スポーツ用品大手アディダスが、過去30年間余りで初めて本国ドイツの工場で自社製品の生産を開始する。これはアジアでの労働コスト上昇への対応策として、世界的なブランドが製造拠点を本国に戻す最も顕著な例の一つだ。
ドイツ南部バイエルン州の町アンスバッハにある広さ5万平方フィート(約4645平方メートル)のアディダス工場は、2017年にフル生産が始まる。ロボットと全自動装置を駆使し、年間50万足のスニーカーを生産する予定だ。アディダスの年間総生産量3億足に比べれば1%を大きく下回る水準だが、ドイツでの生産は製品の質改善や納期短縮、倉庫保管コストの削減につながると同社はみている。
技術革新担当バイスプレジデントのゲルト・マンツ氏は「人々は柔軟性とスピードを求めているが、同社の現行の製造方法は「その妨げになっている」と説明。アンスバッハ工場と同様の施設が世界中で計画されており、来年は米国で開設するという。
より顧客に近い場所で
顧客、つまり市場に近いところで製造する動きは、大半の開発途上国で人件費や輸送コストの上昇、労働者不足に直面する企業にとって一般的になりつつある。さらに、消費者側からは新しいタイプのスニーカーやユニークな電子製品などをいち早く手に入れたいというニーズがある。こうした背景から、世界的な有名企業は製造方法の再検討を余儀なくされている。
アディダスのライバルである米ナイキは、シューズを同社の主要市場近くで製造できるようにするため、委託製造会社フレックスと技術開発で協力し始めたと述べた。米アップルはパソコン「Mac(マック)」の米国内生産を拡大した。電子機器の委託製造で世界第3位のジェイビル・サーキット(フロリダ州セントピーターズバーグ)は、工場がより小さく、そして顧客により近くなる将来に備えてオートメーション生産に移行しつつあると述べている。
ジェイビルはアップル、エレクトロラックス(スウェーデン)などの大手電子製品・家電企業向けに回路基板や電機部品を製造している。KC・オング上級副社長(オペレーション担当)は「現時点で工場がしているのは大量生産だ」とし、「将来、それは衛星工場での個別生産になるだろう。われわれは工場の標準化を進めており、それによって多くの異なるロケーションでの工場設立も可能になるだろう」と語った。
反復作業の人件費は割高
アナリストらは、本拠地に近いところに操業拠点を移す際にはオートメーションが決定的に重要だと指摘する。なぜなら、人の手による反復的な作業を行う労働コストはますます割高になっているが、それらはオートメーションで置き換えることが可能だからだ。またメーカーは、オートメーションによって厳格な品質基準を維持し、職場の安全性強化にもつながるとみている。最も危険な仕事をロボットにさせられるからだ。
アディダスは、ドイツの新工場では、在庫管理や物流、サプライチェーンのコストが低下するだろうと述べた。小売企業やスポーツウェア会社は通常、販売予測に基づいて大量に製品を発注しなければならない。こうした予測が外れると、製品は倉庫に眠ったままで、最終的に値下げして見切り売りせざるを得なくなるケースもある。
国際ロボット連盟(IFR)は、開発途上国での労働力不足とコスト上昇により、産業用ロボットの販売が2014年から18年までにほぼ倍増して40万台に達するだろうと予想している。
人の手作業の優位性
ただ現時点では、生産を途上国から移転している西側企業は割合から見ればまだ少数だ。例えば米国アパレル・履物協会によれば、昨年は靴と衣料品の国内生産が6年連続で増加したが、国内で売られた衣料品の97%、靴の98%は輸入品だったという。
また、西側企業が本拠地近くで製造しているのはプレミアム商品であることが多く、途上国でその何分の一かのコストで製造している割安品ではない。
オートメーション推進派は、技術の発展によって、顧客の近くでも安価な製品の生産が可能になると主張する。ただ多くの世界的な企業にとって、顧客に近い場所で製造するこの種の工場の実現は何年も先になるだろう。衣料品の繊細な部分を縫合するなど器用さが必要とされる仕事は、現状では人間の手でやったほうが優れている場合が多いからだ。
アディダスはドイツ新工場での生産は、同社製シューズの需要拡大を満たす一助になるが、アジアでの製造拠点を減らすつもりもないと述べている。
ドイツ新工場では新しいシューズ製造の所要時間を数週間から数時間に短縮できるだろう。前出のマンツ氏によると、靴底の製造にあたり従来は機械3台で行っていた仕事が1台で可能になり、その分を複雑なデザインを生み出すことに回せる。結果的に同工場では、雇用する労働者160人をより複雑な作業に集中させられるにようになるという。
