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04/2/25海保 111112222233333444445555566666 30文字 267行で 原稿用紙二十枚
朝倉「認知心理学」
1章「認知心理学の潮流」
1.1 認知心理学と認知科学
認知科学は、「機械(コンピュータ)、動物、
人の知の世界を包括的に研究する科学」である。したがって、既存の学問が寄せ集まった新たな学際的な研究領域を形成することになるが、その中でも、認知心理学は、言語学とともに認知科学の主要な一分野として、もっぱら人の知に焦点を当てて研究をしてきた。 **図1 認知科学を構成する領域 認知科学が誕生したとされるアメリカ・MITでのシンポジウムが開催された1956年9月以来、認知科学と認知心理学とはお互いに強く影響しあいながら、半世紀間にわたり、知の研究をおこなってきた。したがって、本章で認知心理学の潮流を考えるに当たり、認知科学のそれとをだぶらせながら、論じていくことなる。 なお、研究対象に加えて両者の違いは、方法論にあることも、ここであらかじめ指摘しておく。 認知科学は、コンピュータ上でシミュレーションできる論理・計算モデルの構築を志向するのに対して、認知心理学は、経験データに基づいた現象の記述と説明モデルの構築を志向する。
1.2 1956年の認知科学誕生への地ならし 認知科学が生み出された直接のきっかけは、1937年のコンピュータの開発である。コンピュータがみせる知的機能の可能性に対して、既存の諸学問が注目し寄り集まって認知科学と呼ばれる新たな学問領域が作り出されたのである。 そこで生まれたのが、認知心理学である。それは、本章で紹介するような「新生」認知心理学と呼ぶにふさわしい新たな研究パラダイムのもとでの知見が蓄積されることになるが、そこに至るまでにも、地ならし的な役割を果たしてきた心理学の歴史がある。 「新生」認知心理学の本題に入る前に、そうした心理学を、方法論と知見とに分けて点描しておく。
●方法論的な地ならし 方法論的な地ならしとしてまず最初に挙げておくべき心理学は、近代心理学の祖・W.ブント、(Wundt;1832-1920)およびその後継者・E.B.ティッチナー(Titchener;1867-1927)の内観心理学であろう。心の中をのぞき込むこと(内観)で得られデータから心理学を構築しようと試みたが、これは、新生認知心理学の一つの有力な技法として使われることになるプロトコル分析(発話思考法)の誕生への地ならしとなっているからである。 しかしながら、20世紀前半の心理学は、内観心理学からは大きく軌道修正することになる。 I.パブロフ(Pavlov;1849-1936)の条件づけの研究に触発された、J.B.ワトソン(1878-1958 )のよる「急進的」行動主義が支配的となってくるからである。 内観を排除し、観察可能な刺激(S)と反応(R)との関係を定めることにだけ心理学の方法論を厳しく限定することで、心理学を自然科学なみの科学にしようと試みた。この流れは、B.F.スキナー(1904-1990)にまで続くが、その間1930年代に、新行動主義への動きがあり、それが、新生認知心理学への方法論的な基盤を提供することになる。 その一人がE.C.トールマン(Tolman;1886-1959)である。彼は、生体に内在する目的志向性に着眼して、それを達成するための手段ー目的関係からなる認知地図が頭の中にできあがることをもって学習の成立とする認知論的な概念を提唱した。 また、C.L.ハル(Hull;1884-1952)は、刺激と行動の間をつなぐ媒介変数を仮定し、それらを駆使した仮説演繹的モデル構築の方法論を提案した、 両者ともに、S-R関係だけに限定する急進的な行動主義心理学の限界に気づいて、S-「O」ーR関係を想定することで、「心のある」心理学の構築をめざした。これは、まぎれもなく、新生認知心理学のパラダイムそのものであった。
●認知研究の灯火を掲げ続けてきた心理学者 行動主義全盛の中にあっても、認知研究の灯火を掲げていた心理学者がいた。活躍した時期の順番に簡単にその功績を眺めておく。 「S.フロイト(Freud;1856-1939)の精神分析」 フロイトの精神分析は、情意領域にかかわる理論と臨床実践の学であるが、認知心理学にも陰に陽に影響を与えている。 たとえば、不快な記憶は抑圧されるとする記憶の抑圧説は、日常記憶研究では品を変え形を変えて取り上げられている。あるいは、意識・前意識・無意識からなる心の3層モデルは、そのまま認知領域のモデルとしても使われている。 