天網恢恢疎にして漏らさず

映画レビューを中心に(基本ネタバレバレです)スキーやグルメ他、日々どうでもいいような事をダラダラと綴っています。

【映画】「川っぺりムコリッタ」@54作目

2022年09月23日 | 映画感想
「川っぺりムコリッタ」

かつて『かもめ食堂』で「なにもおこらない系(またはマッタリ系)ブーム」を巻き起こした荻上直子氏が脚本&監督で制作された最新作。制作年は2021年でクレジットされていますがコロナの影響でどうやら劇場公開が今年に延びた模様。本作公開に合わせて脚本をノベライズ化して発表しているようです(ノベライズ未読です)
タイトルの「ムコリッタ」とは漢字で「牟呼栗多」と表記する仏教用語だそうで時間の単位を表し「1牟呼栗多=1/30日=2880秒=48分」の事を言うそうで、まあ意味合いとしては「しばらくの間」とか「少しの間」くらいの感覚を指すようです。

あらすじ
できるだけ人と関わらずに生きたいと思い、北陸の小さな街にある塩辛工場で働くことにした青年・山田(松山ケンイチ)。工場の社長からハイツムコリッタという古い安アパートを紹介されて住み始めた彼は、風呂上がりに飲む冷えた牛乳をささやかな楽しみにする静かな毎日を送る。そんな中、隣人の島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと部屋に上がりこんでくる。それを機に島田との間に友情のような感情が芽生え、ほかの住人とも触れ合うようになるが、北陸にやってきた理由を島田に知られてしまう。(Yahoo!Movieから丸パク)

さて、そんなこんなで…またしてもゆるーい感じのヒューマンドラマなんだろうなーと当たりを付けて鑑賞した訳ですが、テーマは案外ヘヴィーなヤツだった(滝汗)
そもそもが↑上の「あらすじ」に表記されているけど、主人公の山田は何故【できるだけ人と関わらずに生きたい】と思って北陸の小さな街にやって来たのか、ですわね。
いきなり冒頭でイカの塩辛工場の社長から肩を叩かれながら「ココで地道にコツコツ頑張れば更生出来る」って言われていて「ん!」となりますわなw
まあ、そーゆー事で、社長に紹介された「ハイツムコリッタ」に入居した山田は誰とも関わらずヒッソリと生きていこうとしているんだけど、そこにミニマリストを自称する(ただの貧乏)隣人・島田がズカズカ上がり込んできて風呂は勝手に使うは飯は食い散らかすはのやりたい放題やられるんだけど…それが不思議とイヤじゃないんだよね。

ハイツムコリッタの住民達はみんなそこそこ貧乏で、みんなそこそこ孤独なんだけど、孤独な者同士が顔を合わせれば挨拶もして、庭の小さな家庭菜園を手伝って、収穫した野菜と工場で貰ったイカの塩辛を出し合って一緒に食事をすれば、独りぼっちよりも絶対にご飯は美味しくなる。
荻上直子氏の作品は実に食べ物が美味しそうに描写されていると思いますね(かもめ食堂然り)、本作もイカの塩辛と白いご飯最強だな!って思いましたわw
あと同じハイツに住む溝口さんちにみんなで集まってすき焼き食べてるシーンとか良かったな。山田が出会った幽霊のお婆さん(ムコリッタの別部屋で数年前に亡くなった住人)の事を懐かしそうにみんなが語っていて、大家さんがサラッと「今度会ったら私のトコロにも出て来て欲しいって言っておいて!」とか言ってて笑う^^;

そう、本作は「(孤独)死」にまつわるエピソードが中心になっていて、山田の父親が孤独死して遺体を役所が引き取って荼毘に付したという連絡が来る。
山田にとっては4歳の時に両親が離婚していて父親に関しては顔すら記憶にないレベルで、正直役所から連絡貰ったからってほぼ縁もゆかりもない父親の遺骨なんて…てな感じなんだけど、隣人の島田に「それはダメだよ!ちゃんと弔ってあげなくちゃ」と諭されて引き取りに行くんですね。
まあこの辺りから山田と隣人の島田は急速に距離が縮まって行く感じなんですが、本作の登場人物はみんな「死」になにがしかの関わりがあって、主人公の山田は父親の孤独死と直面しているし、先程登場したスキヤキを一緒に食べた溝口さんは墓石を売る仕事をしている。大家さんは未亡人で旦那さんを癌で亡くしているし、隣人の島田はポロリと「僕にも子供(息子)がいたんだ…今はもういないけど」と漏らすシーンがある。何か語りにくい過去があるようだけどこの件に関してはこの会話のシーンだけで終わって掘り下げはなかったけど、とにかく全てが「死」に繋がる何かを纏っていた。因みに島田の幼馴染みは寺の坊主だしね…徹底して「死」がテーマになっていましたね。

基本的には主人公の山田はイカの塩辛工場で働いて、家庭菜園やって、お風呂入ってご飯食べて~のルーティーンのシーンの繰り返しなんだけど、少しずつ少しずつ山田が他人と関わりを持つ事に喜びを見出していくのと同時に「こんな自分が生きていていいんだろうか」という葛藤(いわゆる親ガチャ失敗人生だという自覚がある)と、そして自分の父親はもしかしたら自殺したんじゃなかろうか(孤独に耐えられなかったのだろうか・自分も父親と同じ道を辿るのではないか)という漠然とした不安感に苛まれて父親が生前最後に電話していた(携帯の履歴)「いのちの電話」に掛けてみたりして…でも主人公がジタバタしながらも半ば無理矢理だけどムコリッタに集う住人達と関わっていく内に、少しずつ生きる力を得ていく姿にとても癒される感覚がありました。

この作りでこのテーマは…もしかしたら10~30代位の若者にはあまりピンと来ないかもしれないですね。若干グロいシーンもありましたし。
ですが、自分の年代になるとこういう作品ってなんだかジーンと心に沁みますね。ノスタルジック~とかそういうのじゃないんだな。もっと身につまされる感じだな。

そうそう…蛇足ですが、大家さん(満島ひかりさん)が亡き夫の遺骨に口づけして骨を齧るシーンがあるんですが…自分の旦那の祖父も生前自分の奥さん(旦那の祖母・早世している)の遺骨を少しずつ骨壺から取り出してはポリポリと齧っていたそうで、結局納骨せずに全部食べ切ったそうだ!
本作では樹木葬だったり、かつて花火師だったというタクシーの運ちゃんは「奥さんの骨を火薬と混ぜて花火にして打ち上げた」と言っていたし、色んな形の「お弔い」の形を見せていました。自分もよく旦那に「もし私が先に死んだら海に散骨して欲しい」と頼んでいるんだけど…本当に「終活」真面目に考えないとなーと改めて思わされましたね。
コメント
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