20170119
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>やっこい脳のための新語旧語(3)ラストベルトの錆は落ちるか
2015年にはあまり聞かなかったのに、2016年に盛んに耳にした語のひとつ。「ラストベルト」
日本語母語話者の耳には、「L」と「R」の音は同じに聞こえるので、「lightとright」はどちらもライト。「liceとrice」は同じくライス。当然「last とrust」はどちらも「ラスト」だから、「ラストベルト」と聞いたときは「最後の工業地帯=終わりを迎えた寂れた工業地帯」と、思いました。
rustは名詞「錆、さび色」。自動詞「錆びる、腐食する」他動詞「錆びさせる、腐食させる(思考力などを)鈍らせる」
米語でrust beltと言う場合のrustは、中西部のかっての大工業地帯で、工場が閉鎖され使われなくなった機械など諸設備がさび付くほどの衰退を示す様子を表しています。
なぜこのrust beltという語がニュースで盛んに使われたかというと、中西部の衰退した工業地帯で失職したり、「我が子に自分自身の子ども時代よりもいい教育を与え、より豊かな暮らしをさせてやれるというアメリカンドリーム」から落ちこぼれて、将来への希望を失った、「中程度教育終了後工場などに働きに出た白人男性労働者層とその家族」の支持を集めたのがトランプ大統領出現の原因になった、と喧伝されたからです。
ほんとうにそうなのかの分析は、アメリカ社会学研究者にでもおまかせします。
2017年1月12日に行われたトランプ次期大統領の就任前記者会見での発言を聞くかぎりでは、これまで私が聞いたどの「次期大統領スピーチ」よりも中身のない演説であり質疑応答でした。
トランプ氏は中国や日本の貿易においてアメリカが劣勢であることで、中国と日本を非難しました。また、「フォードがメキシコに移転しようとしていた工場をアメリカ内にとどめることに成功し、700人の雇用を守った」と自画自賛しました。この自画自賛はいつまで続くでしょうか。失職から救われることになった700人にはご同慶の至りですが、他の数百万人数千万人の「現状に不満を持つ人」は、これからどうなるのでしょうか。
中西部の自動車製造、鉄鋼業などでの失業者は、増え続けています。
鉄鋼業でいえば、2015年から2016年の1年間に失業した労働者は、300万人に上っています。(ニッセイ基礎研究所の統計から)
中西部の鉄鋼業や自動車産業の製造部門で働いていた労働者のこれまでの給与水準は、他業種よりも高く設定されていたため、レイオフ、リストラされた労働者が小売業、運輸業などの他業種に転職しようとすれば、どうしてもこれまでの生活水準から低落します。その不満がトランプ大統領の出現につながったと見なされています。「俺たちの生活を変えてくれ、もう一度強いアメリカにしてくれ」と、彼らは金満家の押しの強い男に希望を託しました。
それらの人々は、差別発言を繰り返そうと、言動が下品であろうと、起死回生の希望を見いだして投票したのだと思います。が、就任前演説でわかったことは、彼は大統領になっても差別をやめる気は無く、自分に反対するメディアに弾圧を加えるだろうということ。側近や重要閣僚の座にその能力をうんぬんするよりも、自分に都合よく存在する人々のみを据えること。プーチンと仲良くやろうとして手玉にとられそうだ、ということ。
トランプさんの「アメリカでの商売には高い関税をかけるぞ」と、中国や日本に言ってさえいれば、アメリカの雇用は守られる、というかのごとき発言では、先が思いやられます。就任前記者会見では、「オバマが決めた健康保険制度をぶっつぶす」ということのほか、具体的な政策は述べられていませんでした。
新大統領、アメリカ国内のアンケート調査で、「新大統領を歓迎しない。期待しない」と答えた人が、史上もっとも多くなりました。不支持率が過半数51%を超えたそうです。いろいろな記録を作りそうな新大統領ですが、まず第一の記録は「歓迎されない度歴代大統領ナンバーワン」の記録。
