20170115
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>やっこい脳のための新語旧語(2)ほぼほぼ神ってる
年末に発表された「ユーキャン流行語大賞」では、「神ってる」が大賞に選ばれました。私は2016年に一番世の中に影響を与えた流行語は「保育園落ちた日本シネ」だったと思ったけれどね。「一億総活躍」という、まやかし標語を見事に撃沈させたと思ったので。
流行語は、その年に流行して世相を反映するけれど、短期流行が終われば忘れ去れることが多い。
私が毎年の新語で注目しているのは、「辞書の三省堂」が選ぶ「今年の新語」です。公募投票によって選ばれた中から選考委員が決定して発表されます。
新語をいち早く辞書に登載することで知られる三省堂国語辞書。流行語とは異なり、「今後辞書に載って行くであろう語」を選ぶので、すぐに忘れ去られることもなく定着し、辞書に載っていきそうな語が集められています。
2016年の「辞書の三省堂新語」で入選したのは、
1位、ほぼほぼ 2位エモい 3位ゲスい 4位レガシー 5位ヘイト 6位スカーチョ 7位VR 8位食レポ 9位エゴサ 10位パリピ
「ほぼほぼ」は、100%じゃないけれど「ほぼ」よりは多めの割合に使う。完璧ではないが、全体的に妥当と見なされる場合などに使う。
「エモい」英語のエモーションから。接する人の心に、強く訴えかける働きを備えている様子。
「ゲスい」。源氏物語には、身分の高い人を表す「上衆じょうず」の対語として「下衆(げす)」が出てきます。「(女二宮が降嫁して)下衆になりたり(蜻蛉)」
同じく源氏物語に、「下衆下衆し」と、形容詞も出ています。時代くだって江戸時代には、「下衆下衆し」の短縮形「ゲスい」が使われるようになったようです。2016年には「ゲス不倫」が流行語大賞入賞するなど、「ゲス」という語をテレビで聞かない日はなかった。
「レガシー」。英語legacyから。英語直訳では「遺産」「遺物」なので、年配者の中に必ず「遺産と言えばよいものを、どうしてわざわざレガシーなんぞとカタカナ語で言うのだ」と、お腹立ちの方もいるのではないかと思います。
わざわざカタカナ語にするのは、「遺産」とは異なるニュアンスの語だから。
法隆寺も東京タワーも西洋美術館も、「遺産」でいいです。でも、レガシーというとき、そこに現実世界に蠢く利権がからんだ「お金」の匂いがプンプンとしてきます。
2016年に盛んに使われた「レガシー」とは。あるイベントのためにつくった施設が、のちのちまで再利用できること。また、その施設。「五輪後のレガシーになれるかを議論する」
五輪のために建てられた建物が、のちのち維持費ばかりかさんで赤字になる「負の遺産」になるかもしれぬ、だれがその負債をおうのか、そして負債含みの「レガシー」建物を、だれが費用負担し、だれが利権を得るのか。そういうもろもろを含んだ「遺産」がレガシーなのであって、「遺産」という語とは異なる意味を持つゆえのカタカナ語です。
5位のヘイト。これも英語hate(にくしみ)からの語ですが、単に「にくむ」だけなら、カタカナ語はいらない。「ヘイト」は、相手を心理的物理的に追い詰めるまで、憎悪表現を拡大していくところに特徴があります。ヘイトスピーチとは、特に民族差別を表している、特殊な憎しみと言えましょう。
昨年5月に「ヘイトスピーチ対策法」が成立しました。しかし、民族差別人種差別宗教差別ジェンダー差別を肯定する発言を繰り返すトップをいただく大国も出現したのですから、対策法で対策になっていくのかどうか、定かではありません。
6位スカーチョ。春庭は、年中お下がりのボロを着ていて、ファッションにうといので、スカーチョとは何か知りませんでした。スカートとガウチョパンツの合成語。スカートのように見える幅広のゆったりサイズの衣装。
