20170124
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>やっこい脳のための新語旧語(5)シンギュラリティ技術的特異点
去年2016年、これまで身についていなかったさまざまな語を知りました。
おおかたの年配者には不評のカタカナ語で一番印象が強かったのは、「(テクノロジカル))シンギュラリティ」です。翻訳すれば「技術的特異点」。
カタカナ語嫌いの方には「なぜ技術的特異点ではいけないのか。どうしてシンギュラリティなんぞというカタカナ語を使うのだ」と、ご不満でしょう。
カタカナ語が使われるのは、和語や漢語ではそのニュアンスが伝えきれないときが多いです。テクノロジカルシンギュラリティを直訳した「技術的特異点」では、肝心なことが伝えきれないと思われたとき、カタカナ語シンギュラリティが登場しました。
2045年の技術的特異点とは、これまでの技術とはまったく異なります。人工知能が人間の脳を凌駕するのです。これまでの「技術的」とは規模が異なり意味が異なっているゆえ、「技術的特異点」という漢語ではそのニュアンスが伝えきれない、と感じた人がシンギュラリティというカタカナ語の方を採用したのでしょう。
(2045年の)シンギュラリティ(Singularity)とは。
人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事をいう。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうとこと。
「より高度な技術が人間の分野を凌駕する」というのは、過去にもありました。人が荷車で物品を運んだ時代に蒸気機関車が出現し、より安い値段で大量に物資を運べることがわかれば、荷車運搬業者は、仕事がなくなりました。カメラが出現すれば、肖像画家の多くは仕事を失いました。
しかし、今回のAIシンギュラリティは、人間の脳よりも賢いAIが、人間存在を変えてしまうということです。
AI(アーティフィシャル・インテリジェンス=人工知能)の知力が人間を超えるのは、2045年と予想されています。
AIは、人間より早く正確に考え、仕事をする。
すでに、実験が行われている所もあります。人間相手の仕事でも、たとえば現在、長崎ハウステンボスのホテルでは、フロント受付係や部屋まで荷物を運ぶポーターは、ロボットが仕事をしています。実験中ではありますが、人件費は四分の一に縮小できたそうです。
昨年、AIの話題で一番の衝撃をもたらしたのは、マスター(名人)というハンドル名を持つ囲碁棋士の登場でした。その正体は、人工知能アルファ碁の進化形。
チェスではとっくに人工知能は人間に勝っていましたが、より複雑な将棋や囲碁ではまだまだ人間のほうが包括的に判断でき、AIに負けるのはずっと先のこと、と思われてきました。しかし、2016年、ついに人間に勝てるAI、マスターが出現したのです。マスターは、世界のトッププロ相手に60連勝しているそうです。
2045年、AIが人間の思考能力を超える。これまで人間が思考力を使ってきた分野でも、AIが仕事をするようになるでしょう。日本でも、大方の事務職は失業すると言われています。
従来、コンピュータは人間がプログラミングして命令したことを実行してきました。
AIをこわいと思うのは、人間のプログラミング以上に、自律的に学習して進化できること。はたして、人間はAIを制御できるのでしょうか。SFで語られていたことが、まもなく実現するのです。
これまで、すぐれた知能は人間のみが持つとされてきました。2045年以後、ほとんどの人間は、AIに知能の面で負ける。
2045年以後、さらに、ロボットやAIの仕事分野は拡大すると予想され、予想よりずっと早い段階で、人間の仕事は人工知能が請け負うようになるでしょう。
私の仕事はどうか。教育は人と人とのふれあいが大きな意味を持つ分野です。しかし語学教育のある部分は、コンピューターによる学習がすでに行われており、AIのコミュニケーション能力がもっと発達すれば、ヘタな教師よりずっと上手に語学教育を行えるし、第一に日常会話程度の翻訳ならアイフォンが「ドラえもんの翻訳こんにゃく」を実現しているのだから、語学教育がどこまで必要なのか、私にはわかりません。