トランプ新大統領は、就任式の演説で「強いアメリカを取り戻そう」と繰り返すでしょうが、不支持51%という「分断された国家」をまとめ上げるために、何をするのやら。
プーチンは、民主党候補の選挙活動を妨害せんとしてハッキングをしたけれど、ほかの国だってやっていることだし、プーチンと仲良しなのは「財産」だ、と、強調しています。ウクライナ領土のクリミアをロシアが武力で併合したことにともなう制裁措置は解除し、ロシアがシリアのアサド政権に武器を供給することにも目をつぶるようです。
ロシアに弱みを握られているというのは「まったくのデマ」だと、トランプさんは主張していますが、あまりのロシア優遇策に、どんだけプーチンを喜ばせたいのやらと、仲良しぶりに目を見張っています。ロシアには経済上で恩を売るとして、国内の経済政策はどうなるのでしょう。
ラストベルトの赤錆は、果たして落ちるのやら。
20日の大統領宣誓式に、多数の要人が欠席し、パーティで歌う歌手多数が「出演拒否」だったそうです。51%にのぼる「新大統領不支持」の層は、宣誓式に合わせて反対デモを企画しているとのニュース。
よその国のことではありますが、51番目の属州プエルトリコ自治区に次ぐ52番目の属州、と評されている邦ですから、やはり、アメリカがくしゃみしたら、我が方が風邪引くらしく、よそごととは思えず、宣誓式ニュースなどウォッチングしようと、ま、面白がっているだけですけれど。
古代、地中海世界を掌握したローマ帝国も滅びました。大航海をやり遂げ、世界の半分を植民地にしたと豪語したスペイン王国も衰退しました。20世紀を産業力軍事力で席巻し、21世紀初頭の世界を情報力でぬきんでたアメリカ帝国も、やがては傾きます。
私には、この金メッキのような「切り札」さんは、「終わりの始まり」の象徴のような気がします。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>やっこい脳のための新語旧語(3)ラストベルトの錆は落ちるか
2015年にはあまり聞かなかったのに、2016年に盛んに耳にした語のひとつ。「ラストベルト」
日本語母語話者の耳には、「L」と「R」の音は同じに聞こえるので、「lightとright」はどちらもライト。「liceとrice」は同じくライス。当然「last とrust」はどちらも「ラスト」だから、「ラストベルト」と聞いたときは「最後の工業地帯=終わりを迎えた寂れた工業地帯」と、思いました。
rustは名詞「錆、さび色」。自動詞「錆びる、腐食する」他動詞「錆びさせる、腐食させる(思考力などを)鈍らせる」
米語でrust beltと言う場合のrustは、中西部のかっての大工業地帯で、工場が閉鎖され使われなくなった機械など諸設備がさび付くほどの衰退を示す様子を表しています。
なぜこのrust beltという語がニュースで盛んに使われたかというと、中西部の衰退した工業地帯で失職したり、「我が子に自分自身の子ども時代よりもいい教育を与え、より豊かな暮らしをさせてやれるというアメリカンドリーム」から落ちこぼれて、将来への希望を失った、「中程度教育終了後工場などに働きに出た白人男性労働者層とその家族」の支持を集めたのがトランプ大統領出現の原因になった、と喧伝されたからです。
ほんとうにそうなのかの分析は、アメリカ社会学研究者にでもおまかせします。
2017年1月12日に行われたトランプ次期大統領の就任前記者会見での発言を聞くかぎりでは、これまで私が聞いたどの「次期大統領スピーチ」よりも中身のない演説であり質疑応答でした。