私は結婚以来、スカートを履くことがなくなり、仕事で出るときも家でもパンツスタイルです。服はほとんど買ったことがなく、姉、妹、伯母、姑、友人のお下がり服で間に合わせてきました。今年は、娘の断捨離がどっさり来ました。娘は、長年「私に無断で縮んでしまった服」を、「いつかやせたら着られるかも」と、とっておきました。床上収納でした。
それを、「今着られない服は捨てる」と、着られない服を自分の部屋から母の部屋に移動しました。「母が着るならとっておいて。着ないなら捨てて」と。娘が大学時代高校時代に着ていたふくなんぞもあります。
その服を今度は私が捨てられずに「もうちょっとやせたら着られるかも」と、捨てるのをためらっているうちに、娘の部屋の床が見えるようになったかわりに、私の部屋の床上収納が山になって積み重なっています。
スカーチョは最近の流行だから、娘の古着の中にはありません。せいぜいキュロットパンツ、パンタロン。古いね。
7位VR=バーチャルリアリティ。コンピュータにより視覚的聴覚的に映し出された映像が、実在するかのように感じられる技術とその受容。仮想現実。人工現実感。
14日土曜に、娘息子が「スイッチ」というニンテンドーの宣伝番組を見ていたので、お茶碗洗いながら横目で見ていました。グラスに氷を入れる感覚を自分の触覚で感じられる、というのです。「チャリン」という氷がグラスに当たる音だけではなく、氷がグラスに触れた触感もリアルに感じられる、と伝えていました。
味覚と嗅覚はまだVRにはなっていないようですが、口の中にドロップひとつ入れてなめていると、カレーライスでもパクチーサラダでも、なんでもVRで味覚が楽しめるという時代もまもなくやってくるみたい。私はVRでどれほどのごちそうが味わえるとしても、焼き芋一つでもほんとうに食べた方がいいけれどね。
8位食レポ。食べ物紹介番組で、タレントなどが味や食感などを伝える発言。昨今のテレビバラエティ界では、これができないと仕事がこない。
私の食レポも、「うまい、とてもうまい、ものすごくうまい」の3種類しかことばがなくて、うまいことレポートするタレント、すごいなあと思います。
9位エゴサ。エゴサーチの略。自分自身(ego)の名をインターネットでサーチ(検索)すること。自分自身に付与されている評判や、隠されていた悪口なども露見する。
「春庭」サーチすると。2003年にブログ開設したときは、我がサイトと「本居春庭」舞楽の曲名「春庭花」しか出てこなかったのに、14年後の今は、マンガのタイトルもあるし、花屋の屋号もあり、税理士さんの名もあります。
10位パリピ。party peopleをパーリーピーポーと英語っぽく発音した上での省略語。「パーティーのような、はなやかで盛り上がることのできる場を好むひとびと。また、そのような場に集う陽気で社交的なひとびと」
10位などは、すぐにすたれそうですが、1位の「ほぼほぼ」などは、数年後の改訂版三省堂国語辞書には載っている気がします。
金田一京助の孫、春彦の息子である金田一秀穂がテレビバラエティ番組に出たとき、「日本語の神様」「国語の神様」とキャッチコピーをつけられていました。それを知った日本語教育担当の講師室センセー方一同、みなさま、そうそうたる日本語学・国語学の論文を執筆なさっている方々だったので、「あの程度がカミといわれるなら、日本語学業界もなめられたもんだね」と言っていました。京助、春彦の大きな業績に比べると、傑出した日本語学論文もない秀穂を「カミ」と呼ぶテレビ業界の軽薄さに憤激していたのです。
私はクイズ番組大好きで、「Qさま」というクイズ番組などに登場しては、お笑いミスアンサーを繰り返し、めげずに繰り返し番組に出演する秀穂さんを面白がっていました。私程度でも答えられるクイズにちょくちょく誤答しても、「祖父やら父親の栄光を踏んづけても堂々としていられる彼」を、見上げたもんだと思いました。テレビ業界においては、面白いこととかわいいことは正義です。
彼を、日本語業界における「ほぼほぼカミってる」人だと認定しましょう。
