ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

マダラナニワトンボの連結飛翔と産卵

2024-10-19 23:00:37 | トンボ/アカネ属

 マダラナニワトンボの連結飛翔と産卵の撮影を行った。

 マダラナニワトンボ Sympetrum maculatum Oguma, 1915 は、トンボ科(Family Libellulidae)アカネ属(Genus Sympetrum)で、体長32~38mm程度、黒色に淡黄色斑を有し。成熟しても赤くならない黒味の強い赤とんぼである。
 日本固有種で、平地から丘陵地の抽水植物が繁茂し、遠浅で開放的な樹林に囲まれた水質のよい池沼などに生息しているが、全国的に姿を消している。環境省版レッドリスト2020では絶滅危惧ⅠB類(EN)として記載され、都道府県版レッドリストにおいては、16の府県で絶滅危惧種としている。2000年頃では本州および四国の香川県に分布し産地が点在していたが、京都、大阪、岡山、広島では絶滅し、2015年に確認された生息地は、山形県(一か所)、福島県(一か所)、新潟県(六か所)、石川県(四か所)、岐阜県(三か所)、愛知県(一か所)、兵庫県(一か所)となっている。
  池沼の埋め立てと水質悪化、ため池の管理形態の変化などが減少要因として挙げられるが、近年水田のアカネ属の減少要因の一つとしてクローズアップされてきたネオニコチノイド系農薬も絶滅・減少要因であることが示唆されている。

 マダラナニワトンボは、7月頃に羽化し、羽化直後は水域を離れ、周辺の樹林で夏を越し、大きな移動は行わずに秋まで生活している。成熟する9月の下旬頃になると水辺に戻ってきて10月にかけて繁殖活動を行う。
 本種は、これまでに2011年10月に福島県(絶滅危惧Ⅰ類)で、続いて2017年10月に新潟県(絶滅危惧Ⅰ類)で撮影しているが、今回7年ぶりに新潟県の生息地を訪れ、生息状況の確認及び連結飛翔と産卵の撮影を行った。
 現地には午前9時前に到着し、池の様子を見ると、7年前よりも池の周囲の草がかなり茂っており、様子がだいぶ変わっていた。天候は晴れで無風。茂みでは、アオイトトンボとコバネアオイトトンボが朝露をまとって止まっている姿が多くみられた。
  10時を過ぎるとキトンボが飛翔をはじめ、しばらくすると連結飛翔と連結打水産卵が観察できたが、マダラナニワトンボは、まだ姿を現さない。11時前になり、やや日差しが暑く感じ始められた頃、 池の周囲の木の枝に止まるマダラナニワトンボのオスを発見。その後、オスは池の上で飛翔を開始した。
 11時を過ぎると、産卵に来たタンデムのカップルでにぎわい始める。池から1m以上離れた乾いた草地の上20cmほどの高さを、何組ものカップルがふわふわと上下動を繰り返しながら連結打空産卵を行うのである。 狭い範囲に10組ほどが集まっていることもある。全体では30~40組ほどであろうか、圧巻の光景であるが、以前は三桁の数が見られた年もあったようだ。
  空中から草地にばらまかれた卵は、そのまま越冬し、雪解けとともに孵化して池に流れていくものと思われる。12時半頃になると、カップルの数が減ってくる。タンデムのまま産卵を終えてオスから離れると、単独で産卵するメスもいるが、産卵後は雌雄ともに樹林に姿を消していく。

 以下には、マダラナニワトンボの連結飛翔と産卵の写真を掲載した。本種は、警戒心があまりなく、目前で何組ものカップが飛翔していたが、300mmの望遠レンズでは数組すべてにピント合わせたフレーミングはできないので、どのペアにピントを合わせるのか迷いながらの撮影。いつものようにマニュアルフォーカスで撮ったが、8月のホソミモリトンボ以来であるから、ジャスピンは多くない。さらに産み落とされた空中の卵まで写し込むのは、まぐれ当たりを願うだけであった。
  この池は、水質の悪化や農薬の散布に関しては心配がないようだが、管理がされていないので草刈りなどもまったく行われない。今後、こうした環境の変化がどのように影響を及ぼすのかは分からないが、放置状態が長く続くのであれば、産卵場所がなくなってしまうかもしれない。この写真が最後にならないことを祈るばかりである。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

マダラナニワトンボの交尾態の写真
マダラナニワトンボの交尾態
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 320(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:24)
マダラナニワトンボの連結飛翔の写真
マダラナニワトンボの連結飛翔
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F11 1/60秒 ISO 100(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:43)
マダラナニワトンボの連結飛翔の写真
マダラナニワトンボの連結飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/160秒 ISO 160(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:27)
マダラナニワトンボの連結飛翔の写真
マダラナニワトンボの連結飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 160(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:20)
マダラナニワトンボの連結飛翔の写真
マダラナニワトンボの連結飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 160(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:20)
マダラナニワトンボの連結飛翔の写真
マダラナニワトンボの連結飛翔
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 320(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:13)
マダラナニワトンボの連結態の写真
マダラナニワトンボの連結態
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 200(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:33)
マダラナニワトンボの連結打空産卵の写真
マダラナニワトンボの連結打空産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 250(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:13)
マダラナニワトンボの連結打空産卵の写真
マダラナニワトンボの連結打空産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/400秒 ISO 200(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:12)
マダラナニワトンボの連結打空産卵の写真
マダラナニワトンボの連結打空産卵
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F6.3 1/500秒 ISO 160(撮影地:新潟県 2024.10.12 11:16)
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滝雲

