米国の「幻の利上げ」に市場は揺れている。世界経済が鈍化し、米利上げ観測が後退。金融相場が復活する中で、利上げに備えていたポジションが、各市場で巻き戻されている。一方で先行きは不透明さを増し、緩和マネーを背景とした短期筋主導の相場展開が続き、一段と振幅が激しくなっている。
<市場の脅え>
米利上げが実施されたわけではない。市場は蜃気楼のような米利上げを追いかけ、そして遠退く中で、一喜一憂する展開が続いている。
「市場にとって予想は現実と変わらない」──。PIMCOのエグゼクティブ・バイス・プレジデント、トニー・ クレセンツィ氏は9月のリポートで、今年の市場でボラティリティが高まった背景に、米連邦準備理事会(FRB)の「幻の利上げ」があると指摘した。「市場は利上げ予想に脅え、世界の金融市場全般で極めて重大なイベントを連鎖的に引き起こしている」と述べた。
市場では堅調な米経済やFRB当局者の強気な発言を背景に、昨年末から米利上げ観測が台頭。米金利は上昇し、ドル高を進行させた。10年米国債利回り(US10YT=RR)は6月に2.5%まで上昇。昨年末に90ポイントだったドル・インデックス(.DXY)は今年3月に約12年ぶりとなる100ポイント台に乗せた。
その半面、ドルと逆相関関係にあるコモディティ価格は下落し、新興国通貨も売られた。人民元をドルに事実上ペッグしている中国は今年8月、人民元の基準価格引き下げに動き、グローバル市場は大きく動揺。中国経済の鈍化も重なり、コモディティ価格や新興国通貨が一段と下落。リスクポジションは巻き戻され、世界同時株安をもたらした。
<スローな経済>
足元の市場の動きは、その巻き戻しだ。株式などリスク資産の相場が反転し始めたのは10月に入ってから。9月米雇用統計の悪化が10月2日に発表されたときとタイミングが一致する。米利上げ観測の後退が、現在のリバウンド相場の原動力だ。
ここにきて、世界的に経済が鈍化。成長率だけでなく、貿易量、賃金、物価、多くの経済データがスローダウンした。米国や日本など先進国でも、好調だった内需に弱い外需の影響が及び始めており、元気だった企業業績にも陰りがみえる。
9月の米小売売上高では、国内総生産(GDP)の計算に使われる個人消費支出との連動性が最も高いコア売上高が0.1%減。小売米最大手の米ウォルマート・ストアーズ(WMT.N)が純売上高見通しを従来の1─2%増から横ばいに下方修正した。「一本足打法」と呼ばれた米国経済が弱まれば、影響は計り知れない。
ロイターがエコノミスト約90人に行った調査によると、12月15─16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利上げ確率は55%で、9月22日時点の60%から低下した。
市場では、来年も利上げができない可能性が取り沙汰されており、そうなれば本当に「幻の利上げ」となる。
FRB当局者も、年内の利上げについてトーンを軟化。フィッシャー副議長は11日、年内の利上げについて、依然として可能性があるとした上で「(これは)見通しであってコミットメント(約束)ではない」と指摘した。
<利上げのジレンマ>
「幻の利上げ」に揺れる市場、経済鈍化で金融相場復活© REUTERS 「幻の利上げ」に揺れる市場、経済鈍化で金融相場復活
ただ、金融相場が復活したと、手放しでは喜べない。年末の株高をもたらした昨年までとは異なり、景気減速懸念は一段と強く、政策効果への期待感は一段と下がっているためだ。「これだけの金融緩和をしても、景気が良くならないとの悲観が市場には広がっており、リスクオン方向の取引は海外短期筋など限定的」(米系証券トレーダー)という。
日経平均(.N225)は9月29日の安値1万6901円から16日には1万8291円まで1390円反発した。
しかし、8月10日終値の2万0808円からは3分の1程度の戻りにすぎない。鉄鋼などこれまで売られていた外需株が切り返す一方、小売りなどの内需株が下落するなど、ポジションの巻き戻しが主体とみられている。
「米経済はやはり堅調だと示されることが理想的だが、そうなれば米利上げ観測が強まってしまうジレンマを市場は抱えている」とJPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は指摘する。
8月と9月の2カ月間で、海外投資家は日本株を現物と先物を合わせて約7兆円売り越したが、10月第1週は9週ぶりに3180億円の買い越しとなった。日本株は海外勢の売買に相変わらず左右されている。
米利上げ観測の後退で、いわゆる緩和マネーは再び動きやすくなった。市場では、乱高下相場で被った損失を取り戻すために、ヘッジファンドなどが彼らの決算期末に向けて仕掛ける可能性もある、と警戒されている。ただ、リスクオン材料は以前に比べて少なくなっており、波乱相場再開への警戒感は強い。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)