アディダスのヘルベルト・ハイナー社長は「あらゆる作業を完全にオートメーション化するのが目標ではない」と述べている。
ドイツ南部バイエルン州の町アンスバッハにある広さ5万平方フィート(約4645平方メートル)のアディダス工場は、2017年にフル生産が始まる。ロボットと全自動装置を駆使し、年間50万足のスニーカーを生産する予定だ。アディダスの年間総生産量3億足に比べれば1%を大きく下回る水準だが、ドイツでの生産は製品の質改善や納期短縮、倉庫保管コストの削減につながると同社はみている。
技術革新担当バイスプレジデントのゲルト・マンツ氏は「人々は柔軟性とスピードを求めているが、同社の現行の製造方法は「その妨げになっている」と説明。アンスバッハ工場と同様の施設が世界中で計画されており、来年は米国で開設するという。
より顧客に近い場所で
顧客、つまり市場に近いところで製造する動きは、大半の開発途上国で人件費や輸送コストの上昇、労働者不足に直面する企業にとって一般的になりつつある。さらに、消費者側からは新しいタイプのスニーカーやユニークな電子製品などをいち早く手に入れたいというニーズがある。こうした背景から、世界的な有名企業は製造方法の再検討を余儀なくされている。
アディダスのライバルである米ナイキは、シューズを同社の主要市場近くで製造できるようにするため、委託製造会社フレックスと技術開発で協力し始めたと述べた。米アップルはパソコン「Mac(マック)」の米国内生産を拡大した。電子機器の委託製造で世界第3位のジェイビル・サーキット(フロリダ州セントピーターズバーグ)は、工場がより小さく、そして顧客により近くなる将来に備えてオートメーション生産に移行しつつあると述べている。
ジェイビルはアップル、エレクトロラックス(スウェーデン)などの大手電子製品・家電企業向けに回路基板や電機部品を製造している。KC・オング上級副社長(オペレーション担当)は「現時点で工場がしているのは大量生産だ」とし、「将来、それは衛星工場での個別生産になるだろう。われわれは工場の標準化を進めており、それによって多くの異なるロケーションでの工場設立も可能になるだろう」と語った。
反復作業の人件費は割高
アナリストらは、本拠地に近いところに操業拠点を移す際にはオートメーションが決定的に重要だと指摘する。なぜなら、人の手による反復的な作業を行う労働コストはますます割高になっているが、それらはオートメーションで置き換えることが可能だからだ。またメーカーは、オートメーションによって厳格な品質基準を維持し、職場の安全性強化にもつながるとみている。最も危険な仕事をロボットにさせられるからだ。
アディダスは、ドイツの新工場では、在庫管理や物流、サプライチェーンのコストが低下するだろうと述べた。小売企業やスポーツウェア会社は通常、販売予測に基づいて大量に製品を発注しなければならない。こうした予測が外れると、製品は倉庫に眠ったままで、最終的に値下げして見切り売りせざるを得なくなるケースもある。
国際ロボット連盟(IFR)は、開発途上国での労働力不足とコスト上昇により、産業用ロボットの販売が2014年から18年までにほぼ倍増して40万台に達するだろうと予想している。
人の手作業の優位性
ただ現時点では、生産を途上国から移転している西側企業は割合から見ればまだ少数だ。例えば米国アパレル・履物協会によれば、昨年は靴と衣料品の国内生産が6年連続で増加したが、国内で売られた衣料品の97%、靴の98%は輸入品だったという。
また、西側企業が本拠地近くで製造しているのはプレミアム商品であることが多く、途上国でその何分の一かのコストで製造している割安品ではない。
オートメーション推進派は、技術の発展によって、顧客の近くでも安価な製品の生産が可能になると主張する。ただ多くの世界的な企業にとって、顧客に近い場所で製造するこの種の工場の実現は何年も先になるだろう。衣料品の繊細な部分を縫合するなど器用さが必要とされる仕事は、現状では人間の手でやったほうが優れている場合が多いからだ。
アディダスはドイツ新工場での生産は、同社製シューズの需要拡大を満たす一助になるが、アジアでの製造拠点を減らすつもりもないと述べている。
ドイツ新工場では新しいシューズ製造の所要時間を数週間から数時間に短縮できるだろう。前出のマンツ氏によると、靴底の製造にあたり従来は機械3台で行っていた仕事が1台で可能になり、その分を複雑なデザインを生み出すことに回せる。結果的に同工場では、雇用する労働者160人をより複雑な作業に集中させられるにようになるという。
アディダスのヘルベルト・ハイナー社長は「あらゆる作業を完全にオートメーション化するのが目標ではない」と述べている。