2024-10-14 15:12:30 | 風景写真/山岳

 滝雲は、新潟県魚沼市の枝折峠(しおりとうげ)で見られる自然現象。“雲”が山々を越え、”滝”のように流れ落ちているように見えることから「滝雲」と呼ばれている。雲海の発生するスポットは全国にいくつもあるが、スケールの大きな滝雲が見られる場所は、枝折峠をおいて他にないと言っても過言ではないだろう。過去には、2022年9月25日に訪れて撮影し「枝折峠の滝雲」として当ブログで紹介しているが、規模が小さく望遠レンズでしか撮っていなかったことから、今回、再び枝折峠を訪れた。

 滝雲は、発生の条件が限られ、いつ訪れても見られるわけではない。湿度が高く、昼夜の温度差が15℃以上と大きく、夜は風のない晴天でなければならない。その条件が合致すると、夜間から明け方に枝折峠の東側にある奥只見湖から銀山平にかけて霧が発生し、深い谷間に霧が溜まり雲海へと成長する。雲海が谷間を埋め尽くすと溢れて山の尾根を越えてくる。それが滝雲である。
 10月12日からの三連休は、天気予報によれば条件に合致し、滝雲が見られるであろうチャンスである。ただし、前日の夜から出発して12日(土)の撮影は避けたい。なぜならば、枝折峠の駐車場は20台ほどしか止められないため18時前には満車となってしまう。つまり、滝雲を撮ろうとする日の前日18時までに枝折峠に到着してないければならないのである。したがって、撮影は13日(日)の朝と決め、12日(土)の早朝5時に自宅を出発した。
 まずはマダラナニワトンボの撮影である。詳細は次の投稿で記すが、現地には8時半頃に到着し、正午過ぎまで撮影。その後、枝折峠へ向かう途中、関越自動車道小出ICからほど近くにある「道の駅ゆのたに」にて遅い昼食。魚沼産コシヒカリの新米で炊いたおにぎりとイワナの塩焼きを頂いた。そして奥只見シルバーラインの長いトンネルを通り、銀山平経由で枝折峠を目指した。
 現地駐車場には15時頃に到着。5~6台ほど止まっていたが、すんなりと駐車することができた。滝雲ではなく越後駒ケ岳の登山客も多く、下山して車に乗り込み帰っていく方々もいるため、数台の入れ替わりがあるものの、17時過ぎには満車となった。
 到着後は、ロケハンである。2年前は、越後駒ケ岳への登山道を20分ほど登ったポイントから撮影したが、滑落しそうな危険な場所であるため、今回は車道沿いから撮ることにし、魚沼市のWebサイトで滝雲の撮影ポイントとして紹介している④に決定した。標高は、およそ1,050mで駐車場から徒歩5分くらいの距離である。カメラマンに人気があり、流れ落ちる滝雲をほぼ正面から見ることができるポイントである。続いて、前記事に掲載したアトラス彗星の撮影ポイントの確認をし、一旦、車内で休憩。17時から彗星の撮影を済ませ、再び車内で待機である。
 コンビニで買ったもので夕食を済ませ、翌午前3時に起床と決め寝始めたが、撮影ポイントのことが気になる。満車の駐車場には、次から次へと車が進入しては切り返して出て行く。その車は、すべて路上駐車である。やはり三連休の中日で条件が良いとなれば人々が集まる。撮影ポイントは車1台半ほどしかないので、三脚が7本も並べば一杯である。そこで、あらかじめ場所取りをしておくことにした。万が一盗まれても良い予備の三脚をガードレールに紐で結わいておいた。先客が1名。三脚ではなく、小さな踏み台がガードレールに括られていた。
 車に戻り寝ようとしたが、深夜でも車が駐車場でUターンするたびにヘッドライトがまぶしく熟睡はできず午前3時。準備を整え3時半に駐車場を出ると、路上には車の列。係員が交通整理をしており、シャトルバスも待機していた。長袖シャツにフリースとウインドブレーカーを着て撮影ポイントに向かうと、予想通りに三脚の列。もう並べる余地はない。三脚を取り換えてカメラをセットし、準備完了。あとは雲海が溢れ出すのを待つだけである。
 上空には薄雲が広がっており、残念ながら星は見えないが、気温11℃で無風。前日の日中は25℃であったから、この差に期待できる。湿度も十分だ。奥只見湖は霧で見えず、徐々に雲海が出来始めていた。空が白々してくると、あふれた雲が稜線を超えて流れ始める。雲海はどんどん成長し、流れる雲も前回を大きく上回る規模で、ナイアガラの滝のような大瀑布である。その光景は、シャッターを切るごとに違っている。まるで生きているかのように流れ落ちる雲。「凄い!」の一言である。日の出前に朝焼けを期待したが、それは欲張りというもの。また、日の出方向には雲が浮いていたため朝日の直射はなく、雲海の大きな色彩変化はなかったが、雲海の奥に雲間から降りた天使の梯子が良い演出をしてくれた。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画は 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

