亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。
絶対に成就しないラブストーリー。真に邪悪な存在とはなにかを、こんなフォーマットにのせて語るんだから米澤穂信の底意地はかなり悪い。
自分がもし存在していなかったら、もっと世界は善いものになっているのではないか?とは青春時代だけに許される根元的な疑問。自分が世の中の隘路(ボトルネック)なのではないかという思いこみは誰でもおぼえがあるはず。でも、そこから大人になるまではほんの短い距離なんだけどな。
さて、これで彼のオトナ向け作品は全部読んだことになるのか。え?新作が出てる?おーし。