トランプ氏は中国や日本の貿易においてアメリカが劣勢であることで、中国と日本を非難しました。また、「フォードがメキシコに移転しようとしていた工場をアメリカ内にとどめることに成功し、700人の雇用を守った」と自画自賛しました。この自画自賛はいつまで続くでしょうか。失職から救われることになった700人にはご同慶の至りですが、他の数百万人数千万人の「現状に不満を持つ人」は、これからどうなるのでしょうか。
中西部の自動車製造、鉄鋼業などでの失業者は、増え続けています。
鉄鋼業でいえば、2015年から2016年の1年間に失業した労働者は、300万人に上っています。(ニッセイ基礎研究所の統計から)
中西部の鉄鋼業や自動車産業の製造部門で働いていた労働者のこれまでの給与水準は、他業種よりも高く設定されていたため、レイオフ、リストラされた労働者が小売業、運輸業などの他業種に転職しようとすれば、どうしてもこれまでの生活水準から低落します。その不満がトランプ大統領の出現につながったと見なされています。「俺たちの生活を変えてくれ、もう一度強いアメリカにしてくれ」と、彼らは金満家の押しの強い男に希望を託しました。
それらの人々は、差別発言を繰り返そうと、言動が下品であろうと、起死回生の希望を見いだして投票したのだと思います。が、就任前演説でわかったことは、彼は大統領になっても差別をやめる気は無く、自分に反対するメディアに弾圧を加えるだろうということ。側近や重要閣僚の座にその能力をうんぬんするよりも、自分に都合よく存在する人々のみを据えること。プーチンと仲良くやろうとして手玉にとられそうだ、ということ。
トランプさんの「アメリカでの商売には高い関税をかけるぞ」と、中国や日本に言ってさえいれば、アメリカの雇用は守られる、というかのごとき発言では、先が思いやられます。就任前記者会見では、「オバマが決めた健康保険制度をぶっつぶす」ということのほか、具体的な政策は述べられていませんでした。
新大統領、アメリカ国内のアンケート調査で、「新大統領を歓迎しない。期待しない」と答えた人が、史上もっとも多くなりました。不支持率が過半数51%を超えたそうです。いろいろな記録を作りそうな新大統領ですが、まず第一の記録は「歓迎されない度歴代大統領ナンバーワン」の記録。
トランプ新大統領は、就任式の演説で「強いアメリカを取り戻そう」と繰り返すでしょうが、不支持51%という「分断された国家」をまとめ上げるために、何をするのやら。
プーチンは、民主党候補の選挙活動を妨害せんとしてハッキングをしたけれど、ほかの国だってやっていることだし、プーチンと仲良しなのは「財産」だ、と、強調しています。ウクライナ領土のクリミアをロシアが武力で併合したことにともなう制裁措置は解除し、ロシアがシリアのアサド政権に武器を供給することにも目をつぶるようです。
ロシアに弱みを握られているというのは「まったくのデマ」だと、トランプさんは主張していますが、あまりのロシア優遇策に、どんだけプーチンを喜ばせたいのやらと、仲良しぶりに目を見張っています。ロシアには経済上で恩を売るとして、国内の経済政策はどうなるのでしょう。
ラストベルトの赤錆は、果たして落ちるのやら。
20日の大統領宣誓式に、多数の要人が欠席し、パーティで歌う歌手多数が「出演拒否」だったそうです。51%にのぼる「新大統領不支持」の層は、宣誓式に合わせて反対デモを企画しているとのニュース。
よその国のことではありますが、51番目の属州プエルトリコ自治区に次ぐ52番目の属州、と評されている邦ですから、やはり、アメリカがくしゃみしたら、我が方が風邪引くらしく、よそごととは思えず、宣誓式ニュースなどウォッチングしようと、ま、面白がっているだけですけれど。
古代、地中海世界を掌握したローマ帝国も滅びました。大航海をやり遂げ、世界の半分を植民地にしたと豪語したスペイン王国も衰退しました。20世紀を産業力軍事力で席巻し、21世紀初頭の世界を情報力でぬきんでたアメリカ帝国も、やがては傾きます。
私には、この金メッキのような「切り札」さんは、「終わりの始まり」の象徴のような気がします。
<つづく>