滝雲の写真
滝雲
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F2.8 30秒 ISO 5000 +2EV(撮影地:新潟県魚沼市/枝折峠 2024.10.13 4:46)
滝雲の写真
滝雲
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F8.0 15秒 ISO 100(撮影地:新潟県魚沼市/枝折峠 2024.10.13 5:23)
滝雲の写真
滝雲
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F3.2 25秒 ISO 800 +1 1/3EV(撮影地:新潟県魚沼市/枝折峠 2024.10.13 5:06)
滝雲の写真
滝雲
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F14 15秒 ISO 50 +2/3EV(撮影地:新潟県魚沼市/枝折峠 2024.10.13 5:32)
滝雲の写真
滝雲
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F14 1/20秒 ISO 50 +1EV(撮影地:新潟県魚沼市/枝折峠 2024.10.13 6:25)
滝雲
(動画の再生ボタンをクリックした後、設定設定をクリックした後、画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンに しますと高画質でご覧いただけます)
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紫金山・アトラス彗星

2024-10-13 17:58:43 | 風景写真/星

 紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)は、2023年1月に発見された彗星で、2024年9月27日(世界時。日本時では28日)に近日点を通過し、9月下旬には日の出前の時刻に東の低空で、地球への最接近する10月12日(世界時。日本時では13日)頃は、夕方に西の空の低い位置に見ることができる。
 これまでネオワイズ彗星やZTF彗星、ポン・ブルックス彗星がやってきたが、天候などの理由からまったく撮ることができなかった。唯一、2021年12月にレナード彗星は撮ることができたが、証拠程度のものであり、いつかは美しい彗星を撮りたいと思っていたところ、紫金山・アトラス彗星を撮れるかもしれない大チャンスがやってきたのである。紫金山・アトラス彗星は、約8万年をかけて太陽を回る軌道を一周するとされる。つまり、前回姿を現したのは、現生人類が本格的にアフリカを出る前のことだ。このチャンスは逃したくない。

 9月に就職した仕事の関係で、写真撮影の遠征ができず、ようやくこの三連休は出かけることができるようになった。ホソミモリトンボ以来であるから2か月ぶりである。天気は良好。迷わず予定していた新潟県へ向かった。まずは、マダラナニワトンボの産卵の様子を撮影し、続いて滝雲が見られる枝折峠に移動。(どちらも後日投稿予定)この峠から紫金山・アトラス彗星を撮る計画である。
 現地に到着後、早速ロケハンを開始した。Googleのストリートビューで予め確認はしているが、撮影に最適な場所であるかを実際に現地を歩いて見ておくことが大切である。ここなら大丈夫であろう場所を確かめ、17時過ぎからカメラを向けたが、西北西から北方向の空は快晴であるが、何と紫金山・アトラス彗星が位置する真西方向には厚く黒い雲。低空のわずかな空間には雲がなかったので、そこに掛けるしかない。ただし、薄明が残りかなり明るく、そのうえ空が赤い。撮影は相当難しいものと覚悟を決めた。
 いつまで経っても彗星が確認できない。肉眼では見えない。もう地平線に沈んでしまったのだろうかと諦めかけていると、17時52分に厚い雲の下に彗星を確認。レンズを90mmから300mmに交換して何とかその姿を捉えることができた。やはり、空が明るいため彗星の尾がはっきりとは写らないが、この日、この場所では、これが精いっぱいの画像。今後、彗星の明るさは次第に暗くなっていくが、太陽の方向からは離れていくため、背後の空が暗くなる。次の週末なら背後の明るさと彗星の明るさのバランスがよく綺麗に撮れる最後のチャンス、天気が良ければ再チャレンジしたい。

以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。

紫金山・アトラス彗星の写真
紫金山・アトラス彗星
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1 / 絞り優先AE F3.2 0.6秒 ISO 2500(撮影地:新潟県枝折峠 2024.10.12 17:57)
紫金山・アトラス彗星の写真
紫金山・アトラス彗星
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.0 2秒 ISO 5000(撮影地:新潟県枝折峠 2024.10.12 18:06)
紫金山・アトラス彗星の写真
紫金山・アトラス彗星
Canon EOS 7D / Tokina AT-X 304AF 300mm F4 / 絞り優先AE F4.5 3.2秒 ISO 5000(撮影地:新潟県枝折峠 2024.10.12 18:08)
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