私に理解が及ぶのは、世界に多様に存在するそれぞれの文化を互いに知り合い、理解し合うために、語学教育は有効だ、ということ。私は初歩の日本語教育においても、日本文化と多文化の比較をしつつ、相互の理解を深めようとしてきました。ごく単純な例でいえば、お箸(チョップスティックス)という語を紹介するとき、日本ではお箸は、自分の前に水平に置くけれど、中国や韓国朝鮮では自分に対して垂直に置く。食文化はそれぞれ違うけれど、それぞれの料理はどれもおいしい、なんて紹介する。でも、こんなことくらいだと、AIもできるでしょうなあ。
現在日本の教育現場で行われている英語教育で身につく程度の英語なら、アイフォンの翻訳のほうがずっと役に立つ。
外交やビジネスの場で英語母語話者と仕事をするなら、さらなる能力が必要になるでしょう。
もっとも、トランプさんはほとんど本を読まない人だそうです。読むのは聖書と自著のビジネス自慢話。得意のツイッターで彼がつぶやく語彙分析でも、ごく初歩的な英語だそうなので、あと4年は、初歩英語だけでも大丈夫。
そして迎える2045年、幸か不幸か、私はそのころもう死んでいるか、生きていてもよぼよぼで仕事どころではありません。私程度の能力の教師なら、AIのほうがずっとすぐれた教育をするに違いない。そして、私は、おそらく介護ロボットにおむつなどとりかえてもらっているか。
23日に格安店で白髪染めをしたら、シャンプーは「自動シャンプー台」でした。さらにヘアブローは客が自分でやるシステム。スーパーでレジ計算と支払いも自動が導入されている店があるし、そのうち、サービス全体に自動システムが増えていくのでしょうね。
さて、シンギュラリティは、新し語が好きな三省堂国語辞書にいつ登載されるのか。すくなくとも、2045年まで、「シンギュラリティ」という語がニュースで伝えられる頻度も多くなるでしょうから、日本語母語話者には言いにくく覚えにくい語ですけれど、語学教師の仕事用として、脳に仕入れておくことにします。ああ、すでにAIには負けているであろう私の脳ですが。
<おわり>
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>やっこい脳のための新語旧語(5)シンギュラリティ技術的特異点
去年2016年、これまで身についていなかったさまざまな語を知りました。
おおかたの年配者には不評のカタカナ語で一番印象が強かったのは、「(テクノロジカル))シンギュラリティ」です。翻訳すれば「技術的特異点」。
カタカナ語嫌いの方には「なぜ技術的特異点ではいけないのか。どうしてシンギュラリティなんぞというカタカナ語を使うのだ」と、ご不満でしょう。
カタカナ語が使われるのは、和語や漢語ではそのニュアンスが伝えきれないときが多いです。テクノロジカルシンギュラリティを直訳した「技術的特異点」では、肝心なことが伝えきれないと思われたとき、カタカナ語シンギュラリティが登場しました。
2045年の技術的特異点とは、これまでの技術とはまったく異なります。人工知能が人間の脳を凌駕するのです。これまでの「技術的」とは規模が異なり意味が異なっているゆえ、「技術的特異点」という漢語ではそのニュアンスが伝えきれない、と感じた人がシンギュラリティというカタカナ語の方を採用したのでしょう。
(2045年の)シンギュラリティ(Singularity)とは。
人工知能が人間の能力を超えることで起こる出来事をいう。テクノロジーが急速に変化し、それにより甚大な影響がもたらされ、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうとこと。
「より高度な技術が人間の分野を凌駕する」というのは、過去にもありました。人が荷車で物品を運んだ時代に蒸気機関車が出現し、より安い値段で大量に物資を運べることがわかれば、荷車運搬業者は、仕事がなくなりました。カメラが出現すれば、肖像画家の多くは仕事を失いました。
しかし、今回のAIシンギュラリティは、人間の脳よりも賢いAIが、人間存在を変えてしまうということです。
AI(アーティフィシャル・インテリジェンス=人工知能)の知力が人間を超えるのは、2045年と予想されています。
