昨日、フラゴナールとデュ・バリー伯爵夫人の不遇なふたりに関係する4枚の絵のことを書いた。偶然なのだろうが、最新のフリックコレクションのYoutube番組は、フラゴナールの師である、ロココ絵画の巨匠フランソワ・ブーシェ(François Boucher)と、彼のパトロンで、デュ・バリー伯爵夫人の前にルイ51世の公妾だったポンパドール侯爵夫人(Jeanne-Antoinette Poisson, marquise de Pompadour)と、ブーシェがポンパドール侯爵夫人の依頼によって描いた4枚の絵(四季ー春夏秋冬)にまつわる話だった。
フラゴナールとデュ・バリー伯爵夫人の悲惨な最期をロココのような悲劇と例えたが、ブーシェとポンパドール侯爵夫人のそれは全く違う。ブーシェは「国王の筆頭画家」に叙せられて画家としての最高の栄誉を得たのに加えて終身巨額の年金が与えられたし、ポンパドール侯爵夫人は、僅か42歳で没するがその間はルイ15世にかわってフランス政治の実権を握り権勢をほしいままにした。彼女の名前は、オーストリアの女帝マリア・テレジア、ロシアの女帝エリザヴェータと3人(の女傑)で、反プロイセン包囲網を結成した「3枚のペチコート作戦」として西欧史にも残っている。
この4枚の絵は、ポンパドール侯爵夫人の死後親族に相続されその後アメリカの金融王JP.Morganの手に渡り最終的にフリックコレクションの手に収まるという運命を辿っている。この4枚の春夏秋冬の絵には、あの血腥いフランス革命の影は全くうかがえず、全盛期のロココの耽美的な明るさに満ち溢れている。
画家とパトロンの運命も、ひと世代異にするだけでまさに天国と地獄のような違いだ。この4つの絵にはそれぞれに題が付けられていて、その中では、冬の今見るせいなのかやはり「冬」の絵が面白い。コサックかトルコかあるいはシベリア出身か、しっかりした防寒服に身を包んだ男が、豪華な毛皮の襟巻をしてはいるものの胸元も露わな、エレガントな貴婦人をのせた金箔のそりを押している。この貴婦人はポンパドール侯爵夫人を擬したものとも言われているが、容貌は必ずしも彼女ではなさそうだ。暗い空、凍り付いた水車とは正反対のこの貴婦人の煌びやかさが印象的。
春(The Charms of the Spring)
夏(The Pleasures of the Summer)
秋(The Delights of the Autumn)
冬(The Amusement of the Winter)
Frick Collection HP より