Vol.06「二枚のドガの絵」はこちら。
原題は“Lady in Waiting”(待っている淑女)。まったく、そのとおりのストーリーなのである。
ベス・チャドウィック(スーザン・クラーク)は、保護者である厳格な兄から、恋人との交際を反対されていた。「彼は野心的すぎる」というのだ。妹と別れるように、との手紙を兄が恋人に送ったことを知ったベスは、兄の殺害を決意する。
彼女の計画はこうだ。兄の鍵を盗み、使用人たちがいない夜をねらい、玄関の照明を切らしておいて自分の部屋の窓から兄が入ってくるように誘導する。“侵入者だと思い”射殺して悲嘆にくれたふりを……もちろんこの計画はずさんすぎるために早々に破綻する。家の主人である兄がスペアキーをもっていないはずがないので、彼は悠々と玄関から入ってくる。その日の最終版の夕刊をもって(ここから、コロンボの推理がはじまる)。
しかしこの妹は、計画の変更を余儀なくされたはずなのに強引に(室内で)兄を射殺し、家業である広告代理店の経営の実権までにぎる。
彼女の経営方針がまたむちゃなのだ。
・愛人を副社長にすえ
・給料は能力給に変更
・商品よりも自社を売り込むことを強要し
・自分の方針にしたがえない場合は退社を迫る
……経営者がやってはいけないことのオンパレード。でも彼女は自信満々だ。兄の抑圧からはなれ、思い通りに生活することをさんざん“待っていた”のだから。
「マンハッタン無宿」などでセクシーなところを見せたスーザン・クラークが、兄の帰宅をベッドの上でクッキーをほおばりながら待つ邪悪な(そして愚かな)妹を演じている。コロンボは彼女の犯罪を暴くと同時に、むしろ憐れんでもいる。恋人役はレスリー・ニールセン。後年の彼のように、目を白黒させたギャグ演技にいつ走るのかとハラハラしどおしでした(笑)。
Vol.08「死の方程式」につづく。