揶揄するつもりはなく、このところ頻繁に話題になっている電気自動車(EV)から、1980年ころロンドンなら大抵のところを走っていた(移動していた、と言うほうが正しい)、白衣のような制服を着た牛乳配達人、ミルクマンのことを連想した。日本でも乳業会社が玄関の横に置いてある小さな木箱の中に牛乳瓶を配達するサービスがあったと思うが、ロンドン南部、ウインブルドンの近くでも早朝、電気で動く小さな荷台付きの車が各家庭に牛乳瓶を配達するサービスがあった。
早朝の配達であり、住民の眠りを妨げないように音の静かな電気自動車(ゴルフ場の電動カートの少し大きなもの)が使われていた。当時、頻繁に早朝から仕事をすることがあり、まだ暗い中で書類を読んでいると、何か舟でも動いているような独特の音がして家の前で停まる。それがミルクマンの車の音だった。多分今では牛乳はスーパーでプラスチック製の瓶に入ったものを買うのが一般的なっており、新鮮な牛乳を毎朝配達してもらうというミルクマンも廃れてしまっただろう。
新しい家に引っ越すと当然のようにミルクマンがミルクをもって訪れて来る。断らなければ頼んだものとして毎日置いていくようになり、週末にでもいるころを見計らって1週間分かまとめて請求に来るといった具合だった。それでクリスマス時期になるとチップを上乗せして少し大目に払う、と言うのが習慣。一方、ミルクマンの方からは、年末には家計簿をプレゼントしてくれたと思う。ミルクマンとは言うもの、車には牛乳だけでなくパンや最低限の果物等いくつかの食料品もたずさえていて、もし何か食料を買い忘れた時には、そこで用が済むということもあった。
昔ながらの重たいバッテリーでゆっくりと動いていたミルクマンの配達車。モーターの唸るような独特の音は今ではあまり聞かない。その代わり、1年ほど前ロンドンに行った時、特に目についたのがアメリカの電気自動車メーカー、テスラ社の電気自動車だった。すぐにそれと判る大柄な車体と近未来的なスマートなデザインのテスラ車は都心では頻繁に目にすることが出来た。日本では考えられないような普及ぶり、かなり高価なはずなのに相当な台数走っていたから、多分ロンドンの富裕層では今やEVに乗ることが流行のひとつにでもなっているのだろう。原子力発電の多いイギリスでは電気自動車は二酸化炭素排出には効果があることは確かだ。火力発電が殆どの日本が、総体としてはEVでも二酸化炭素の排出量は少なくならないのに対して。
日本でもそうだが、最近ではニューヨークをはじめ世界中のタクシーがハイブリット車に代わってきており、そのうちにEV車に切り替わる日もそう遠くはないだろう。今思うとミルクマンのあの配達車は未来のEV車を予告していたのかもしれない。一方で自分は、いまだガソリン車に乗って(運転して)いる。このガソリン車もいずれは歴史の遺物として消え去ってゆくのだろうか。ただそれまでにはあと数十年かかりそうだ。外出を自粛している現在、わがガソリン車は殆ど動くことはなく、その99%の時間を車庫の中で過ごしているから既に置物になってしまったようなところもある・・・。