「ゲシュタルト心理学」 ブントとフロイトが、因果関係の定立を追及する自然科学を強く意識した心理学の構築をめざしたのに対して、20世紀初頭に生まれたゲシュタルト心理学は、実験室の中で起こす心的現象や行為そのものの中に観察できる特性の分析をおこなうという実験現象学的方法を駆使して多くの興味深い現象を発見した。 その分析の観点として提案した「全体は部分の総和以上のもの」とするゲシュタルト原理は、自然科学における支配的な原理である「分析による統合」原理とは違った原理による心の世界の特性を示した点で画期的であった。 さらに、ゲシュタルト心理学者・W.ケーラー(Kohler;1881-1967)は、心脳同型説(isomorphism)を提案し、心にかかわる現象のゲシュタルト性と同型なものが脳にもあるとして、心的現象の脳基盤にも関心を向けた点は、認知脳科学の先鞭をつけたものとして忘れることはできない。 「F.バートレット(Bartlett;1886-1979)」 他と比較するとその業績はやや限定的ではあるが、.バートレットも挙げておく必要がある。彼は、新生認知心理学のキーワードともなるスキーマ(図式)を使って記憶の変容を説明しようと試みたからである(1932)。 「J.ピアジェ(Piage;1896-1980)の認知発達心理学」 フロイトが提案する情意領域の発達段階説とともによく知られているのが、ピアジェの認知発達の段階説である。1955年には「発生的認識論研究所」を設立して、子どもの認知発達を、学問の進化の歴史になぞらえて考える壮大な構想を提唱した。子どもの行動を観察することを通して、その背後にある認知の世界の特質を解き明かしてみせた功績は大きい。
1.3 表象、記号計算、汎用人工知能 見出しに使った3つの用語は、認知科学の初期段階(60年代、70年代)を特徴づけるキーワードである。コンピュータの知的機能を記号システムの論理・計算処理とみなし、人間の知的機能をどこまでコンピュータ上で実現できるか、すなわち汎用人工知能(AI; Artificial Intelligence)の可能性を模索することから、認知科学の研究が始まったのである(たとえば、Newell and SimonによるLogic Theorist(1956),一般問題解決器の開発(1960年代))。 しかし、心理学の側には、前述したような地ならし的なものはあったものの、行動主義全盛の中にあったため、こうした認知科学のねらいに直接役立つ知見は皆無だった。ただ、次の3人の仕事は、認知科学に触発されて急速に展開される認知心理学の土台となった。 ・ブロードベントによる(Broadbent)注意に関する情報処 理モデル(1954) ・ミラー(Miller)の短期記憶容量に関する魔法の数7をめぐる 論文(1956) ・ブルーナーら(Bruner)の概念達成における認知方略の研 (1956)。 まずは、人間の知的機能をコンピュータのそれになぞらえて考えていこうとする情報処理論的なアプローチの採用である。包括的な枠組の提案は、1967年になるが、3つの画期的な研究が60年代前半におこなわれている。 一つは、ミラーの研究の流れを受け継いだスパーリング(Sperling、1960) の研究である。視覚的な情報の瞬間的な貯蔵が魔法の数7をはるかに越えることを部分報告法を使って明らかにした。 2つは、スタンバーグ(Sternberg,S. 1966)の研究である。記憶情報の検索が系列悉皆的であることを、巧みな実験で実証した。 3つは、ブロードベントの注意研究を踏まえて行われたトリースマン(Treisman、1964) の注意研究である。両耳分離聴という方法を使っていくつかの興味深い注意現象とモデルを提案した。 こうした研究は、1967年の発刊されたナイサー(Neisser)の書籍「認知心理学」と、1968年に提案されたアトキンソンとシフリン(Atkinson and Shiffrin)の3貯蔵庫モデル(図2)の中に取り込まれて、人間の知的機能を、情報処理論的に解明していく試みへの里程標となった。 ***図2 3貯蔵庫モデル 別添 pp なし 70年代は、情報処理論的パラダイムに従った研究が盛大におこなわれた。ここでの研究は、認知科学から投げかけられたもう一つの問題に取り組んだものが多い。 それは、人間の知識表象にかかわる問題である。 人工知能を実現するためには、コンピュータの中になんらかの知識表象を埋め込まなければならない。そのためのモデル(表現形式) が開発され、それが人間の知識表象のモデルにもなりうるかどうか(心理的実在)の検証が求められたのである。 たとえば、そのはしりとなった研究を一つ挙げれば、コリンズとキリアン(Collins and Quillian, 1969 )の研究がある。知識表象の表現モデルとして、階層的意味ネットワークを仮定し、知識要素の検索時間が、そのネットワークでのノード間の距離に比例することを示した。 