オリーブの主要な産地としてはまずはスペインが断然一位で、次いでイタリア、モロッコ、トルコと続いている。ギリシャは5位だが、個人的には、ギリシャとオリーブのイメージが良く重なる。それは、たぶん、夏休みで過ごしたロードス島で、飛行場から海岸のホテルまでの道すがら、目に入るものと言えば丘に点在しているオリーブの木しかなかった、と言う印象によるのかもしれない。7月から8月の時期、毎日快晴が続き街は埃っぽく、乾燥しきっていて、ところどころ岩肌の見えるようなこの島で大きく枝を拡げているオリーブの木がひと際存在感を放っていたからだろう。
ロードス島は古代では港の巨人像の伝説で、そしてギリシャ文明の一翼を担い中世には十字軍としてイスラム教徒と戦った聖ヨハネ騎士団の本拠として、幾たびも歴史の舞台に登場しその痕跡が至る所にある、まるで遺跡に埋もれたような島だ。ここからは半日ほどのクルーズとして20キロメートルほど離れた小島、シミ島めぐりがある。その途中に、言い伝えでは泡の中からアプロディテ(ビーナス)が誕生したといわれる海域がある。その場面は、ボッティチェッリの絵で有名だ。
クルーズ船の船べりから白い波しぶきを眺めているといかにもアプロディテが誕生してもおかしくない感じがする。雲一つない青空、どこまでも澄んだエーゲ海の海、渡ってくる乾燥した心地よい風、それにロードスワインとくれば、アプロディテを取り巻く環境としてこれほどふさわしいものはない。この、等身大に近い大作をフィレンツェのウフィツィ美術館で初めて見た時は、子供のころから美術図鑑で何度も見てきただけに結構感動した。そしてこのクルーズで、まさにその場に来たという感慨がわいてきた。
オリーブの木は日本でも植木屋に行けばどこでも手に入る。10年ほど前に小さな鉢で買ったオリーブを、その後だんだんと大きな鉢へと植え替えてきた。今年は天候のせいか今、花が開いている。白い小さな丸い蕾からこれまた小さな花が顔を出す。それを目ざとく見つけた蜂がせっせと蜜を吸っている。海外渡航が不可能になって半年、ロードス島などへは到底行くことが出来ないので、せめてベランダのオリーブの花を見てギリシャの海を思い出してみようと思う。