10年ほど前に買ったCDプレイヤーの調子が悪く、まともに再生されなくなった。多分CD を駆動しているモーターか読み取る部分に寿命が来たのだろうと思う。これほど古くなった機械を修理 しても、すぐに他のところも駄目になるだろうから、買い替えしかないと思い、近くの大手電器販売店に行ってみた。しかし、CD プレイヤーのみ、と言うのはたった一つ、それもどこか海外で生産されたというのがあるだけで、あとは小さなセットになったもの(ミニコンポ)しかない。
チューナーやメインアンプ、テープデッキ、レコードプレイヤー、スピーカーは今のところ問題ないから、CDを再生するという機能に特化した機械が欲しかったのだが止む無く、もう一つの大手電器販売店をのぞいてみたら、そこにはいくつか置いてあるが、選択できる、といったものではなかった。店員に聞いてみると今はそういう機械を求める客はほとんどいないのだそうだ。そもそも、音楽をCDで聴く、と言うこと自体、衰退の一途をたどっている、いまは、音楽とはインターネットからダウンロードして(購入して)聞くのが主流になているからだ、と。そういう流れは承知しているが、それではこれまでためてきたCDを聴くためにはどうするか、帰ってきてアマゾンを覗いてみると、まだいくつかは販売していることが判って一応ほっとした。
かつてはレコードがあり(最近はまた復活してきているという話もあるが)、それがCDに取って代わられ、さらに最近はダウンロードして聞く、と言うことで、かつてはかなりの場所を占拠していたLPから小さな CDへ、そしていまや、場所に関係なくほぼ無制限に蓄積することが出来るようになって保管場所の問題は無くなってしまったようだ。広さが無制限にあるのなら兎も角、限られた場所と言うことになるとこういったことには十分理由がある。そして、さらに音質もどんどん良くなっているようなのだ。場所を取らず、しかも高音質の音楽を楽しめるとあればもうこの流れは止められないだろう。
CDプレイヤーをどうするか、アマゾンで購入するかはまだ最終的には決めていない。いずれ買うことになるのだろうが。そこで、久しぶりに埃を被っていたレコードを引っ張り出してみた。レコードの音質には暖かみがある、というような話も聞くけれども自分にはやはりどこかに不鮮明なところや雑音がありそれが少し気になってしまった。
長く本棚の片隅で眠っていたレコードのうち大部分はロンドンで買ったもの。ロンドンの金融街シテイに近いところに1980年代、音楽レコードを売っている大きな店があり、昼休みにたまたまそこに入った時、ちょうどシューベルトの「死と乙女」のレコードがかけられた。それまでにもこの曲は何度もきいていたのだが、たぶん、この店では当時の最高水準のステレオシステムで再生していたのだろう、驚くほどに美しく聞こえた。こんなに心に響く曲だとは思いもしなかった。
かなり感動してそのレコードを早速購入し、その後も、このレコード店からは、給料日ごとにモーツァルトの全集を毎月一巻づつ買って16巻の全集をそろえることが出来た。次にバッハの全集も買いはじめたのだが、これは12巻のうち6巻買ったところで転勤になってしまった。そのためバッハの全集はカンタータ集などが欠けていてすべてそろっているわけではない。残りを一括して買う、と言うこともあり得たのだろうが、それでは毎月一巻買うという方針に反するし、転勤と言う事情によって中断されるということの記念になるのでは、という、いささか意固地な考えもあったのかもしれない。
転勤の月に最後に買ったのがWerke für Solo Instrumente。このなかでは多分もっとも有名な一つが無伴奏ヴァイオリン パルティータ第2番二短調(BWV1004)だろうか。この曲はヴァイオリン以外にも編曲されていて、どの楽器で演奏されても胸を締め付けられるように感じる人は多いのではないかと思う。
今ではもう残りの6巻を買うことはできない。いわば「未完成」に終わった自分のバッハ全集である。