人工知能に実装されたやや大きな知識単位のものとしては、スクリプト(R.C.Schank & R.P.Abelson 1977)、フレーム(M.Minsky;1975)が 知られている。 これらの研究は、知識表象の表現の心理的実在性の論議を越えて、情報処理の中でそれらがどのように運用されるか(運用論)にまで発展して、バートレットのスキーマ理論の復活と言う形で、認知心理学の支配的な理論となり、アンダーソン(Anderson 、1983 )のACT*(Active Control of Thought)という包括的なモデルへと収斂していった。 このモデルでは、ネットワーク表現される宣言的知識と、条件照合と実行(If-then)の連鎖(プロダクション・システム)で表現される手続的知識とによって支えられる作業記憶での情報処理として人間の認知活動を包括的にシミュレーションすることに成功している。 **図4 ACT*の概念図 別添pp
1.4 領域固有性、状況 行動型ロボット 見出しの3つの用語は、認知科学、認知心理学の成熟期1980年代のキーワードである。 1970年代情報処理パラダイム全盛の中でも、人間の認知には、計算合理性ではとらえることのできない世界があることを示す研究が心理学者の側から散発的にではあるが、提出されるようになってきた。 その一つは、思考の領域固有性である。論理的にはまったく同じ課題であっても、問題の表現を慣れ親しんだ日常的な場面に移すと正解できるようになる現象である。もっぱら、ウエイソンとジョンソンーレアード(Wason & Johnson-Laird 、1972)の4枚カード問題をめぐって一連の研究がおこなわれた。 領域固有性は、その後、認知エキスパート研究においても広く検証されることになり、領域普遍な計算合理性を基本テーゼとしておこなわれてきた初期認知科学への強烈な一撃となった。 **図3 別添pp 1980年代になると、カーネマンとツバルスキー(Kahneman & Tversky1982)による社会的判断における固有のバイアス(ヒューリスティックス)の研究成果が公表されるようになると、この流れは勢いを増し、認知心理学の新たなパラダイムとして、状況的認知論を形成するまでになった。レイブとウエンガー( Lave &Wenger,1991)の認知エキスパートに関する仕事は、その集大成とも言えるものである。 状況的認知論では、人間の認知を頭の外とのやりとりで捉え直す動きを作り出し、それは、必然的に、実験室的な認知から日常的な認知へと関心を向けさせることにもなった(たとえば、Neiser、 1982 )。 人工知能も、こうした動きと呼応するかのごとく、ブルックス(B rooks、1986)が サブサンプション(包摂; subsumption)・アーキテクチャーと呼ばれる設計思想に基づいた行動型AIを開発した。センサーで駆動される複数のエージェント間の実行の優先順位に従って環境中を適応的に動き回る昆虫のようなロボットが開発されたのである。 一方、1980年代中頃、もう一つの注目すべき動きが出てきた。それは、ラメルハートとマクレランド(Rumelhart and McClelland、1986)にはじまる並列分散処理(Parallel Distributed Proccessing)モデルである。さまざまな認知機能を脳の神経結合モデルとしてコンピュータ上で実現する、まったく新たな試みが爆発的に研究がおこなわれた。 1.5 認知心理学の新たな展開 これまでのように1990年代の認知科学、認知心理学を特徴づけるキーワードを3つ挙げるとすれば、身体、脳神経、ヒューマノイドとなろう。 状況的認知論の発展として、状況と頭の中の知識世界とのインタフェースとしての身体の役割への関心も高まり、それほど大きな流れではないが、アフォーダンス理論(Norman,1988)、あるいは、活動理論( Engstrom,1987)として新たな展開をみせている。1999年には、プファイファーとシェイヤー( Pfeifer & Scheier)によって身体性認知科学( embodied cognitve psychology)なる大著も出版された。 また、fMRI、PETなどの非侵襲の脳計測技術の進歩によって、認知活動と脳神経機能との対応がオンラインで計測できるようになり、一気に研究が加速された。 そして、人工知能研究も、その最終の目標である鉄腕アトムの製作の第一段階とも言えるヒューマノイド(人間の形をした)・ロボットの原型(ホンダのASIMO、2000)が開発され、現在でも進化を続けている。
参考文献
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