バチカン市国・サンピエトロ大聖堂
キリスト教の総本山である 大聖堂が燃えている
サンタンジェロ城の屋上に上った時 時刻は午後6時を過ぎたころだった
太陽は地平に隠れ 残り香のような紅の灯かりが
中空を 一色に染めている
その中心に悠然と存在する 大聖堂のクーポラ
ミケランジェロが設計した 巨大な半円の姿が
濃く深い赤の炎に すっぽりと包まれて
今にも溶けて 崩れ落ちそうにも見える
ただ ただ 息を殺して 眺め続けた数分間
その炎は次第に勢いを失って 闇へと変化していった
昼の大聖堂は その威光を誇るかのように
クーポラの突端を 空に向けて突き出している
しかし 一日の終わり近く
失われて行く 明るさに耐え切れずに
祈りの姿をとる 瞬間があることを
さえぎるもののない 間近の空間で見つめて
初めて感じた 晩秋の夕闇だった