こういうのを、「リスペクトにみせかけてディスってる」というのですが、カタカナ語に弱いので、私にもよく意味がわかりません。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>やっこい脳のための新語旧語(2)ほぼほぼ神ってる
年末に発表された「ユーキャン流行語大賞」では、「神ってる」が大賞に選ばれました。私は2016年に一番世の中に影響を与えた流行語は「保育園落ちた日本シネ」だったと思ったけれどね。「一億総活躍」という、まやかし標語を見事に撃沈させたと思ったので。
流行語は、その年に流行して世相を反映するけれど、短期流行が終われば忘れ去れることが多い。
私が毎年の新語で注目しているのは、「辞書の三省堂」が選ぶ「今年の新語」です。公募投票によって選ばれた中から選考委員が決定して発表されます。
新語をいち早く辞書に登載することで知られる三省堂国語辞書。流行語とは異なり、「今後辞書に載って行くであろう語」を選ぶので、すぐに忘れ去られることもなく定着し、辞書に載っていきそうな語が集められています。
2016年の「辞書の三省堂新語」で入選したのは、
1位、ほぼほぼ 2位エモい 3位ゲスい 4位レガシー 5位ヘイト 6位スカーチョ 7位VR 8位食レポ 9位エゴサ 10位パリピ
「ほぼほぼ」は、100%じゃないけれど「ほぼ」よりは多めの割合に使う。完璧ではないが、全体的に妥当と見なされる場合などに使う。
「エモい」英語のエモーションから。接する人の心に、強く訴えかける働きを備えている様子。
「ゲスい」。源氏物語には、身分の高い人を表す「上衆じょうず」の対語として「下衆(げす)」が出てきます。「(女二宮が降嫁して)下衆になりたり(蜻蛉)」
同じく源氏物語に、「下衆下衆し」と、形容詞も出ています。時代くだって江戸時代には、「下衆下衆し」の短縮形「ゲスい」が使われるようになったようです。2016年には「ゲス不倫」が流行語大賞入賞するなど、「ゲス」という語をテレビで聞かない日はなかった。
「レガシー」。英語legacyから。英語直訳では「遺産」「遺物」なので、年配者の中に必ず「遺産と言えばよいものを、どうしてわざわざレガシーなんぞとカタカナ語で言うのだ」と、お腹立ちの方もいるのではないかと思います。
わざわざカタカナ語にするのは、「遺産」とは異なるニュアンスの語だから。
法隆寺も東京タワーも西洋美術館も、「遺産」でいいです。でも、レガシーというとき、そこに現実世界に蠢く利権がからんだ「お金」の匂いがプンプンとしてきます。
2016年に盛んに使われた「レガシー」とは。あるイベントのためにつくった施設が、のちのちまで再利用できること。また、その施設。「五輪後のレガシーになれるかを議論する」
五輪のために建てられた建物が、のちのち維持費ばかりかさんで赤字になる「負の遺産」になるかもしれぬ、だれがその負債をおうのか、そして負債含みの「レガシー」建物を、だれが費用負担し、だれが利権を得るのか。そういうもろもろを含んだ「遺産」がレガシーなのであって、「遺産」という語とは異なる意味を持つゆえのカタカナ語です。
5位のヘイト。これも英語hate(にくしみ)からの語ですが、単に「にくむ」だけなら、カタカナ語はいらない。「ヘイト」は、相手を心理的物理的に追い詰めるまで、憎悪表現を拡大していくところに特徴があります。ヘイトスピーチとは、特に民族差別を表している、特殊な憎しみと言えましょう。
昨年5月に「ヘイトスピーチ対策法」が成立しました。しかし、民族差別人種差別宗教差別ジェンダー差別を肯定する発言を繰り返すトップをいただく大国も出現したのですから、対策法で対策になっていくのかどうか、定かではありません。
6位スカーチョ。春庭は、年中お下がりのボロを着ていて、ファッションにうといので、スカーチョとは何か知りませんでした。スカートとガウチョパンツの合成語。スカートのように見える幅広のゆったりサイズの衣装。
