原作:小泉八雲
脚本:水木洋子
監督:小林正樹
撮影:宮島義勇
音楽:武満 徹
小林正樹ってすごい。有名な(有名すぎる)「怪談」を、映画界では傍流である新劇人を数多く起用し、アヴァンギャルドな美術を駆使して重厚な作品に仕立てている。あまりに前衛的なことも災いしてか、興行的には苦戦したようだし、評論家うけもよくなかったようだ。しかし、巨匠の本気ぶりに圧倒される思い。
この作品は四篇からなる。
「黒髪」
糟糠の妻(新珠三千代)を捨てて出世のために入り婿となって東へ下る男(三国連太郎)。しかし新しい妻(渡辺美佐子)の冷たさもあって黒髪豊かな前妻への思いはつのり、ふたたび都へ帰ってくるとそこには……。男のわがままと女の献身が壮絶な悲劇を呼ぶ。憎悪の鶴の恩返しというか浦島太郎地獄版というか。乾いて埃っぽい陋屋のセットがすごい。そこにたたえられた水の黒さ。
「雪女」
これほど有名な怪談もなかろうけれど、その美しさゆえに雪女(岸恵子)が殺すにしのびなかった少年を仲代達矢、ってのは当時から無理があったんじゃないかなあ。なぜ秘密を守れなかったのかと激昂する雪女よりも、いつまでもいつまでも歳をとらない働き者の美しい妻という存在が静かに怖い。
「耳無し芳一」
中村賀津雄のジャンキーぶりがすばらしい。考えてみれば悪霊から守るために般若心経を身体中に書き記すというのは映像的にもたまらない設定(耳だけ書き忘れるおとぼけぶりも)。しかし夜な夜な訪れる悪霊が、壇ノ浦の死者たち(義経が林与一、建礼門院が村松英子)だったとは知りませんでした。そして、こんな残酷なお話がハッピーエンドだったなんて。
「茶碗の中」
人間の魂を飲み込んでしまった男に何が起るか。四篇のなかでもっとも怖い。演ずる中村翫右衛門の、いかにも食えない感じがいいし、ストーリーがなにしろ理不尽なあたりも普遍性がある。佐藤慶、天本英世が歌舞伎界の重鎮に挑む構図。そしてこの話のオチがうまい。滝沢修と杉村春子と中村鴈治郎が……
正直、女優見たさにレンタルしたんだけど「黒髪」の新珠三千代と「雪女」の岸恵子の美しさには震えが来る。大画面で見るべきだったなあ。