木、8番目のヨハネ五島の3人の遺骨だ。
これらの遺骨は、死後迫害から逃れるためフィリピンに送って保管されていた。この教会設立にあたって里帰りを果たしたのだという。
そんな、いろいろの話を聞かせてくれたご婦人の祖先も、長崎県外海地方の出身だったが、迫害に遭って五島に逃れ、潜伏キリシタンとして過ごしたのだと、話してくれた。
また、教会の窓から外を見ると、巨大な観音像が見えた。福済寺の長崎観音、高さは18mもあるという。原爆の犠牲者を弔うため、1979年に建立されたもの。カトリック教会の中から観音様を望むのも不思議な気分だ。
日没後、もう1度西坂の坂を上った。闇の中で双塔がライトアップされてにょっきりとそびえていた。