AIは、人間より早く正確に考え、仕事をする。
すでに、実験が行われている所もあります。人間相手の仕事でも、たとえば現在、長崎ハウステンボスのホテルでは、フロント受付係や部屋まで荷物を運ぶポーターは、ロボットが仕事をしています。実験中ではありますが、人件費は四分の一に縮小できたそうです。
昨年、AIの話題で一番の衝撃をもたらしたのは、マスター(名人)というハンドル名を持つ囲碁棋士の登場でした。その正体は、人工知能アルファ碁の進化形。
チェスではとっくに人工知能は人間に勝っていましたが、より複雑な将棋や囲碁ではまだまだ人間のほうが包括的に判断でき、AIに負けるのはずっと先のこと、と思われてきました。しかし、2016年、ついに人間に勝てるAI、マスターが出現したのです。マスターは、世界のトッププロ相手に60連勝しているそうです。
2045年、AIが人間の思考能力を超える。これまで人間が思考力を使ってきた分野でも、AIが仕事をするようになるでしょう。日本でも、大方の事務職は失業すると言われています。
従来、コンピュータは人間がプログラミングして命令したことを実行してきました。
AIをこわいと思うのは、人間のプログラミング以上に、自律的に学習して進化できること。はたして、人間はAIを制御できるのでしょうか。SFで語られていたことが、まもなく実現するのです。
これまで、すぐれた知能は人間のみが持つとされてきました。2045年以後、ほとんどの人間は、AIに知能の面で負ける。
2045年以後、さらに、ロボットやAIの仕事分野は拡大すると予想され、予想よりずっと早い段階で、人間の仕事は人工知能が請け負うようになるでしょう。
私の仕事はどうか。教育は人と人とのふれあいが大きな意味を持つ分野です。しかし語学教育のある部分は、コンピューターによる学習がすでに行われており、AIのコミュニケーション能力がもっと発達すれば、ヘタな教師よりずっと上手に語学教育を行えるし、第一に日常会話程度の翻訳ならアイフォンが「ドラえもんの翻訳こんにゃく」を実現しているのだから、語学教育がどこまで必要なのか、私にはわかりません。
私に理解が及ぶのは、世界に多様に存在するそれぞれの文化を互いに知り合い、理解し合うために、語学教育は有効だ、ということ。私は初歩の日本語教育においても、日本文化と多文化の比較をしつつ、相互の理解を深めようとしてきました。ごく単純な例でいえば、お箸(チョップスティックス)という語を紹介するとき、日本ではお箸は、自分の前に水平に置くけれど、中国や韓国朝鮮では自分に対して垂直に置く。食文化はそれぞれ違うけれど、それぞれの料理はどれもおいしい、なんて紹介する。でも、こんなことくらいだと、AIもできるでしょうなあ。
現在日本の教育現場で行われている英語教育で身につく程度の英語なら、アイフォンの翻訳のほうがずっと役に立つ。
外交やビジネスの場で英語母語話者と仕事をするなら、さらなる能力が必要になるでしょう。
もっとも、トランプさんはほとんど本を読まない人だそうです。読むのは聖書と自著のビジネス自慢話。得意のツイッターで彼がつぶやく語彙分析でも、ごく初歩的な英語だそうなので、あと4年は、初歩英語だけでも大丈夫。
そして迎える2045年、幸か不幸か、私はそのころもう死んでいるか、生きていてもよぼよぼで仕事どころではありません。私程度の能力の教師なら、AIのほうがずっとすぐれた教育をするに違いない。そして、私は、おそらく介護ロボットにおむつなどとりかえてもらっているか。
23日に格安店で白髪染めをしたら、シャンプーは「自動シャンプー台」でした。さらにヘアブローは客が自分でやるシステム。スーパーでレジ計算と支払いも自動が導入されている店があるし、そのうち、サービス全体に自動システムが増えていくのでしょうね。
さて、シンギュラリティは、新し語が好きな三省堂国語辞書にいつ登載されるのか。すくなくとも、2045年まで、「シンギュラリティ」という語がニュースで伝えられる頻度も多くなるでしょうから、日本語母語話者には言いにくく覚えにくい語ですけれど、語学教師の仕事用として、脳に仕入れておくことにします。ああ、すでにAIには負けているであろう私の脳ですが。
<おわり>