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●記憶情報の書き換え(editing
of memory)
過去の記憶を思い出すときに行なわれる記憶情報は微妙に編集・歪曲されることがしばしばあるが、D.シャクターによると、それには5種類あるとされる。「調和的編集」は、現在の自分の考えや感情と調和するように思い出すこと。
「変化編集」は、自分が変化した方向にふさわしいように思い出すこと。
「後智恵編集」は、結果がわかってしまった今にふさわしいように過去を思い出すこと。
「利己的編集」は、自分に都合のいいように思い出すこと。「ステレオタイプ編集」は、世間一般の考えに合わせて思い出すこと。
◆記憶の状態依存性(state-dependency of memory)
酒を飲んだときに覚えたことは酒を飲んだときに最もよく思い出す。かぐわしい香りとともに覚えたことはその香りをかぐとよく思い出せる(プルースト効果)。このように、なんらかの特有の生理的・心理的な状態と想起とが密接に関連していることを記憶の状態依存性とよぶ。気分に一致する情報がよく記憶される気分一致効果はよく知られている。また、文脈依存記憶(context-dependency)もこれに似ている。例えば、ある教室で覚えたことは、その教室で最もよく想起できる。いずれも、覚えたときに無意識のうちに符号化した身体内部と外部のエピソード情報が、想起の手掛かりになっている(符号化特定性原理)。
◆既視感/未視感(d#j# vu 仏/jamais vu 仏)
記憶の誤りには、実際に起こったことを歪曲、潤色、加工する誤謬記憶と、実際には起こらなかったことが起こったかのように思い出す偽記憶(現実性識別の混乱ともいう)がある。既視感(デジャ・ブー)、未視感は、この偽記憶の典型例である。はじめての場所や光景を見たときに、かつて見たことがあるとの思いにとらわれるのが既視感(既知感ともいう)、その反対に、よく知っているのにはじめてと感じるのが未視感である。既視感については、現実の一部と長期記憶に貯蔵されているスキーマ(知識のまとまり)の一部との部分的な照合が、スキーマ全体を強く活性化したことによって起こったものと思われる。病的になると、精神分裂病者は妄想や空想虚言(願望を真実と思い込む)と区別がつかなくなる(→「短期記憶/長期記憶」)。
◆共感(empathy)
「あたかも、花子になったように」花子の気持ちや心理を自分で感じとれること。
不安や悲しみなどの感情的な体験を共感できる情緒的共感性だけでなく、相手の視点から物事をみることができたり(視点取得)、相手の知の世界に思いをはせられる知的共感性もある。
● 共感(empathy)
他者と感情や物の見方を共有すること。前者を感情的共感性、後者を認知的共感性という。
他者の深い理解には、共感が必須であるが、強い感情移入による感情的な共感だけだと、福祉ケアーの現場などでは、かえって状況を悪化させてしまうことがある。相手の視点を取り込んで(視点取得)、相手の見方から状況を把握する覚めた認知的共感性も大事である。
◆共時性(synchronicity)
自然に起こる現象も人間に起こる現象も、因果的に説明することが、現代科学のドグマである。しかし、人間の日常的な体験として、「会いたいとふと思った人に偶然町中で出会った」とか「予兆したことが実現した」といったことがあることも確かである。このように、ある心的な状態と外部の出来事とが、あたかも因果的な関係があるかのように、共に起こる(意味をなす)ことを共時性という。C・G・ユング(Jung)の提唱した概念で、共時性の認識の成立が、心的疾患に悩む患者の態度を好ましい方向に変化させることがあるとしている。