井上ひさし原作の縁切り寺のお話。監督の原田眞人は、前にもお伝えしたと思うけれども
「どうしたらこんなに面白く書けるのか」
とまで言われた伝説の映画評論家だった。彼の著作「ハリウッド映画特急」は、三十年も前の本なのに、いまだにわたしの本棚で現役です。
評論家出身であることで、むしろ評論家受けが悪かった原田だけれど「盗写1/250秒」(日テレの火曜サスペンス劇場で放映されたもの。すばらしいドラマだった。どっかでソフト化してくれないか)、「バウンスkoGALS」「クライマーズ・ハイ」など、わたし好みのラインナップ。
彼の映画原体験は、子どものころに母親に連れられて観た「七人の侍」の撮影現場。だから、初めて本格的な時代劇を撮る歓びに満ち溢れている。特に、舞台となった寺の美しさと、奢侈禁止令によって駆逐されていく江戸の耽美さは圧倒的だ。
役者たちがまたすばらしい。縁切り志望の大勢の女性たちに囲まれ、しかし微塵もセックスを感じさせない戯作者志望の男、こんな役は大泉洋しかできないに決まっている。あまたある彼の作品の中で、今回が最高の演技だと確言できる。
戸田恵梨香(彼女がお寺でお習字をしているのを見ると、いきなり半紙をひきちぎるのではないかとハラハラします)、眉毛をそり落としてクールな満島ひかりがいいのは当然として、彼らを囲む役者たちが渋い。心に傷を負った女性たちに、時に冷たく、時に優しく対応する御用宿のキムラ緑子、木場勝己、そして樹木希林。味のかたまりって感じですかね。
わたしはまったく知らない女優だったのだけれど、宝塚出身の陽月華が寺の院台を演じていて、これがいいんですよ。薄幸な女性たちを救う存在なのに、高貴な生まれなものだから、ちょいとわがままな感じが随所に出てくるという複雑な役(それ以上に彼女は大きな秘密を抱えている)、陽月華はそのあたりを絶妙に。
くわえて、庶民から楽しみを奪うことでしか改革を遂行できない水野忠邦と鳥居耀蔵という悪役を、中村育二と北村有紀哉が憎々しげに演じていてこれもいい。ああもうきりがないな。実はこの映画が傑作たりえたのは、別の部分もあったからだ。以下次号。