選挙演説では時として興奮のあまり、誰も想像もできないようなことが口走られることがある。イギリス、インデペンデント紙によれば、最終盤を迎えたアメリカ大統領選挙で、トランプ大統領が25日に支持者を前に、例によって(かなり支離滅裂な)大演説をぶった際、彼がノーベル平和賞を2度受賞したと発言した。一つはセルビアーコソボ紛争の平和的解決のためともう一つはシリア和平に功績によって、という。熱狂的な彼の支持者は歴史的事実など気にしないから大歓声でそれに応えた―――と言うのは少し言い過ぎ。
もっともトランプはその直後、自分がノーベル平和賞に推薦された、と言う風に言い換えた(それは事実)。毎年数百人が推薦されている。今年の平和賞をトランプが受賞できなかった(受賞者はWFO国連世界食糧計画)のは明らかな事実であって、疑問の余地はない。それでもノーベル平和賞云々を口走ったのは、アメリカ大統領にとっても平和賞とは名誉なことであるということを物語っていると同時に、トランプ大統領が自分の前任者であるオバマ氏が平和賞を受賞したことをことのほか意識しているから、に他ならない。
ノーベル賞のうち唯一ノルウエーで受賞式が行われるのは平和賞である。平和賞はノルウエーのノーベル委員会が決定する。ノーベルはまだノルウエーが実質的にスエ―デン領だった時に両国の和解と平和を祈念して平和賞をノルウエーで授与することを決めたのであり、このため今でも平和賞のみ、スウェーデンではなくノルウェー政府が授与主体となっている。
この平和賞の授与式はオスロの市庁舎で行われる。前にも触れたが、自分は仕事でノルウエーを含む北欧4か国を担当していた時期があって、この街に何度も訪れたことがある。ツインタワーがひときわ目立つオスロ市も訪問対象先に入っていて前任者との引継ぎでオスロ市役所を始めて訪問した時、引継ぎの初めに市の助役がノーベル賞の授賞式の行われる大ホールを見学させてくれた。建物の手前の方に大ホールがあったと思う。
この大ホール、写真を撮っていないので正確かどうか自信はないが、ちょうど今頃のそろそろ日が短くなる時期だったせいか静かで少し薄暗くただ広々としていた、と言う印象がある。しかし、この一見質素な場所での授賞式がどれほどの影響を世界に及ぼすのか、想像することは難しいし、また、その受賞者に対して種々議論のあることでも特殊なノーベル賞である。このストックホルムと比較すると地味な、しかし平和な北の国の首都が、世界の平和にどういう形であれ影響を与えた人物や組織を顕彰するというのは、とても感慨が深い。
ノルウエーと言えば、伝承に出てくる妖精としてのトロルが有名だ。妖精と言っても、可憐な少女の化身を想像してはいけない。一見ぎょっとするような特異な容貌をしている。手足の指は4本しかない。ノルウェー人の中では、日常生活で物が無くなった時には「トロルのいたずら」と言われ、何かにつけて責任を負わされるトロルは気の毒ではあるがその容貌にもかかわらず、ノルウエー人に深く愛されている。この人形はノルウエーならどこでも買うことが出来る。
アメリカの大統領と言えば世界で最も強大なかつ影響力のある地位にもかかわらず、彼の妄想を掻き立てるほどの賞であることだけは間違いなさそうだ。
オスロ市庁舎(Wikipedia)
トロル人形