06・10.17海保著 培風館 07年2月刊
認知と学習の心理学
ーー知の現場からの学びのガイド
あとがき
●専門書への橋渡し
あとに続く専門書としての「認知心理学」「学習心理学」への橋渡しになるような、教養的な「認知と学習の心理学」の本を書いてほしい、という依頼を快諾して、すぐに頭に浮かんだ構想が、この本のような内容であった。
あまりに個人的な体験からの発想ばかりで、編集者はびっくり仰天してしまったのではないかと思う。それでも、専門書への橋渡し的な内容を追加してくれれば、オーケーという温かいお言葉をいただき、こうして上梓するまでにこぎつけた。衷心より感謝したい。
●認知心理学と学習心理学
さて、その認知心理学と学習心理学である。
20世紀前半は、少なくとも現在のような認知心理学は存在しなかった。また、学習心理学は、もっぱら動物を使った学習実験が中心であった。
20世紀後半になって、認知科学が登場し、2つの心理学の領域は、急速に接近し、「知とその形成の特性を探る」という新たな目標の中に統合され、認知心理学として新しい心理学の領域が形成されたのである。
それでも、現在、学習心理学は、依然として、たとえば、大学のカリキュラムの中に存在し、こうした心理学のシリーズの1冊として刊行されるのは、一つには、学習心理学では、知の発達的な形成に力点を置く、2つには、教育による知の陶冶のほうにより強い関心を向けているからである。もちろん、ほぼ1世紀にわたる、行動主義的な学習心理学が蓄積してきた膨大な知見の継承ということもある。
● 知の研究の現場で半世紀
「はじめに」でも述べたが、こうした認知心理学の研究の現場で、研究者としての40余年のキャリアを積んできた。認知科学も認知心理学も、自分が研究者として足を踏み出すほんの10年前に誕生したばかりであったのだから、
こんな幸運なことはなかった。(ちなみに、認知科学の誕生は、H.ガードナーによると、1956年9月11日になる。)
次から次へと新しい概念が案出され、実験による新知見が報告され、それまでに自分が受けてきた心理学は一体なんだったのか、という思いにかられたこともしばしばだった。クーンの言うパラダイムシフトを肌で感ずることができた。
そんな中での一人の研究者としての体験は、まさに、知を使って知の研究をするという入れ子構造になっていたわけである。そろそろ研究の現場から離れる時がきている今、その入れ子を引き剥がして、自分の心、あるいは心についてわかってきたことを紹介する形で、本書を構想してみたという次第である。
●不安はある
果たして、こんな構想のもとで書かれた内容がおおかたの読者をひきつけるのであろうか。不安である。
可能な限り、認知心理学、学習心理学の関連知識には触れてきたつもりである。それが、個人的な体験の中に埋もれてしまわないように、専門用語には色をつけ、コラムを多用し、章末には、「認知と学習の心理学への橋渡し」のガイドも付けてみた。
テキストに従った体系的な学びも大事であるが、本書の内容のような具体的なエピソードとからめた学びもあってよい。そこから体系的な知識のネットワークにアクセスすることもあるからである。ぜひ、本書で触発された知的好奇心を専門書へと発展的に展開してほしいものである。
● 謝辞
本書の編集である森正・創価大学教授には、査読も含めて貴重な示唆をいただいた。
また、培風館の小林氏には、編集作業で多大のお世話になった。
ここに感謝の意を表します。
写真 我が家の椿、満開