私は結婚以来、スカートを履くことがなくなり、仕事で出るときも家でもパンツスタイルです。服はほとんど買ったことがなく、姉、妹、伯母、姑、友人のお下がり服で間に合わせてきました。今年は、娘の断捨離がどっさり来ました。娘は、長年「私に無断で縮んでしまった服」を、「いつかやせたら着られるかも」と、とっておきました。床上収納でした。
それを、「今着られない服は捨てる」と、着られない服を自分の部屋から母の部屋に移動しました。「母が着るならとっておいて。着ないなら捨てて」と。娘が大学時代高校時代に着ていたふくなんぞもあります。
その服を今度は私が捨てられずに「もうちょっとやせたら着られるかも」と、捨てるのをためらっているうちに、娘の部屋の床が見えるようになったかわりに、私の部屋の床上収納が山になって積み重なっています。
スカーチョは最近の流行だから、娘の古着の中にはありません。せいぜいキュロットパンツ、パンタロン。古いね。
7位VR=バーチャルリアリティ。コンピュータにより視覚的聴覚的に映し出された映像が、実在するかのように感じられる技術とその受容。仮想現実。人工現実感。
14日土曜に、娘息子が「スイッチ」というニンテンドーの宣伝番組を見ていたので、お茶碗洗いながら横目で見ていました。グラスに氷を入れる感覚を自分の触覚で感じられる、というのです。「チャリン」という氷がグラスに当たる音だけではなく、氷がグラスに触れた触感もリアルに感じられる、と伝えていました。
味覚と嗅覚はまだVRにはなっていないようですが、口の中にドロップひとつ入れてなめていると、カレーライスでもパクチーサラダでも、なんでもVRで味覚が楽しめるという時代もまもなくやってくるみたい。私はVRでどれほどのごちそうが味わえるとしても、焼き芋一つでもほんとうに食べた方がいいけれどね。
8位食レポ。食べ物紹介番組で、タレントなどが味や食感などを伝える発言。昨今のテレビバラエティ界では、これができないと仕事がこない。
私の食レポも、「うまい、とてもうまい、ものすごくうまい」の3種類しかことばがなくて、うまいことレポートするタレント、すごいなあと思います。
9位エゴサ。エゴサーチの略。自分自身(ego)の名をインターネットでサーチ(検索)すること。自分自身に付与されている評判や、隠されていた悪口なども露見する。
「春庭」サーチすると。2003年にブログ開設したときは、我がサイトと「本居春庭」舞楽の曲名「春庭花」しか出てこなかったのに、14年後の今は、マンガのタイトルもあるし、花屋の屋号もあり、税理士さんの名もあります。
10位パリピ。party peopleをパーリーピーポーと英語っぽく発音した上での省略語。「パーティーのような、はなやかで盛り上がることのできる場を好むひとびと。また、そのような場に集う陽気で社交的なひとびと」
10位などは、すぐにすたれそうですが、1位の「ほぼほぼ」などは、数年後の改訂版三省堂国語辞書には載っている気がします。
金田一京助の孫、春彦の息子である金田一秀穂がテレビバラエティ番組に出たとき、「日本語の神様」「国語の神様」とキャッチコピーをつけられていました。それを知った日本語教育担当の講師室センセー方一同、みなさま、そうそうたる日本語学・国語学の論文を執筆なさっている方々だったので、「あの程度がカミといわれるなら、日本語学業界もなめられたもんだね」と言っていました。京助、春彦の大きな業績に比べると、傑出した日本語学論文もない秀穂を「カミ」と呼ぶテレビ業界の軽薄さに憤激していたのです。
私はクイズ番組大好きで、「Qさま」というクイズ番組などに登場しては、お笑いミスアンサーを繰り返し、めげずに繰り返し番組に出演する秀穂さんを面白がっていました。私程度でも答えられるクイズにちょくちょく誤答しても、「祖父やら父親の栄光を踏んづけても堂々としていられる彼」を、見上げたもんだと思いました。テレビ業界においては、面白いこととかわいいことは正義です。
彼を、日本語業界における「ほぼほぼカミってる」人だと認定しましょう。
こういうのを、「リスペクトにみせかけてディスってる」というのですが、カタカナ語に弱いので、私にもよく意味がわかりません。
<つづく>