あの伊坂幸太郎とあの阿部和重の合作。ぴったりのような気もするし、水と油のような気もする。一章ずつ交代で書き進めるというルールだったらしい。そりゃ、完成まで4年もかかるはずだ。マルティン・ベックのシリーズを書いたおしどり夫婦、マイ・シューバルとペール・ヴァールーも確かこのやり方だったと思う。
この突拍子もないフレーズが出てくる章は伊坂のパートかな、キャラが暴走を始めるからここは阿部かな、と予想しながら読んでいたけれど、そんなことは途中からどうでもよくなる。とにかくひたすら面白いから。
東京大空襲の際に、なぜか編隊から離れたB29が蔵王上空に現れ、細菌兵器を使用したために現在では五色沼は立ち入り禁止になっている。しかしそこでは戦隊ヒーロー映画が撮られていて……な破天荒きわまりないストーリー。
仙台(在住)の伊坂と山形(出身)の阿部が、県境の蔵王を舞台にした冒険物語を書いてくれただけでうれしい。山形県民としては、ああこれはあの道路だな、ここはあの映画館がモデルかなといちいち納得。そうか、都会の連中はいつもこんな読み方で楽しむことができるんだとちょっとくやしい(笑)。
大活躍する犬の名がポンセ、主人公たちがこだわる映画がクリント・イーストウッドとジェフ・ブリッジスの「サンダーボルト」(この映画のストーリーを換骨奪胎したのがこの小説だともいえる)という、わたしの世代にとって涙涙のネタが満載。あれ?伊坂と阿部ってわたしよりずっと年下のはずなのに!