いわゆる東欧諸国の中で一番数多く訪れた国はハンガリー。はじめてブダペストを訪れたのはまだ冷戦の最中の1970年代。
ソ連の厳格な支配下にあって、徐々に市場経済を取り入れようとしていたのがハンガリーだった。もちろんソ連の機嫌を損ねないように細心の注意を払いながらのごく限られたものだったが。ほかの東欧諸国、たとえば、ブルガリアなどはまるでソ連の小型版のような国で息が詰まってしまうような感じだったから、ハンガリーの少し緩やかな政治体制や街の雰囲気は印象的だった。
仕事のことはさておき、ハンガリーの土産といえば、当時まずはヘレンドの陶器があげられた。当時、西側諸国でも高級品としてヘレンドの陶器(主として皿やコーヒーカップなど食器)を買うことができたが、流通量が少なく希少価値もあり、相当高価だった。それがハンガリーの国内で買えば、ポンドやドルなどの外貨に換算してみると驚くほど安かった(為替相場が人為的に抑えられていたから)。
何度か行っているうちに、ヘレンドの陶器ばかりでなく、他の物にも目が向くようになった。中でも目についたのはレース編み物や刺繍。当時の東欧諸国ではどこでも手編みのレースの織物、テーブルクロスなどがこれまたとても手ごろな値段で売られていた。本当かどうかわからないが、冬の間の女性の副業としてレース編みが奨励されていた、と・・・。
そんな時にブダペスト空港で目について買ったのがハンガリー民族衣装に身を包んだ人形。この人形はかなり緻密な手作業によるものと思われる。衣装だけでなく、姿勢を変えると(足を伸ばす、など)、それにつれて手の位置も変わるという、凝ったものだった。あどけない顔立ちながらどこか妖艶なところもある、年齢不詳の人形。
飾り棚を整理していたら奥のほうで長い間眠っていたのが見つかった。