<市場の脅え>
米利上げが実施されたわけではない。市場は蜃気楼のような米利上げを追いかけ、そして遠退く中で、一喜一憂する展開が続いている。
「市場にとって予想は現実と変わらない」──。PIMCOのエグゼクティブ・バイス・プレジデント、トニー・ クレセンツィ氏は9月のリポートで、今年の市場でボラティリティが高まった背景に、米連邦準備理事会(FRB)の「幻の利上げ」があると指摘した。「市場は利上げ予想に脅え、世界の金融市場全般で極めて重大なイベントを連鎖的に引き起こしている」と述べた。
市場では堅調な米経済やFRB当局者の強気な発言を背景に、昨年末から米利上げ観測が台頭。米金利は上昇し、ドル高を進行させた。10年米国債利回り(US10YT=RR)は6月に2.5%まで上昇。昨年末に90ポイントだったドル・インデックス(.DXY)は今年3月に約12年ぶりとなる100ポイント台に乗せた。
その半面、ドルと逆相関関係にあるコモディティ価格は下落し、新興国通貨も売られた。人民元をドルに事実上ペッグしている中国は今年8月、人民元の基準価格引き下げに動き、グローバル市場は大きく動揺。中国経済の鈍化も重なり、コモディティ価格や新興国通貨が一段と下落。リスクポジションは巻き戻され、世界同時株安をもたらした。
<スローな経済>
足元の市場の動きは、その巻き戻しだ。株式などリスク資産の相場が反転し始めたのは10月に入ってから。9月米雇用統計の悪化が10月2日に発表されたときとタイミングが一致する。米利上げ観測の後退が、現在のリバウンド相場の原動力だ。
ここにきて、世界的に経済が鈍化。成長率だけでなく、貿易量、賃金、物価、多くの経済データがスローダウンした。米国や日本など先進国でも、好調だった内需に弱い外需の影響が及び始めており、元気だった企業業績にも陰りがみえる。
9月の米小売売上高では、国内総生産(GDP)の計算に使われる個人消費支出との連動性が最も高いコア売上高が0.1%減。小売米最大手の米ウォルマート・ストアーズ(WMT.N)が純売上高見通しを従来の1─2%増から横ばいに下方修正した。「一本足打法」と呼ばれた米国経済が弱まれば、影響は計り知れない。
ロイターがエコノミスト約90人に行った調査によると、12月15─16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)における利上げ確率は55%で、9月22日時点の60%から低下した。
市場では、来年も利上げができない可能性が取り沙汰されており、そうなれば本当に「幻の利上げ」となる。
FRB当局者も、年内の利上げについてトーンを軟化。フィッシャー副議長は11日、年内の利上げについて、依然として可能性があるとした上で「(これは)見通しであってコミットメント(約束)ではない」と指摘した。
<利上げのジレンマ>
「幻の利上げ」に揺れる市場、経済鈍化で金融相場復活© REUTERS 「幻の利上げ」に揺れる市場、経済鈍化で金融相場復活
ただ、金融相場が復活したと、手放しでは喜べない。年末の株高をもたらした昨年までとは異なり、景気減速懸念は一段と強く、政策効果への期待感は一段と下がっているためだ。「これだけの金融緩和をしても、景気が良くならないとの悲観が市場には広がっており、リスクオン方向の取引は海外短期筋など限定的」(米系証券トレーダー)という。
日経平均(.N225)は9月29日の安値1万6901円から16日には1万8291円まで1390円反発した。
しかし、8月10日終値の2万0808円からは3分の1程度の戻りにすぎない。鉄鋼などこれまで売られていた外需株が切り返す一方、小売りなどの内需株が下落するなど、ポジションの巻き戻しが主体とみられている。
「米経済はやはり堅調だと示されることが理想的だが、そうなれば米利上げ観測が強まってしまうジレンマを市場は抱えている」とJPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は指摘する。
8月と9月の2カ月間で、海外投資家は日本株を現物と先物を合わせて約7兆円売り越したが、10月第1週は9週ぶりに3180億円の買い越しとなった。日本株は海外勢の売買に相変わらず左右されている。
米利上げ観測の後退で、いわゆる緩和マネーは再び動きやすくなった。市場では、乱高下相場で被った損失を取り戻すために、ヘッジファンドなどが彼らの決算期末に向けて仕掛ける可能性もある、と警戒されている。ただ、リスクオン材料は以前に比べて少なくなっており、波乱相場再開への警戒感は強い。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)