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ぽかぽか春庭「無量大数」

2024-07-20 00:00:01 | エッセイ、コラム
20240718
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>数え方の世界(5)無量大数

 春庭過去ログの中から数え方についてのコラムを再録しています。
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20130605
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>ことばの知恵の輪・数え方の世界(4)無量大数

 子どもの頃、生活をしていて必要な数はせいぜい千の単位であり、小学生の時、はじめて父が1万円札の給料袋を持って帰ってきたときは、家中で新しいお札を眺めました。そして、マンの上には億という単位もあるのだと父に教わり、途方もない数だと思いました。億の上の兆は、中学生くらいで国家予算の額などを社会科で習ってはじめて身近な数になりましたが、日常の生活で億という単位が身近な話題になったのは、多くの人にとって1968年の三億円強奪事件がはじめてのことでした。

 兆の上に京という単位があることを知ったのは、いつごろのことだったのか、覚えていません。京は日常生活とまったく関わりのない、宇宙の果ての単位でした。
 それが、コンピュータを使うようになると、スーパーコンピュータの名前が「京」と名付けられ、一気に京が身近になりました。京とは、計算速度が毎秒1京回(10ペタフロップス)という能力を持つことを表しています。

 私にはつい最近まで縁遠かった「大きな数」。しかし、ものごとを宇宙的な規模で考える仏教哲学の世界では、そのはじめから大きな数も哲学のうちにちゃんと存在しており、サンスクリット語でそれらの数をあらわすことばがありました。そのサンスクリット語を音漢訳したのが、漢字の数単位です。仏典により、そして古代の数学書などにより数の名前と大きさが異なっていますが、一般的には、以下の通り。

「下数」一 十 百 千 万 億(10の8乗)兆(10の12乗) 京(10の16乗) 垓 杼 穣 溝 澗 正 載 極(10の48乗)
「上数」恒河沙(10の52乗)阿僧祇 那由他(10の60乗)不可思議(10の64乗)無量大数(無限大)

小さい方の数、小数もあります。「1」を10ずつ割っていくと、
一、分、厘、毛、糸、忽、微、繊、沙、塵、挨、渺、漠、模糊、逡巡、須臾、瞬息、弾指、刹那、六徳、虚空、清浄、阿頼耶、阿摩羅、涅槃寂静

 これでいくと、「刹那(せつな)の時間」とは、10の-18乗の時間にあたります。0.000000000000000000 1秒です。

 子どものころの私には、大きい数も小さい数もとんと考えられず、二桁以上の数字の暗算もできない。今でも数字が出てくると、からきしわからず、頭が混乱してしまいます。

 しかし、日本社会では、江戸時代の中頃、1627年に『塵劫記』という数学書が出版され、かけ算九九のような初歩から微分積分にあたるような高度な数学計算まで学べる数学書として、ベストセラー、ロングセラーになっていたほどで、数学に魅せられた人が大勢いました。

 絵馬を神社に奉納したなかに、算額という数学の問題を書いて神様に奉る、というものがあります。参詣者は算額を見て、その問題を解こうとします。庶民の間にも数学熱が根付いていたのです。

 全国の中でも、福島県埼玉県とならんで数多くの算額が現存する群馬県。
 昔の群馬県の子どもは、「上毛カルタ」という郷土カルタを暗唱したもんですが、その中に「和算の大家、関孝和」という札がありました。よみ手は「わさんのたいか、せきこうわ」と発声していましたが、「労農船津伝次平 ローノーフナツデンジヘー」とともに、いったい何をした偉人なんだか、大きくなるまでよくわからなかったふたりでした。
 関孝和は、吉田光由の『塵劫記』を独学して数学に才能を現しました。17世紀の世界において、西欧にも関孝和ほどの高度な数学者は数少なく、17世紀当時では世界最高峰の数学家のひとりでした。

 遠藤寛子『算法少女』(初版1974復刊2006)によって和算の魅力が知られ、冲方丁『天地明察』(2009)によって渋川春海の名が知られるなど、和算への認知が深まっている昨今、私の大の苦手の数字ですが、ときには数の世界に身を浸してみるのもよいひとときの過ごし方だろうと思います。

 ただし、私にとっての数とは、、、、月末支払い締め切りの家賃光熱費がない、、、、、、ああ、あと5000円あったら、、、、という小さな数字の世界に留まっております。相変わらずの小さな数字の世界。

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20240718
 2013年から10年たっても、相変わらずの貧乏暮らし。つらい数字の日々は続いています。7月10日に、初めての新札入手。北里柴三郎の千円札です。裏には北斎のグレートウエーブ。お初のものはなんでもうれしい。
 無量大数。頭で考えられるのは、宇宙の星の数くらい。そごう美術館で見たKAGAYAが撮影した星の写真も美しかった。↓の星写真は、ぐんま天文台の画像「夏の大三角と天の川」です。東京ではほとんど星を見ることができませんが、せめて画像の星を数えて、無量大数を感じましょう。数えないけど。


<おわり>
コメント
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