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為替ディーラーは円相場の大荒れを予想する ドル円レートを左右する"中国景気"

2015年10月06日 05時33分16秒 | FX
 1ドルを何円で買えるかを示すのが、ドル円の為替レートだ。2012年10月は1ドル=80円だった。それが今は120円。たった3年の間に40円もの円安ドル高が進んだ。輸出企業がその恩恵を受け業績を伸ばす一方で、原材料の多くを輸入に頼る内需企業には打撃となった。食品の値上げなど、私たちの生活への影響も小さくない。

 ではこの先をどう考えればよいのか。為替取引の最前線で働く専門家に尋ねて回った。

 「米FRB(連邦準備制度理事会)や日本銀行の追加緩和なんかよりも、中国の先行きのほうがはるかに不安要素だ」

 ある総合商社の若手為替ディーラー、Aさんはこう吐露する。ディーリングルームでは“中国が次に何をしでかすか”という話題で持ち切りだという。

 8月の世界同時株安を境に、中国経済の動向が株価や為替相場を乱すようになった。Aさんは毎日、目を皿のようにして上海総合指数や人民元レートの値動きをくまなく追う。そうしたデータの変化から「市場参加者がリスクを取りに行くのか(リスクオン)、それとも回避するのか(リスクオフ)を判断する」。

 ドル円レートでいえば、リスクオフ時には“安全通貨”とされる円が買われ、円高ドル安になりやすい。どの通貨の動きを追うにしても、市場のリスク姿勢の把握は不可欠だ。
 「ドル円10本!」「イチマル・イチゴー!」

 ここは、三菱UFJ信託銀行のディーリングルーム。市場での取引を担うディーラーや、企業や投資家といった顧客の取引を請け負うセールスなど、30人ほどの為替部隊が働く。大きな黒い受話器を握りしめ、1日200件以上の電話を取る。4つ5つの画面を見ながら、2つ3つのキーボードをたたく。時には怒号のような声も飛び交う。一種の“戦場”である。

 「ドル円10本」とは、顧客から為替取引の注文を受けた際、セールスがディーラーに伝える言葉だ。100万ドル×10本、つまり1000万ドルを買いたい顧客がいるので、円がいくら必要なのかレートを提示してほしいという意味である。

 「イチマル・イチゴー」は、それを受けてディーラーがセールスに示した取引可能なレート。そのときのドル円レートの大台が1ドル=120円であれば、買いたいとき(ビッド)は120円10銭で買える。売りたいとき(オファー)は120円15銭で売れる、ということを表す。

 為替相場は、各国の経済指標や、中央銀行の金融政策に大きく左右される。それらの発表時には値が大きく動くことが多く、ディーラーたちは、経済ニュースの速報を流す「ブルームバーグ」の端末から目が離せない。三菱UFJ信託銀の新人ディーラーたちは、ブルームバーグで発信されるヘッドライン(速報の見出し)を常にチェックし、重要な報道があれば、その瞬間に“叫ぶ”のが役目だ。人が密集した空間において、肉声に勝る伝達手段はない。

 日ごろ、輸出入企業などの顧客とやりとりをする同行資金為替部の一口義仁・事業法人営業グループマネ-ジャーは、「最近、お客さんからは中国経済が為替レートにどういった影響を及ぼすか、といった質問が多い」と話す。冒頭のAさんと同様の懸念を、多くの企業が抱えているようだ。

 米FRBの利上げがドル円レートにすでに織り込まれている中、中国の不透明感が高まった。これにより「もともとあった円安トレンドが崩れかけている」と一口氏は分析。一方で、FRBのイエレン議長は利上げの年内実施を事実上公約しており、「円高進行の余地も乏しい。ドル円レートはますます1ドル=120円前後で膠着化が進む」という。
 そもそも為替の市場には、株のように専用の取引所がない。銀行や一部の証券会社が互いに電話やネットワークで繋がることで取引が可能になる。これはインターバンク(銀行間取引)市場と呼ばれ、銀行と銀行の間に「ブローカー」が入ることで、取引を円滑にする。

 銀行はブローカーと連絡を取り合うか、電子システムで他の銀行と直接取引をする。ここで取引の前線に立つのが銀行の(インターバンク)ディーラーだ。そしてセールスが、市場と、取引をしたい顧客とをつなぐという構図だ。

 ブローカーは、実は多くの人が一度はテレビで見たことがある。為替レートの関するニュースに出てくる、6角形のテーブルの周りに人が座り、テーブルの上で紙を投げ、何かを口走っている光景。彼らがブローカーだ。

 このうちの1社であるトウキョウフォレックス上田ハーローのドル円為替ブローカー、畑克利氏は「間に入ってうまく取引を成立させるのがブローカーの仕事。お客さんと一緒にマーケットを作っているような感覚だ」と話す。

 たとえば、1000万ドルを売りたいという銀行がいたとする。だが、市場には500万ドルを買いたいという銀行しかいない。こうした場合、ブローカーが500万ドルを買いたい銀行をほかに探すか、すでに500万ドルを買いたいと言っている銀行に「もう500万ドル買わないか」と持ち掛け、売買成立を目指す。それゆえブローカーは、顧客である銀行から信頼を得ておく必要があり、自社を取引で使ってもらえるよう営業活動もするのだという。
 インターバンク市場の中心で常日頃、相場の現実を目の当たりにする畑氏は「為替相場は“力勝負”の世界。マーケットは人が動かす」と表現する。取引量が多いプレーヤーの売買で動くとき、ほかはただその動きについていくしかない。

 相場が大きく動いた時には、その要因として経済指標や要人の発言など、後講釈的にさまざまな説明がなされるが、「プレゼンスのあるディーラーが“何となく売ってみたかった”ということで動いても、市場はそれについていく。確かに今は中国を気にするディーラーは多いが、新聞記事には出てこないような心理的要因もかなり大きい」(畑氏)。

 9月末現在、今年のドル円相場の変動幅は10%に満たない。利ザヤを稼ぎたいディーラーにとっては“儲からない年”になっている。「1年間の値幅が10%以内だったことはこれまでにない。感覚的にいえば、世界同時株安の前に言われていた上値1ドル=130円は厳しいが120円は堅い。下値は1ドル=113円を目指す雰囲気もある」と畑氏は分析する。

 一見無味乾燥な為替相場の裏では、市場参加者がさまざまな思惑で激しい攻防を繰り広げる。当座は中国経済の動向を注視しつつ、米国の利上げのタイミングを見守る人が多い。今は嵐の前の静けさといった状態だろう。
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